三番の詞を歌う代わりに、【ぼくは三番を歌おうとして、
口を閉じたのだ――唐突に。【ふと押し黙った――唐突に。】
こんな素敵な言葉のあとに
さらに続きを歌おうなんて
馬鹿げたことだと思うのだ。
だからあくびをひとつしてから
ふかふか布団にたどり着き、
夜が明けるまで夢見て寝よう
騒々霊や夜叉や仙女や
座敷童とか靴小人!
それからずっと来はしなかった
いかなる小人も幽霊も。
でも心には今でも響く、
真心のある、別れの言葉、
「おやすみなさいな、とんまっぺ!」
Phantasmagoria --Lewis Carroll, 1869
※これにてルイス・キャロル『ファンタスマゴリア』
翻訳終了です。あとは訳を整えて、html ファイル形式で
ホームページにアップしてゆきたいと思います。
次回からはトーマ・ナルスジャックによる
パスティーシュ・シリーズ『贋作展覧会』より、
ウールリッチ贋作「ブラッキー」を翻訳予定です。
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泣いても二度と戻りはしない
あんな愛すべき幻妖は。
やるべきことはきっとあるはず
グラスを混ぜて、歌を歌おう
こんなお別れのメロディーを。
『{さようならかい、幽霊くんよ?【行っちゃったのか、ぼくの幽霊?】【行っちゃったのか、すごい幽霊?】
ぼくの最愛の友だちよ!【これ以上はない友だちよ!】
それに、さらばだ、鴨の丸焼き、
さらば、さらばだ、お茶とトースト、
白亜のパイプと葉巻たち!
『人生なんて暗く退屈、【人生色は暗い灰色、】
人生の味は何もない、
{君が}、夢幻が、立ち去ってから――
いいやつだった、言いかえるなら、
いい六面体だったのだ!』【六面体的やつだった!』】【六面体ぽいやつだった!』】
第七篇
悲しき思ひ出
「何だ?」と悩む。「眠ってたのか?
いや酔っぱらっていたのかも?」
だけど間もなく忍びより出し、【だけど間もなく気持が溢れ、
座ったままで涙を流す
またたくばかりの一時間。【瞬く間もない一時間。】
「死人のために急がなくても!」【死者がそれほど急がなくても!】
ぼくはむせび泣く。「ほんとうに
出かけなければならないことか――
ティプスが誰か、それを知りたい、
こんな問題を起こすのは?【についてこんな騒ぎを引き起こすことが?
「ティプスがぼくに似ているのなら、
{あり得る}だろうか」ぼくは言う。
「あまり嬉しく思わないはず
ひょっこり家に出向かれるのは【ひょっこり家に寄られるなんて】
眠って四十五分後に。
「死者がいろいろ嫌がらせして――
鋭い叫びやなんやかや、
ここでしたのと同じくしたら――【ここと変わらぬことをしたなら――】
ほぼ必ずや議論になって、
ティプスの勝利に決まってる!」
「要は{わたしの}間違いでした――
握手をしましょう、とんまっぺ!」
その呼び方はあまり好きでは【その名はあまり好きじゃないけど、】【呼び名はあまり好きじゃないけど、】
ないけれど、心から【真心なのは違いないから、】【
その点について考えない。【それに関しては考えない。】
「おやすみなさい、このとんまっぺ!
わたしが帰れば、そのあとで
けちな小人が来ることでしょう、
そしていつでも怖がらせ~【そしていつでも脅しをきかせ】
静かな眠りを妨げます。
「悪戯するなとお言いなさい。
横目でくすくすされたなら、【横目で笑いを
鞭を上手にお使いなさい
(とても硬くてごついやつです)
厳しくのめしてやりなさい!
「そしてこうです。『やあ洗い熊!
君らは気づいてないだろう
動かないなら、あともうすぐで【動かないなら、もうすぐ違う
笑い方するはめになるから――【
せいぜいたっぷり気をつけな!』
「これが小人の追い払い方
こうした怪しいふるまいの――
これはしまった! 夜明けが近い!
