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 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『ジョゼフ・バルサモ』22-01 「ジャン子爵」 アレクサンドル・デュマ

第二十二章 ジャン子爵

 確かに、王太子付きの若き近衛中尉その人であった。奇妙な騒ぎを見て、中尉は馬から飛び降りた。宿駅の周りには、騒ぎを聞きつけたラ・ショセの女子供たちが集まり始めていた。

 神が遣わした思いがけぬ助けを目にし、宿駅の主はフィリップの足許に文字どおり身体を投げ出した。

「将校様、何が起こっているのかご存じですか?」

「いいや」フィリップは簡潔に答えた。「話してもらえるかな」

「もちろんです! 王太子妃殿下のお馬を力ずくで手に入れようとしている方がいるのです」

 信じがたいことを聞かされた人がやるように、フィリップは耳をそばだてた。

「では馬を手に入れたがっているのは何者でしょうか?」

「こちらです」

 と言ってジャン子爵を指さした。

「あなたが?」フィリップも確認した。

「ああ、畜生! ええ、おれですよ」

「間違いではありませんか」フィリップは首を振った。「ありえません。さもなければ、あなたの気が触れているか、貴族ではないか、どちらかでしょう」

「二つの点で間違えていますよ、中尉。頭は正常だし、今は降りているとはいえ陛下の馬車にまた乗るのですから」

「頭もしっかりしているし陛下の馬車にお乗りなのでしたら、どうして王太子妃の馬に手を出したのですか?」

「第一に、ここには六十頭の馬がいる。妃殿下がお使いになるのは八頭だけだ。適当に三頭を見つくろって、たまたまそれが妃殿下の馬だったとしたら、おれもついてなかったんだろう」

「六十頭いるというは事実です。妃殿下が八頭ご入り用なのも事実です。ですがそれでもやはり、一頭目から六十頭目まですべての馬が妃殿下のものである以上、六十頭を区別して考えることなど許されません」

「だが許されてるね」子爵が皮肉った。「こうして繋いでいるんだから。従僕どもが四頭引きで走っているというのに、おれは歩かなければならないのか? 冗談じゃない! あいつらがおれのようにして、三頭で満足すればいいんだ。それでもまだ余裕があるだろう」

「従僕たちが四頭引きで走るのだとしても」とフィリップは子爵の方に腕を伸ばし、子爵の取った行動に何らわだかまりのないことを示した。「そうするのは王のご命令だからです。ですからお願いです、従者に命じて、手に入れた馬を元に戻していだかけませんか」

 礼儀正しい言葉の中にも有無を言わせぬ響きがあった。卑怯者でもなければ無礼な返答は出来かねる響きだった。

「多分あなたの仰ることが正しいんでしょうね、中尉」子爵が答えた。「この動物たちを見張ることも職務のうちなのだとしたら。だが生憎と、近衛兵が馬丁に昇進させられたという話は聞いてませんね。だから目をつむって、みんなにも同じように言って下さい、では良い旅を!」

「あなたは間違っていますよ。馬丁に昇進も降格もしておりませんが、これが今現在の本官の職務なんです。王太子妃殿下ご自身から、先に行って替え馬を用意しておくよう命じられたのですから」

