乗車場でタクシーに乗り込むときに、彼が赤帽にチップをやった。
「払います」
「とんでもない」慌てて言うので、伯父のお金なのかと迷ったあげく、そうしてもらった。車は地下道にエンジンを轟かせていたけれど、唐突に街の真ん中に飛び出した。途端に喧噪と未知の世界がわたしを襲った。
「ニューヨークに来たことはあるんですか?」
「小さいころだったので覚えてはいないけれど。伯父さんは忙しいんですか?」
「来客をもてなしているので」
「あら。そういうのはリナおばさんが――」あまりに突然こちらを振り向かれたので口ごもる。「わたし……会ったことがないの。二人のどちらにも。言ってませんでしたっけ?」
「ライナさんは」キャロライナと韻を踏むように発音していた。おかしな声の調子。「外出していますから」
声をあげてしまった。おかしなことではないだろうか。なにしろ一面識もない姪が家にやってくるなんて、そうそうある出来事ではない。メソジストの教区牧師館ではこうはなるまい。
「悲しむことはありませんよ」
「悲しんでなんかいないわ」
「そうでしょうか」
「もちろん」