おやすみなさい、このとんまっぺ!」
一つ頷くと立ち去った。
「そんな調子で非難するのは
別段かまいはしないけど!
なんで名前をたずねなかった
ここに到着したその時に?」
ぼくは熱くなり言い返す。
「それは大変だったんだろう
ここまではるばる歩くのは――
でもそのことで{ぼくを}責めるか?」
「まあいいでしょう。確かにそれを
あまり責めるのは筋違い。
「それに確かにいただきました
おいしいワインと食べ物を――
ののしったのはどうかご容赦。
だけどこうしたアクシデントは
少しいらついてしまうでしょ。
「ティプスでは{ない}!」――声の調子に【が】
翳りが見えだし、しょげかえる――【翳りを帯び出し、しょげかえる――】
「ああ、違うとも。ぼくの名前は
ティベツさ――」「ティベツ?」「うん、その通り」
「ああ、じゃあ{{あなたは別人だ!}}」
テーブルを手で打ちつけたので【テーブルに手を打ちつけたので】
コップがいくつか震え出す。
「なぜそう言ってくれなかったか?
四十五分、早かったなら、【四十分と五分前に
このおたんこなすおたんちん。
「この雨のなか四マイル来て、
夜を一服に費やして、
あげくにそれが無駄だったとは――
また最初からやり直しとは――
腹立たしいにも{ほどがある}!【頭に来るにもほどがある/癪に障るにもほどがある】
「何もしゃべるな!」と彼が叫んだ。
弁解しようとした途端。
「どんなやつでも我慢できない
こんな愚かな人がいるとは
鵞鳥頭より空っぽか?
「ここで時間をつぶさせないで、
直ちに教えてほしかった
ここは目当ての家ではない、と!
もうわかったよ――さあ寝てしまえ!
あくびをするのはやめてくれ!」
幽霊が言う。「たわごとですね。
怒鳴り散らすのは止めましょう。
心を静め、眠るのがいい!【頭を冷やし、眠ることです!】
こんなすっとこどっこいなのは【こんなすっとこどっこいな人】
今まで目にしたこともない!
「むかし会ってた人のようです、
議論の最中、怒り出し【議論をしていて怒り出し】
気持が熱く高ぶるせいで
室内履きが焦げだしました!」
「{不可思議なこともあるものだ!}」
「ええ、その通り、不可思議ですよ、
つまらない嘘のようですが。
でも本当に本当のこと――
あなたがまさにティプスのように」
「ぼくの名はティプスでは{ない}よ」
登り続けてようやく着いた
上へと続いている道に。
ふらつきながら中に入ると、
顔にパンチをお見舞いされて
仰向けになって倒れ込む。
夢かうつつか、わからぬままに、
ふたたび下へと滑り落ち、
坂から坂へ、重さのままに、【重さに引かれ、坂から坂へ、】
目もくらむほど真っ逆さまに、
ふもとの野原に落とされる――
よし幽霊に罪の自覚を
植えつけなくちゃと決意した。
人間のする議論などとは
まるで違うと気づいたけれど、【まるで違うとわかったけれど、】
立場を退くことはない。
予定通りに終わらせようと
今でも希望を持ったまま、
ほんとなんだと証明しよう、
ありとあらゆる持てる知識を
原理原則に注ぎ込んで。【原理原則に
決まり文句の一語を使い
『ゆえに』や『だから』で始めるや、
わけもわからずふらつきだした、
迷路みたいにもつれた道を、
自分の居場所も知らぬまま。
ファンタスマゴリア
ルイス・キャロル
第六篇
手違ひ
小山を登る人間がいた、
登山経験のない人だ。
しばらくすると気づき始めた、
見る見るうちに気高さが減り、