「それなら話は別だ。だが一ついいですか。嘆かわしい仕事じゃありませんか、ことにこんな風にお嬢さんが軍を動かすようになるのでは……」

「誰のことを仰っているのです?」フィリップが遮った。

「ああ、決まってるでしょう! オーストリア女ですよ」

 フィリップは付けている綬のように真っ青になった。

「飽くまでも仰るのですか……?」

「仰るだけじゃない。飽くまでも実行するとも。さあパトリス、さっさと馬を繋ごう。何しろ急いでるんだ」

 フィリップが一頭目の手綱をつかんだ。

「せめてどなたなのかお聞かせ下さいませんか?」

「それをお望みかい?」

「お願いします」

「わかった。おれはジャン・デュ・バリ子爵だ」

「何ですって! するとあの方の……?」

「それ以上一言でも口に出したら、バスチーユで朽ちることになりますよ」

 と言って子爵は馬車に躍り込んだ。

 フィリップが扉に駆け寄った。

「ジャン・デュ・バリ子爵、降りて来て下さいませんか?」

「ふん、馬鹿らしい! そう急ぎなさんな」子爵は開いたままの戸板を引こうとした。

「少しでもぐずぐずなさるようでしたら」フィリップは閉じかけた戸板を左手で押さえた。「誓って申し上げますが、この剣で身体を貫きます」

 そう言って空いた手で剣を抜いた。

「まさか! 嘘でしょう!」ションが叫んだ。「人殺しじゃない! 馬は諦めましょう、ジャン」

「ふん! 脅しているのか!」子爵は怒りで歯を軋らせ、前部座席に置いていた剣をつかんだ。

「これ以上ぐずぐずしていては、脅しでは済みませんよ。おわかりですか?」フィリップの剣が風を切った。

「馬車を出すのはよしましょう」ションがジャンの耳に囁いた。「穏便に出てもこの人を動かせないんだから」

「穏便にだろうと暴力でだろうと、本官の職務を妨げることは出来ません」ションの忠告を耳に挟み、フィリップは恭しく頭を下げた。「あなたからも仰っていただけませんか。さもないと王の名において、戦いをお望みでしたら殺してしまうことになるでしょうし、拒むようでしたら逮捕させることになるでしょう」

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『ジョゼフ・バルサモ』21-2

 と、そこでジルベールに気づいた。二人の人物が読者もご覧の光景を演じている間、ジルベールとしてはまったくそこに入り込む余地もないため、骨を奪われた犬のように顔をしかめていたのだ。

