fc2ブログ
翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『ファンタスマゴリア』第二の2 ルイス・キャロル

「さて第三に書かれてるのは
生贄の益を守ること、
その戒めを思い起こせば、
{敬意をもって扱いたまえ、
ゆめゆめ反抗するなかれ}」


「重さを量る数式みたいに
ぼくにもすっきりよくわかる。
ただ願わくば幽霊たちが
君の話したその原則を
{忘れず}覚えていてほしい!」


「たぶん{あなた}は、もてなし方を
間違っちまったようですね。
幽霊たるは本能的に
真心込めて客をもてなし
損ねたお方を嫌います。


「霊に向かって『もの!』と呼んだり
斧をふりかざそうものなら、
王に許しの出ているとおり
{形式的な}会話をやめて――
必ずや罰を与えましょう!


「さて第四は、他霊《たにん》が泊まる
宿を侵したりするなかれ。
罪の宣告受けた奴らは
(王の赦しが出ない限りは)
逃げるひまもなくメッタ斬り。


「つまり『微塵にメッタ斬り』です。
幽霊はすぐによみがえる。
痛みはとんとないも同然――
せいぜいがとこ、これぞいわゆる【せいぜいがとこ、いわくいわゆる】
評論家たちに『メッタ斬り』。


「第五番目は残らずすべて
聞きたいのではと存じます。――
{王を『陛下』とお呼びすること。
これは忠義な廷臣により、
法の要求とするところ。


「だけどまだまだ徹底的に
礼を尽くさんとするのなら、
『わが魔王さま!』とお呼びすること。
答えるときはいつも決まって
『黒王陛下』と応うこと。}


「残念ですが喉がからから、
あんまり話をしすぎかな。
どうですあなた、よろしかったら、
ビールを一つ交わしませんか――
こいつはずいぶん美味しそう。」

スポンサーサイト



『ファンタスマゴリア』第二の1

第二篇
伍原則


「まず始めに」と、彼は始めた、8(7/7)
「謎掛けなどではないですが――7(8/5)
目指す相手(犠牲者)がベッドにいれば、8
枕のそばの帷幕《カーテン》じゃなく、【枕のそばの天幕じゃなく、】8
真ん中の幕を引きなさい、【※訳イマイチ】【真ん中あたりをつまむこと、】7


「手当たりしだい引っ張りながら、
ゆっくりあちこち揺らします。
あっという間に、必ず彼は、
頭を起こしきょろきょろと
不機嫌ながらも不思議顔。


「何よりここでおざなりじゃなく
観察しなけりゃなりません。
開始するのは相手待ちです。
幽霊なんかいるわけないと
誰もが思って口をきく。


「『どうやって来た?』と言われたときは
({あなたと}おんなじタイプです)
そんなときには言うのはひとつ――
これが正しい答え方です
『{蝙蝠《かはほり》に乗りて。怨めしや!}』


「そのあと何も言われなければ、
一番いいのは無駄骨を【要らぬ努力など端折るのが】
端折ることです――ドアを揺すって、【一番でしょう――ドアを揺すって、】
それでイビキをかかれたときは、
縮尻っちゃったってわけですよ。


「昼の日中に一人っきりで――
お家で過ごすか散歩なら――
虚ろな声を出すだけでいい、
声の調子に思いを込めて
話があるぞと言うばかり。


「でも友だちと一緒のときは
ことは果てしなく難しい。
そんな場合にうまくやるには
必要なのはちびた蝋燭、
冷蔵庫にあるバターも良し。


「これを使ってつるりとひとつ
(一番いいのはそりゃ脂)、
すべらせなけりゃならないものに、【何が何でもつるつるにして、】【足のすべりを】
あとは左右に揺れ動くだけ――
こつは簡単に学べます。


「第二の法を教えてくれる
唱えて吟ずる公式は――
『まず青・赤の光を燃やし、
(今夜はまるで忘れてました)、
『次いでドア・壁をかきむしれ』」


「ガイ・フォークスを真似る気ならば、
もう二度と{ここ}に来ちゃだめだ。
床で火をたくつもりはないよ――
ドアをきーきー引っ掻くのなら、
やってるところを見てみたい!」