いやな雰囲気が漂った。
でももうすでに始まっていた、【でももうすでに賽は投げられ、】
冒険をやめることはない、
登りながらも目を凝らしたら
空の向こうに一軒の小屋
あそこで身体を休めたい。
心身ともにくたびれ果てて、
大きく乱れた息をつく。
それでも坂を登り続けて、
愚痴もだんだんひどくなり出す、
息苦しいのが増そうとも。【呼吸困難が増そうとも。】
「人と王とは違いますとも」
証明しようと全力で、
ぼくは主張を始めたけれど――【ぼくは議論を始めたけれど――】
幽霊はただ聞いているだけ
馬鹿にしたように微笑んで。
結局ぼくは息切れをして、
一服しようと手を伸ばす――
「おっしゃることはよくわかります。【言いたいことはよくわかります。】
だけど――{主張・議論}とおっしゃるなんて――
むろん冗談でございましょ?」
冷酷な目に射すくめられて、【冷やかな目でひとにらみされ、
ぼくはようやく奮い立つ。
「何はともあれ反対するぞ
団結こそが力である、を
否定するような懐疑派に!」
「その通りです。だけど待ってよ――」
ぼくはおとなしく聞いていた――
「{団結・結束・協力}こそが力なりけり。【助け合いこそ力なりけり。】
光みたいに明らかなこと。
だけど{金欠}は無力です」
「やつが夜警に選ばれた日に
誰もが{わたしに}投票を
すると言ってたはずだったのに――
やつは嘆いてのぼせあがって
煮えくりかえって大怒り。
「すぐ気が変わり、終わった時に、【「すぐ気が変わり、落ち着いてから、】
王のお耳にと一走り。
痩せているとは反対ゆえに、
二マイルばかり駆け通すのは
なかなかどうして楽じゃない。
「そんなわけゆえ駆けた褒美に
(あたかも焼けつく暑さだし、
二十貫目は超えていたため)、
半ばふざけて王は直ちに、
無念流免許皆伝に」
「そりゃあなんとも好き勝手だな!
(ロケットみたいに噴火した)。
「しゃれを言うのが目的らしい。
ジョンソン曰く『しゃれを言うのは
人の懐を掏るやつさ!』」
「あちこち行って座るんですよ
夜に食い過ぎたやつの上。
やつの仕事はつねって突いて、
死にそうなほど締めつけること」
(「自業自得だね!」僕が言う)
「こんなやつらが晩に摂るのが――
卵にベーコン――」口ごもる。
「伊勢エビに――鴨――あぶったチーズ――
それで苦しくならないのなら、
そいつはわたしの大誤算!
「やつはたいそう太っちょなので
こんな仕事にはうってつけ。
そういうわけで、ご存じでしょう、
ずっと前からこう呼んでます、
{夜警と三回り胴回り!}【夜警とお巡りどお巡り!】【太った夜警と、どお巡り!】
「あなたが遅く帰っていれば、
ことは適切に進みました。
でもこんな状態の道路で【ですけどこんな具合の道で、】【だけど道路がこんなですので、】
ナイト・メイヤー(悪夢・武)の許しを得ていた【夢魔(武馬)の許しを取っております】【悪夢(亜宮務)の許可を取っております】【枕返しの許可はあります】【金縛り(課なし玻璃・金芝吏・悲婆吏)から許可を得てます】【金縛り・胸焼け(棟夜警・無念夜警)・胃もたれ・寝苦しさ
一時間半待つ」【一時間半は待つように」】【一時間半は延びていい」】
「武馬って誰だ?」僕は叫んだ。【「亜宮務って誰?」僕は叫んだ。】【悲し玻璃って?】【無念夜警だって?】
答える代わりにこう言った。
「まさか{そいつを}知らないなんて、
布団のうえで寝たことも、
食べ過ぎたこともないらしい!