「おや。何を拾って来たんだ?」

「哲学者ちゃんよ。すごく面白いんだから」マドモワゼル・ションは、保護した人物が傷つこうと喜ぼうと気にしないようだった。

「どこで見つけたんだ?」

「道の上よ。でもそんなのどうでもいいわ」

「そうだった」ジャンと呼ばれた人物が答えた。「ベアルン伯爵夫人は?」

「準備は出来てる」

「準備が出来てるって?」

「ええ、来てくれるはず」

「来てくれるって?」

「ええ、そう、そうよ」ション嬢はうなずいた。

 この場面は相変わらず輿の踏段で演じられていた。

「どんな話を聞かせたんだ?」ジャンがたずねた。

「弁護士のフラジョ(Flageot)の娘だって言ったの。ヴェルダン(Verdun)を通って、審問日が決まったことを父の代理で伝えに来たって」

「それだけ?」

「まあね。後は、審問日が決まった以上はパリにいなければならないって言っただけ」

「それで夫人はどうした?」

「ちっちゃな灰色の目を真ん丸にして嗅ぎ煙草を喫うと、フラジョさんは世界一の人間だって断言してから、出かける準備をさせてたわ」

「よくやった、ション! これでおまえも特命大使だ。だが差し当たっては昼食にしないか?」

「そうね。飢え死にしかけた可哀相な子もいることだし。でも急ぎましょ?」

「なぜだ?」

「すぐそこまで来ているからよ!」

「老伯爵夫人がか? こっちの方が二時間も先に出ているんだから、モープー殿に話す時間はあるさ」

「違う。王太子妃よ」

「馬鹿な! 王太子妃はまだナンシーにいるはずだ」

「ヴィトリーにいるの」

「ここから三里のところにか?」

「まったくその通り」

「畜生! 話は変わった! おい御者」

「とぢらまで?」

「宿駅だ」

「旦那さまはお乗りになるんで、それともお降りになるんで?」

「ずっとここだ。進め!」

 男を踏段に乗せたまま馬車は走り出した。五分後、馬車は馬車宿の前で停まった。

「早く早く早く!」ションが叫んだ。「骨付き肉、鶏肉、卵、ブルゴーニュ・ワイン、上等なのはいらないから。今すぐまた馬車を出さなきゃならないの」

「失礼ですが」宿の主人が敷居を跨いで言った。「すぐに出発なさるんでしたら、馬もご一緒になりますが」

「馬も一緒にだって?」ジャンが踏段からどさりと飛び降りた。

「さようで。そちらさんが乗って来た馬ですよ」

「とんでもない」御者が言った。「もう二駅分も走ってるんだ。こいつらがどんな状態か見てくだせェ」

「ほんと。これ以上走るのは無理ね」

「だったら、新しい馬を手に入れれば済む話だ」

「手前どもにはもうございません」

「おい! ないわけがないだろう……決まりがあるはずだ!」

「はい、決まりによれば、手前どもの厩舎には十五頭いなくてはなりません」

「それで?」

「こちらには十八頭おります」

「そんなにはいらん。三頭だけでいい」

「そうでございましょうが、生憎すべて出払っておりまして」

「十八頭すべてが?」

「十八頭すべてが」

「くたばっちまえ!」

「子爵!」婦人が声をかけた。

「ああわかってる、ション。心配しなくていい、もう落ち着くから……それでお前の駄馬はいつ戻って来るんだ?」

「そんな! 旦那さま、手前にはわかりませんよ。御者次第です。一時間か二時間ってところでしょうか」

「そうだろうな」ジャン子爵は帽子を左の耳まで下げ、右足を折り曲げた。「おれは冗談を言わないんだ。わかってるのか? それともわかっていないのか?」

「それは申し訳ございません。冗談がお好きな方でしたらよかったのですが」

「ふん、まあいい。おれが怒り出さないうちに、とっとと馬を繋ぐんだ」

「一緒に厩舎においで下さい。まぐさ棚に一頭でも馬がおったら、ただで差し上げますよ」

「ふざけたことを! では六十頭いたら?」

「一頭もいないのとおんなじことですよ、旦那。その六十頭は陛下のお馬ですからね」

「つまり?」

「つまりですって! お貸し出来る馬はいないってことですよ」

「ではどうしてここに馬がいるんだ?」

「王太子妃ご一行のためです」

「何だって! 飼葉桶には六十頭の馬がいるのに、おれには一頭も貸せないのか?」

「ご勘弁を。ご理解いただけると……」

「一つのことしか理解出来んね。おれは急いでるってことだ」

「お気の毒でございますが」

「それなら」と子爵は、主が口を挟んだのも意に介さずに話を続けた。「王太子妃がここに来るのは夜中になるとしたら……」

「何をお言いで……?」宿の主はぎょっとした。

「王太子妃が到着するまでは馬を借りられるだろうと言ってるんだ」

「まさか仰りたいのは……?」

「うるさい!」子爵は厩舎に足を踏み入れた。「お前に迷惑は掛けん。待っていろ!」

「ですが旦那さま……」

「三頭だけだ。たとい契約上その権利があったとしても、妃殿下みたいに八頭も欲しがりはしない。三頭で充分だ」

「ですが一頭もお貸し出来ませんよ!」主は馬と旅人の間に割って入った。

「ちんぴらめ」子爵は怒りに青ざめた。「おれが誰だか知らんのか?」

「子爵」ションが声をあげた。「お願いだから! 騒ぎは起こさないで!」

「そうだとも、ションション、お前の言う通りだ」子爵は」少し考えてから、「よし、言葉などいらん、行動あるのみ……」

 そうして主に向かって随分と愛想のいい顔つきをして見せた。

「さてご主人。あんたには責任が及ばないようにするとしよう」

「どういうことでしょうか?」子爵の穏やかな顔を見ても、主はびくびくしたままだった。

「自分で片を付けるつもりだ。ここに同じくらい立派な体格の馬が三頭いる。こいつを貰おう」

「貰うと仰いましたか?」

「ああ」

「それを手前に責任が及ばないと表現なさるのですか?」

「そうだろう? お前はくれなかったし、こっちは欲しがっていたんだ」

「ですが不可能だと申し上げたはずです」

「ふん、いいから、馬具は何処にある?」

「じっとしてろよ!」庭や厩で作業中だった二、三人の馬丁に、主が声をかけた。

「やってくれるじゃないか!」

「ジャン! ジャン!」扉を開けてすべてを見聞きしていたションが声をあげた。「面倒ごとはやめて! まだ途中なんだから、我慢が大事よ」

「我慢するさ。だが遅れることだけはならない」ジャンは驚くほど冷静に見えた。「だからだよ。こんちくしょうが手伝うのを待っていたら遅れてしまうから、自分でやろうって言ってるんだ」

 脅しが利いたのを見て、ジャンは壁から馬具を三つ取り外し、三頭の馬の背に取り付けた。

「お願いだからジャン!」ションが手を合わせた。「お願い!」

「たどり着きたいのか、違うのか?」ジャンが歯を軋らせた。

「それはたどり着きたいわよ! あたしたちが着かなかったら何もかも終わりだわ!」

「よし、だったらおれのやることを止めないでくれ!」

 子爵は三頭をほかの馬から選り抜き、輿の方に牽いて行った。

「お考え直しを」主がジャンに追いすがった。「馬泥棒は大逆罪ですよ!」

「盗むんじゃない、借りるだけだ。さあ来い、坊主ども!」

 主は手綱に駆け寄った。だが手を触れることも出来ずに乱暴に押し返された。

「お兄様!」ションが叫んだ。

「そうか、ご兄弟なのか」馬車の中で寛いでいたジルベールは呟いた。

 その時、農家の玄関側つまり道の反対側の窓が開き、美しい顔の婦人が顔を出した。騒ぎを聞きつけてびっくりしたのだ。

「おや、あなたですか」ジャンが声をかけた。

「私?」婦人は拙いフランス語で答えた。

「お目覚めになったんですね。ちょうどいい。あなたの馬をお売りするつもりはありませんか?」

「私の馬?」

「ええ、葦毛のアラブ馬です、そこの鎧戸に繋いでいる。五百ピストールお支払いしますよ」

「この馬は売り物じゃないの」という答えとともに窓が閉められた。

「そうか、今日は運が悪い。売るのも借りるのも断られた。畜生! だが売る気はなくともあのアラブ馬を手に入れてやる。貸す気がなくともこのドイツ馬どもを乗り潰してやる。来るんだ、パトリス」