『ファンタスマゴリア』ルイス・キャロル 第一篇

ファンタスマゴリア【幻灯機/霊幻燈記/幽幻燈記】
ルイス・キャロル


第一篇
出逢ひ


冬の{ある}晩、九時半のこと、8(7/7)
寒くて怠くてむかつくどん底、7(8/8)【寒い怠い不快酷い(6/6)】【怠いしむかつく寒い雨(8/5)寒の雨】
家に戻れど、飯には遅い、8
煙草とワイン、それにおやつが、8
書斎で帰りを待っている。7(8/5)


書斎の中がなんだかおかしい、
なにやら白くて揺らめく何かが、【ゆらりゆらり白いものが】【白い物体が揺らめいて】
暗がりの中、そばにたたずむ――
絨毯用の箒だろうな
うっかり女中の忘れ物。


ところがじきに〈そいつ〉のやつが【ところがじきに件の〈もの〉が】
ぶるぶる震えてくしゃみをしだした。【ぶるる震えくしゃみをした。】【ぶるぶる震えてくしゃみした。】
言ってやったよ、「おいおい君っ!
ちょっと不作法はなはだしいぞ。
できれば静かにしてくれよ!」


「風邪ひいちゃった」〈そいつ〉が言った、【「風邪ひいちゃった」〈もの〉がしゃべった、】【「あんなとこりにたどり着いたら、】【「風邪なんです」と〈もの〉がしゃべった、】
「踊り場のそばにやって来てごらん」【「風邪ひいちゃった」と〈もの〉が言う。】【あそこに上陸した時に】
えっと驚き振り向いたなら、
まさに目の前、真っ正面に、
チビの幽霊が立っていた!


目が合うとすぐ彼は震えて、
椅子の後ろに【椅子の陰に身を潜めた。】【椅子の陰に身をひるがえす。】
「どうやって来た? それにどうして?
こんな照れ屋は初めて見るよ。【こんな内気なもの初めてだ。】
出ておいで! ほら震えないで!」


「来た方法も、理由の方も、
あらいざらい話しましょう。【いっさい残らず話します。】
でも」(と一礼)「お見受けすると
かなり機嫌が悪そうですし、
すべてを嘘だと思われる。


「怖がっている理由について、
ちょいとひとつ話しますと【言わせていただけますならば】
われら幽霊、あらゆる点で
人が闇夜を恐れるように、
明るいところを恐れます」


「君はそんなに臆病だけど
ちょっと下手な言い訳だね。【言い訳にしてはつたないね。】
出たくなったら幽霊は出る、
ところが人は幽霊さんの
たっての見舞いを拒めない」


「怖さのあまり震えますのは
おかしなことじゃありませんでしょ?【おかしなことではないでしょう?】
あなたが悪い人かも知れず。
でも穏やかな方に見えるし、
出てきた理由を申します。


「失礼ながら、家というのは、【失礼ながら、幽霊たちが】【失礼ながら、家というのは】
そこに暮らす多種多様の【暮らしている数によって、】【そこに住んでいる幽霊の】【宿泊している幽霊の】【暮らしております幽霊の】
幽霊ごとに区分けできます。【家というのは区分けできます。】【数にしたがい区分けできます。】【数にしたがい分類します。】
(住人などは、石炭・薪に
負けないくらいに{価値がない})。


「一幽霊が、住むこの家に【幽霊一り、住むこの家に】【去年の夏に越してきたとき、】
去年《こぞ》の夏に、越した時分、【幽霊一体おりまして、】【一幽霊の家でした】
新入居者を迎えるために
力を尽くすその幽霊に【力の限り頑張る霊に】【力を尽くすその物怪Spectreに】【力を尽くす幽鬼のやつに】
気づいていたかもしれません。【もしやお気づきになりました?/お気づきになった/もしやお気づきになったかも】


「邸などでは恒例ですが――
しかしながら安アパート。【ところがどっこい安下宿。】【ところがところが安下宿。】
なにしろ部屋が一つきりだと、
愉快なことも少ないものの、
妥協しなければなりません。


