ジャックは落胆して階段に腰を下ろした。ブランデーを一口やりたくて仕方なかったが、持ち込んだ鶏肉やハムともどもボトルは冷蔵庫の中だ。ブラッキーは階段をふさぐ障壁とドアのあいだを絶えずうろついている。低い声で呻き、わずかに背を丸め、ロープの切れ端のように尻尾を振っていた。リンダが連れてきたときにはまだ小さく、幼かった。温もった鼻先をうずめる両手両膝を求めていた。なのに今、生きるためにブラッキーを憎まねばならない。生きるためには、電話機のところまで行かなくてはならない。部屋に戻ると屋根に落ちる雨音が間近に聞こえた。中庭に放り投げた手紙のことを考えた。水でぐしゃぐしゃになってしまっただろう。そんなことはどうでもよくなっていた。喜んでさえいた。もしかするとたった一人で勝てるかもしれない。もしかすると番犬のそばで死ぬかもしれない。よくわからないが、あとは尊厳もしくは誇りの問題だ。最後の一本に火をつけると、頭を抱えて肘掛に腰掛け、じっくりと考えた。杖の先は曲がっているから受話器をひっかけることはできるだろう。釣り竿にしっかり結びつけなくてはならないが、全体がしなやかになるよう結び方に余裕がほしい。ほかの解決策もあった。それがなんだ? ジャックはぎこちなく立ちあがった。身体中が痛みを覚える。ベッドの上に釣り道具を広げた。竿の状態はよい。リールにはグリスを注す必要があったが、まだ充分に巻き取れる。釣り糸は見た目は丈夫そうなくせに、もろくなっていた。足りないもの、それは大きな釣り針だ。だが作ることはできる。三本か四本の釣り針を束にして大きくし、刺のあるボールのようにすれば、うまく投げれば受話器をひっかけるのも難しいことじゃない。それから? 電話機は床に落ち、糸が切れなければ網に魚がかかったような軽い引きがあるはずだ。その時点で糸は障壁の下にあるはずだから、そっとリールを巻くに従い、釣り竿の先まで持ち上がり、やがて手元に届くはずだ。くっついてきた受話器は簡単に回収できる。