「お気づきでしょう、一つか二つ
それで充分なわけですが
風をひゅーひゅーさせるためには――
ですが{ここには}しこたま予定!」
僕は息を呑む「なるほどね!」
「あともう少し遅かったなら、
危なかったのか」笑おうと
した(けどまるでうまくいかない)
「整えるのと装うのとで
忙しかったというわけか?」
「ええ、まあきっと、もう少しだけ
ここに留まっていたでしょう――
でも何にしろ、前置きなしに
ことを始める危険を冒す
幽霊なんぞはおりません。
「『家主』のことは考えません、
手はずが整うときまでは。
持ち場を去ってばかりのやつや、
行儀の悪い幽霊ならば、
チェンジすることはできますが。
「だけど主人があなたのような――
つまり常識のある人で。
家がそれほど新しくなきゃ――」
「{それ}が関係あるのかい、ねえ、
幽霊にとって便利なの?」
「新しいのはそぐわないので――
整えるような仕事には。
でも二十年ほど経ていれば、
羽目板などもガタが来はじめ、【羽目板などもガタつきますし、】
ですから目安は二十年」
「整える」とは聞いた覚えが【「整える」とは耳に挟んだ
ない言葉。【覚えのまるきりない言葉。】
「きっと気になどしないだろうね
どういう意味か教えてくれよ【どういう意味か全部すっかり】
残らずすっかりその言葉?」【教えてもらおうその言葉?】
「ドアをゆるめるということです」
幽霊が答え、微笑んだ。
「敷居や床のいたるところに
わんさわんさと穴を開けます、
よいすきま風を吹かすため。
『ファンタスマゴリア』第五篇
言ひ爭ひ
「だけど『相手』を無視するのかい?」【『犠牲者』のこと考えないの?】【『相手』のことは考えないの?】
僕は問いつめた。「考えて
当然だろう――だってそうだろ、
人の好みはまったく違う、
それもなかんずく小人とは」
つと幻妖が笑顔で否定。
「考えるなんて? まるっきり!
子ども一人を喜ばすのは、
手にも負えない骨折り仕事――――
どれほどやってもきりがない!」
「それはもちろん、{子ども}相手に
自由にさせては駄目だけど。
僕同様に大人の場合、
『家主』自ら意見を述べる
権利くらいはあっていい」
「気にしたこともありませんとも――
人はあまりにも多種多様。
たった一日、訪れたあと、
幽霊たちが行くも残るも
環境次第でございます。
「それにやたらと面倒なのが、
幽霊屋敷の委員会。
なにかといえば大騒ぎです【いつも混乱、なにしろ霊は
フランス人やロシア人から、
さらにはシティーの霊もいる!【さらにはシティーの出身も!】【さらにはシティーの出身者!】
「方言による応酬があり――
訛りの一つはアイリッシュ。
それでも逃げるわけにもいかず、【それでも
売りに出たのは週一ポンド、【
気づけば周りは鬼だらけ!
「シェイクスピアが書いております、
かつての時代の幽霊を、
『ローマの街でおめき叫び』と。※ハムレット第一幕第一場
ご記憶でしょう、墓衣《はかぎ》姿の――【覚えてますか、帷子姿――】
寒いとわかっていたんです。
「十ポンド出し、毛布を買って、【わたしも布《きれ》に十ポンド出し、
離魂霊みたく着てました。
でも一陣の風でわかった、
この問題の成果としては【この問題の答えとしては】
あんまり役には立ちません。
「名案だった願い事すら
請求の山がかき消した。
準備するのがいつでも鬼門。
やりたいことがたくさんあれば、
欠くべからざるは、お金です!
「幽霊塔の場合だったら、
髑髏や骸骨、帷子も。
二時間燃える青い光と、
超能力を籠めたレンズと、
それから鎖を一揃い。
「そんなこんなで借りざるを得ず――【そんなこんなでしぶしぶ借りる(レンタル品の)――
衣装のローブを試着して――
色つきの火をテストしてみる――
ものによっては長持ちせずに
おしゃかになるのが【使えないものが・ガタが来てるのも無きにしも!】※the patience of (a) Job(→ヨブの忍耐。旧約聖書より、どんなことにも耐えること。我慢の極限。)
「叫ぶ秘訣をマスターしたら、【叫ぶ秘訣を身につけてから、】
さめざめ涙が落ちたなら、
それが始めのほぼ第一歩。
よければやってみて下さいよ!