「その幽霊は三度でさらば――【その物怪は三度でさらば――】【当の幽鬼は三度でさらば――】
それから取り憑くものもなし。
言伝すらもないままなので、
耳にしたのも偶然でした【やりたいのなら誰でもいいと】
誰でもいいから憑依しろ。【耳に入れたのもひょんなこと。】


「まず幽霊がやるべきことは、【始めに霊がやるべきことは、】【言うまでもなく空き家に充てる】
空き部屋ひとつを埋めること。【第一候補は物怪です。】【第一候補は幽鬼です。】
亡霊、悪魔、妖精、小人――
上手くいかずば、知己の中から
優しい悪鬼を呼んでくる。


「霊たち曰く、場所が悪い、【物怪いわく、場所が悪い、】【物怪いわく、場所が低い、】【幽鬼が曰く、場所が●●●、】
あるのは腐ったワインだけ。
かくしてまずは、この亡霊の、
出番となったわけなのですが、
断わることなどできません」


「きっとみんなは最適任の
やつを選んだに違いない。
だが四十二歳《しじゅうに》のぼくのところに、
こんな坊やを送り込むとは、
あまり誉められたものじゃない!」


「お思いほどに」彼が答えた、
「わたしは若くはありません。
実は岸辺の鍾乳洞や、
いろんな場所であれこれ試し、
何度も実践したのです。


ですがわたしは屋内だけは
ついぞ経験がございません、
あわてたあまり、常識的な(知ってて当然の・バカでも知ってる)【あわてたあまり、みんな知ってる】
儀式作法の五大規則を
すっかり忘れておりました」


ぼくはみるみるこのチビ助に
深い同情を寄せだした。
とうとう人を見つけたために、
飛び上がるほどギョッと驚き
おどおどがくがく怯えてる。


「まあとりあえず、幽霊だって【まあとりあえず、喜ばしいな
{しゃべる}とわかって嬉しいよ!【幽霊が{しゃべる}ものだとは!
どうか座って。おそらく君も
(ぼくと同じく飯がまだなら)
一口二口ほしいだろ。


「一見すると、君は何かを
{食する}ようには見えないが!
どうか話を聞かせてほしい――
全部すっきり話してくれよ――
さっき言いかけた五原則」


「感謝! 追々お話しします。
なんともかんとも運がいい!」
「何を食べたい?」ぼくはたずねた。
「親切心に大いに甘え、
鴨肉一切れ、お恵みを。


「ただ一切れを! でもそのほかに
肉汁一滴くれますか?」
座って彼をそっと見つめた、
だってこんなに白くて揺れる【だって〈それ〉ほど真っ白で
〈もの〉を見たことは初めてだ。【揺れてるものなど初めてだ。】


ますます白くなるようだった、
ますます霞んで、ゆらゆらと――
暗闇の中、瞬き始め、
始めましたる物語こそ
〈立ち居振る舞いの五原則〉。

PROFILE

東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 名前:東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 本好きが高じて翻訳小説サイトを作る。
  • 翻訳が高じて仏和辞典Webサイトを作る。

  • ロングマール翻訳書房
  • RSS
  • 07 | 2005/08 | 09
    S M T W T F S
    - 1 2 3 4 5 6
    7 8 9 10 11 12 13
    14 15 16 17 18 19 20
    21 22 23 24 25 26 27
    28 29 30 31 - - -

