奇跡の治療法
小柄な老婦人がホテルの食堂に入り、苦労してテーブルに向かい、悲鳴をあげて席に着いた。オードブルが来ると声に出して落胆を訴えた。
「どこの温泉町もおんなじですね。いろんなところに行きましたけどね、いつまで経ってもリューマチは治りゃしない。ここの湯治場を絶賛されたから来てみましたんです。一週間のあいだ湯に浸かって、一日十杯は鉱泉を飲んでましたけれど、具合はちっともよくなりません。毎晩毎晩、太った鼠に両膝を耕されたような激しい衝撃で目が覚めるんです。あんな拷問とてもじゃないけど我慢できませんよ。昔は日に十五時間ピアノを弾いたって疲れもしなかったものですけど、今じゃ情けないことに指が動かなくて、フォークを持つのもやっとなんですから。パリのお隣さんたちも悲しんでくれましてね。うっとりするような音が聞こえなくなってから、家がひどく寂しくなったように感じると手紙をくれるんですけれど。いったいどうなるんでしょうねえ? もう二度とよくならないと感じてるんですよ」
ポタージュをよそっていた老婦人は、大粒の涙を皿に落とした。同席していた者たちは誰もが胸を痛めた。老婦人の正面に座っていた中年の男性が口を開き、惻隠の情を示した。
「悲観することはありませんぞ。一週間では治療の効果は現れません。だが根気強く待てばよいのです。奇跡的な快復の証拠をこの目で見たのですから間違いありません」
口を利いている男性は、ざらざらした胡麻塩の髭と、短く刈った濃い髪をしていた。血色のいい顔は健康の表れであり、がっしりとした肩はどんな重い荷物でも運べそうだった。
「ああ、どうか!」老婦人はため息をついた。「もう信じられるのはあなただけです! 治療の効果を信じるからにはそれなりの理由があるんでございましょう? この辺りの気候が健康にいいのかしら?」
老婦人が食べる手を止めて一心に耳をそばだてていることに気をよくして、老紳士は話を続けた。「わたしがこの土地を初めて訪れたときには、体重は二十五キロもありませんでした。手を頭の上にあげるのもやっとでしたし、意味のある言葉を話すこともできませんでした。そのころのわたしにとってスプーンやフォークを持つのが、虫けらに槍を持たせるようなものだったということは、言うまでもないでしょう。ベッドから離れるときには必ず誰かに支えてもらわなくてはなりませんでしたし、そのうえ一日の大半を眠って過ごすようなありさまで、周りの人たちの話すことにもまったく興味が持てませんでした。
「見ての通り現在ではそれなりに髪も生えていますが、この町に来たときには、頭の周りには雀のカツラにするほどの毛もありませんでした。とても身体が弱くて生命力に乏しく、普通の力の四歳児でも、ちょっと押しただけでわたしを倒すことができたでしょう。それがこの町に来た当初のわたしでした。どうか比べて見てください」
老紳士は口を閉じ、控えめな態度で果物皿に胡桃を取り、気持を落ち着かせようとして、それを親指と人差し指でさり気なく砕いた。その証拠を目の当たりにして、老婦人は大喜びした。
「マリアさま! あなたのおかげで希望が持てました。どうか、どうか教えてください。あなたはこの町で何年くらいお過ごしになりますたの?」
「わたしはこの町の生まれなんです」と、男性は簡潔に答えた。