おそらくかなりの一仕事!
「やったわたしに言えますことは【実際やったわたしがひとつ、】
あなたにゃ無理だということで【あなたにゃ無理だと言い切り】【あなたにゃ無理だと指を切り・口を切り】【あなたには無理と言い切らにゃ】【あなたにゃ無理だと細かく・短く・根深くも】【あなたには無理な手強きり】
す、昼も夜も練習しても、【ましょう、休まず練習しても、】【うし上げましょう、常の努力も】【ゅうぎ。休まず練習しても、】
そっちの方の才能だとか、【そんな素質や天賦の腕が、】
天賦の技術がない限り。【天賦の技巧を受けるまで。】【備わっていてもおおごとで。】【天賦の技術がないことにゃ。】【天賦の腕ならともかくも。】【天賦の腕ならまだいいが。】
「幻妖としてまもなく巣立ち。【幻妖としてやがて旅立ち。】
わずか六歳のことでした、【やっと六歳になったころ、】
ある先輩と一緒にでした――
最初のころは楽しかったし、
悪さもたくさん教わった。【悪戯もうんと知りました。】
「牢屋や城や塔に取り憑く――
行かされたのならどこにでも。【行けと言われればどこにでも。】
じっと座って吼えていました、
ざんざん降りにぐっしょり濡れて、
胸壁の上におりました。
「声を出すとき吼えうめくのは
かなり古くさいことですが。
これはまったく新しいやつ――」
ここで(骨まで僕は震えた)【ここで(骨まで僕を震わす)】
{血も凍るような}叫び声。【{ぞっとするような}叫び声。】
「たいしたことじゃないかのように
聞こえたのではないですか?
ではご自分でお試しなさい!
一年くらいかかりましたよ、
絶えず練習を重ねても。
「いつもどおりに白衣姿の
幽鬼があるとき呼び出され。【幽鬼が呼ばれた時のこと。】
広間の皆を見つめましたが、
目にはまったく見えないんです、
見慣れぬ姿のようでした。【見知らぬ姿に見えました。】
「不思議なことに、どうしたわけか、
頭と袋に見えました。
ところが母が見るなと言って、
わたしの髪を引っ張ってから、
背中をごつんと撲つんです。
「以来わたしは願ってました、
幽鬼に生まれて来たかった。
でも無駄でしょう?」(大きく吐息。)
「{やつらは}霊のエリートたちで、
{わたしら}のことを知らんぷり。【わたしたちなどは
「本も持ってる。信じないなら――」
僕は本棚に振り返る。【僕は本棚を探し出す。】【棚を探そうと振り向いた。】
「待ってください! 本は無しです。
やっとすっかり思い出したよ。【やっと記憶が元通りです。】
あれを書いたのはわたしです。
「『マンスリー』誌に載ったんですよ、【「『マンスリー』誌に掲載したと】
編集者はそう言いました。【編集者からは聞きました。】
それを目にした文学者から、
雑誌に沿って改作したと【掲載された雑誌に合わせ】【
思ったそうです【改竄されたと聞きました。】
「わたしの父は座敷童で、【わたしの父はブラウニーです、
森の妖精が母でした。
母の頭に浮かんだことは、
化ける手順を教えたならば、
子どもは幸せつかむはず。【子等は幸せになれるはず。】
夢中になって考えたのは。【すぐにハマった思いつきです。】【この発想にすぐに熱中。】【このひらめきにすっかり夢中。】
始めるやいなや、母親は【始めるやいなや、それぞれの】【始めるやいなや一人ずつ】
ひとりひとりを花開かせて――【よい才能を引き出しました――】【●●●(高い?)素質・才知を引き出しました――】
まずは妖精《ピクシー》、お次は仙女《フェイズ》、
もひとつおまけに泣き女。
「夜叉と水虎は学校に行き
いろいろ苦労をかけました。
騒がし霊と悪鬼の次は、
(規則破りの)トロルが二匹、
悪魔一匹に離魂霊――
「(嗅ぎ煙草なぞ棚にあったら」
あくびをしながら言うことにゃ、
「ひとつ下さい)――次は精霊、
そして幻妖(すなわちわたし)、【そして幻妖(このわたしです)、
そしておしまいに靴小人《レプラコン》。
第四篇
學校
「幼い頃はいつもいつでも、【幼い頃は日々毎日が、】
楽しくて仕方ありません!【
好きな柱に腰を下ろして、
バタ付きパンにぱくつきながら
紅茶をもらっておりました」
「今の話は本で出てるぞ!