    SEARCH

    RECENT ENTRIES

    CATEGORY

    RECENT TRACKBACKS

    RECENT COMMENTS

    ARCHIVES

  • 2018年12月 (4)
  • 2018年11月 (4)
  • 2018年10月 (4)
  • 2018年09月 (5)
  • 2018年08月 (4)
  • 2018年07月 (5)
  • 2018年06月 (4)
  • 2018年05月 (4)
  • 2018年04月 (4)
  • 2018年03月 (5)
  • 2018年02月 (4)
  • 2018年01月 (4)
  • 2017年12月 (5)
  • 2017年11月 (4)
  • 2017年10月 (4)
  • 2017年09月 (5)
  • 2017年08月 (4)
  • 2017年07月 (5)
  • 2017年06月 (3)
  • 2017年05月 (5)
  • 2017年04月 (4)
  • 2017年03月 (4)
  • 2017年02月 (4)
  • 2017年01月 (4)
  • 2016年12月 (5)
  • 2016年11月 (4)
  • 2016年10月 (5)
  • 2016年09月 (4)
  • 2016年08月 (4)
  • 2016年07月 (5)
  • 2016年06月 (4)
  • 2016年05月 (4)
  • 2016年04月 (5)
  • 2016年03月 (4)
  • 2016年02月 (4)
  • 2016年01月 (5)
  • 2015年12月 (4)
  • 2015年11月 (4)
  • 2015年10月 (5)
  • 2015年09月 (4)
  • 2015年08月 (5)
  • 2015年07月 (4)
  • 2015年06月 (4)
  • 2015年05月 (5)
  • 2015年04月 (4)
  • 2015年03月 (4)
  • 2015年02月 (4)
  • 2015年01月 (4)
  • 2014年12月 (4)
  • 2014年11月 (5)
  • 2014年10月 (4)
  • 2014年09月 (4)
  • 2014年08月 (5)
  • 2014年07月 (4)
  • 2014年06月 (4)
  • 2014年05月 (4)
  • 2014年04月 (4)
  • 2014年03月 (5)
  • 2014年02月 (4)
  • 2014年01月 (3)
  • 2013年12月 (4)
  • 2013年11月 (5)
  • 2013年10月 (5)
  • 2013年09月 (5)
  • 2013年08月 (4)
  • 2013年07月 (4)
  • 2013年06月 (5)
  • 2013年05月 (5)
  • 2013年04月 (4)
  • 2013年03月 (5)
  • 2013年02月 (4)
  • 2013年01月 (4)
  • 2012年12月 (5)
  • 2012年11月 (3)
  • 2012年10月 (4)
  • 2012年09月 (5)
  • 2012年08月 (4)
  • 2012年07月 (4)
  • 2012年06月 (5)
  • 2012年05月 (4)
  • 2012年04月 (4)
  • 2012年03月 (6)
  • 2012年02月 (4)
  • 2012年01月 (2)
  • 2011年12月 (4)
  • 2011年11月 (5)
  • 2011年10月 (6)
  • 2011年09月 (5)
  • 2011年08月 (5)
  • 2011年07月 (5)
  • 2011年06月 (4)
  • 2011年05月 (4)
  • 2011年04月 (5)
  • 2011年03月 (5)
  • 2011年02月 (7)
  • 2011年01月 (5)
  • 2010年12月 (5)
  • 2010年11月 (4)
  • 2010年10月 (5)
  • 2010年09月 (5)
  • 2010年08月 (4)
  • 2010年07月 (5)
  • 2010年06月 (4)
  • 2010年05月 (5)
  • 2010年04月 (5)
  • 2010年03月 (9)
  • 2010年02月 (5)
  • 2010年01月 (5)
  • 2009年12月 (5)
  • 2009年11月 (5)
  • 2009年10月 (5)
  • 2009年09月 (4)
  • 2009年08月 (5)
  • 2009年07月 (4)
  • 2009年06月 (4)
  • 2009年05月 (5)
  • 2009年04月 (4)
  • 2009年03月 (5)
  • 2009年02月 (3)
  • 2009年01月 (5)
  • 2008年12月 (4)
  • 2008年11月 (5)
  • 2008年10月 (4)
  • 2008年09月 (4)
  • 2008年08月 (3)
  • 2007年06月 (5)
  • 2007年05月 (3)
  • 2007年04月 (3)
  • 2007年02月 (4)
  • 2007年01月 (3)
  • 2006年12月 (1)
  • 2006年11月 (2)
  • 2006年10月 (1)
  • 2006年09月 (6)
  • 2006年08月 (13)
  • 2006年07月 (6)
  • 2006年06月 (10)
  • 2006年05月 (2)
  • 2006年04月 (4)
  • 2006年03月 (3)
  • 2006年02月 (11)
  • 2006年01月 (10)
  • 2005年12月 (14)
  • 2005年11月 (17)
  • 2005年10月 (3)
  • 2005年09月 (27)
  • 2005年08月 (3)
  • 2005年02月 (3)
  • 2005年01月 (8)
  • LINKS

    SEARCH

    SEARCH