そうじゃないなんて言わせない!
ブラッドショーに負けず有名!」【ブラッドショーと並び名高い!」
(困ったように霊は答えた、
そんなことないと思います)。
「わらべうただと思うんだけど?【マザーグースじゃなかったろうか?】
違ったとしても、まあこんな――【自信はないけど、確かこう――
『三匹のチビ幽霊々が』
『柱々に』腰を下ろして、
『バタつきパンパン』食べていた。
興味深げに見回してから、
「なんてこったい!」とつぶやくと
すぐに批評の続きを始め――
「あなたの部屋は勝手が悪い。
居心地も悪くゆとりなし。
「あんな小さい窓ならきっと、
夕陽の射すのが関の山――」
「だけどいいかい」僕がさえぎる。
「設置したのはあのラスキンを
信頼している建築家!」
「何者なのか、どこぞの誰を【誰であろうと、どこぞの誰を
信頼するのか存じません!【信頼しようと存じません!
どんな決まりによるものであれ、
見たこともない最低仕事、【生霊暮らししている中で】
生霊人生 初のこと。【生霊になって初のこと。】【見たことないよなヘボ仕事。】
「こいつは旨い葉巻ですねえ!
一箱でいくらするんです?」
僕はうなった。「どうでもいいさ!【僕はうなった。「気にするもんか!
いつのまにやら従兄弟みたいに
馴れ馴れしいにもほどがある!
「{我慢するのも}もう限界だ、【{我慢するのも}もうこれまでだ、
この際はっきり言っとこう」【この際はっきり伝えるよ」
「お互い偉くなったもんです!」【ずいぶん楽しくなりました!】【とても楽しくなっていたのに!」】
(ワインボトルを手に持ちながら)
「すぐさま用意を始めるよ!」
その時やつが狙いをつけて、【その時やつがここぞとばかり、】
元気に叫んだ「よし行こう!」
僕がそいつを避けようとした【僕はなんとか避けたかったが、】
途端に鼻の真ん真ん中に、
どういうわけやら大当たり。【どうしたわけやら大当たり。】
ほとんど何も思い出せない
覚えているのは途中までだけ、【覚えているのはこんなことだけ、】
床に座って繰り返してた
「二ぃたす五ぉは、四なんだけど、
五ぉたす二ぃだと、六なのだ」
経験したり、空想すらも【経験したり、夢想したりも】
しなかったような時が経ち。【したことないよな時が経ち】【なかったような
わかってるのは、気がついたとき、
置きっぱなしのランプが弱火――【放置ランプが微かに燃えて――】【隅のランプが微かに燃えて――】【置きっぱなしのランプがぽつり――】
炎がだんだん弱くなる――
湧き出る霧の向こうでやつが
微苦笑するのが見えるよう。
気づいてみれば、僕はあいつの【気づいてみれば、子どもみたいに】
一期について、子どもみたいに【伝記について、子どもみたいに】【一生涯を、子どもみたいに】【僕はあいつの一生涯に】
レッスン授業を受けていた。【ついての授業を受けていた。】
我慢だ我慢――男らしくね――
こいつは苦しいシャレだなあ!
このうえもなくご機嫌だった
僕の気分も、霊が無礼な
批判を始めるまでのこと。【批評を始めるまでのこと。】
「コックがサボるわけじゃないけど。【コックが手抜きしたわけじゃない。】
けれども教えた方がいい
皿には味が{ある}方がいい。【料理の味は{濃い}方がいい。】
どうして薬味を手の届かない
ところに仕舞って置くんでしょう?
「ここの下男は給仕のように
金を稼ぐのは無理でしょう!
焦がしちゃっても妙じゃないでしょ?
(下手くそすぎてmoderatorとは【驚くほどに下手くそなので】
呼べないしろものなのでした)。【人事担当も呼べません/要りません)。】
「鴨は柔らか、でもおつまみは
とんでもないほど古びてる。
よけりゃ覚えておいてください、
今度チーズをあぶったときは、
冷やさないように頼みます。
「いい小麦粉をぐんと使えば
パンがおいしいと気づくはず。【素晴らしいパンもできるはず。】
ここに置いてるインクのような
飲み物ですが、まさかあなたは
酸っぱくないとか言うつもり?」
「なにせ驕りはないと言いつつ
言い張るが、幽霊を扱う【接するときには霊なんて】
完全な軽蔑の元に――【頭ごなしに軽蔑してる――】
七面鳥がチャボに挨拶するとは【チャボのことなど歯牙にもかけぬ】
夢にも思わないように」【七面鳥にもよく似てる】
「きっと驕りが強すぎるから
こんな住まいには来ないんだ。
ねえ、どうやって、そんなに早く
『場所が悪い』し『腐ったワイン』【『場所は低い』し、『ワインはみんな】
が仕舞ってあると知るのかな?【腐っている』ってわかるのさ?】
「御用聞きたる小鬼が来ると――」【御用聞き鬼コボルトが来て――】【ロンドン警視庁《ヤード》の鬼のコボルトが来て――】【御用聞き殿コボルトが来て――】
幽霊のやつが言いかけた。
ちょっと待ってよ――「御用聞きって?【ちょっと待ってよ――ヤードの鬼が?】
用を聞くとは変わった霊だ!【鬼刑事とは変わった霊だ!】
詳しい話を聞きたいな!」
「やつの名前は小鬼と申し、【やつの名前はコボルトといい、】
妖鬼(物怪)の種類の一つです。【幽鬼一族の一人です。】【鬼の一族の一人です】
見かける時はいつも同じ、
黄色いガウン、真っ赤なベスト、
横縞模様の就寝帽。
「やつの任地はブロッケン山、
けれどこっぴどい風邪をひき。
イギリスに来て療養中に、
{喉が渇いて}仕方がなくて、
ぶつぶつ文句を言うのです。
「風邪が治ると、曰くワインが
骨を温める秘酒代わり。
見つけた宿が、やつにとっては【家具付き宿が】【三食つきの、御殿が、】【三食つきの宿がやつには】
願ってもない漁り場なので、【願ってもない憩いの住処、】
ゆえに人呼んで{宿の鬼}」【ゆえに人呼んで御妖鬼き殿】
『ファンタスマゴリア』ルイス・キャロル 第三の1
ghost幽霊・霊/phantom亡霊/specter物怪→幽鬼/goblin悪魔/elf妖精/sprite小人/ghoul悪鬼/kobold
第三篇
小競り合ひ
「だけどほんとにこんな雨夜に、
とことこ歩いてきたのかい?
霊は飛べると思っていたよ――
空高くとは言わないまでも、
かなりの高さを飛べるとね」
「王にとっては何事もなし
地上をふわりと飛ぶことは。
でも亡霊(幻妖)は羽根が必要――
楽しいことはどれでも同じ――
必要以上に金を食う。
物怪たちは金持だから【幽鬼たちなら金持だから】
妖精たちから羽根を買う。
でも我々は低いのが好き――
彼らは馬鹿な奴らなんですよ、【彼らは嫌な奴らなんです、】
彼ら以外の誰かにとって【ほかのみんなからしてみると。】
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