 従僕が馬車の座席高くから地面に飛び降りた。

「繋ぐんだ」ジャンが従僕に命じた。

「助けてくれ、お前たち!」主が声をあげた。

 馬丁が二人、駆けつけた。

「ジャン! 子爵!」ションが馬車を揺らし、どうにか扉を開けようとしていた。「気でも違ったの? 何もかも滅茶苦茶にするつもり?」

「滅茶苦茶だって? される方じゃなくする方だといいがな。三対三だ。おい、哲学者君」と腹の底からジルベールを呼ばわった。ジルベールはといえば、余りに驚きが大き過ぎて動けずにいた。「ほら、降りろ! 降りて何か動かすんだ。杖でも石でも拳でもいい。降りろったら、馬鹿! 聖人の石膏像みたいだぞ」

 ジルベールが不安に駆られて請うような目でションを見ると、腕を出して引き留められた。

 宿駅の主は大声で喚きながら、ジャンが牽いて行った馬を自分の方に引っ張っていた。

 何とも痛ましく騒がしい三重奏であった。

 それでも戦いには終わりが来る。へとへとになって攻撃を続けていたジャンが、とうとう馬の主に重い拳を一発お見舞いした。主は水たまりにぶっ倒れて、家鴨や鵞鳥が驚いて逃げ出した。

「助けてくれ! 人殺し! 人殺しだ!」

 その間にも、時間の値打ちを知っているらしい子爵は、大急ぎで馬を繋いでいた。

「助けてくれ! 人殺しだ! 王の名において、頼むから助けてくれ!」茫然としている二人の馬丁を呼び戻そうと、主は叫び続けた。

「王の名において助けを呼んでいるのはどなたですか?」突如として一人の騎士が宿駅の庭に駆足《ギャロップ》で飛び込んで来ると、汗まみれの馬を事件の当事者たちの方に向けた。

「フィリップ・ド・タヴェルネ!」ジルベールはこれまで以上に馬車の奥に縮こまって呟いた。

 ションは抜かりなくその名を聞き取っていた。

『ジョゼフ・バルサモ』21-1 「新たな登場人物がお目見えすること」 アレクサンドル・デュマ

第二十一章 新たな登場人物がお目見えすること

 馬輿《うまかご》が勢いよく坂の上まで駆け上ると、馬を替える予定のラ・ショセの町が見えた。

 藁葺き屋根のこぢんまりとした家が建ち並んでいたが、住民たちが好き勝手に建てたものだから、道の真ん中や森の外れ、泉のほとり、なかんずく前述した川の流れ沿いに集中していた。川には板が架けられ、各家庭の軒先に渡されていた。

 だが差し当たってこの小さな町で特筆すべきは、一人の人間である。至上命令でも受けたのか川下の方で道の真ん中に突っ立ち、その間中、本通りを凝視していたかと思えば、お次は家の鎧戸に繋がれているふさふさとした葦毛の馬を見つめていた。馬はといえば、苛立って板に頭を打ちつけ揺らしていたが、背には鞍が置かれて後は主人を待つばかりとあらばそれも致し方ないだろうか。

 その人物はうんざりとして路上に目を彷徨わせていたが、折にふれて馬に近づき、慣れた手つきでどっしりとした臀部に逞しい手をかけ、指先で細い脚をつかんでためつがめつしていた。この振舞によって苛立っている動物をさらに苛立たせたが、男は足蹴をかわして観測場所に戻ると、相変わらず無人の道路を睨んでいた。

 結局何一つ見えないため、男は鎧戸を叩くことにした。

「誰かいないか!」

「どちらさんで?」男の声がして、鎧戸が開いた。

「失礼、馬を売るつもりなら、買手を探さずともいいんだがね」

「ご覧の通り尻尾に藁なんかついてませんよ【※売りもんじゃありません、の意】」と言って、その農民らしい男は一度開いた鎧戸をまた閉じてしまった。

 この答えには到底満足がいかなかったらしく、路上の男は再び鎧戸を叩いた。

 この人物、がっしりとして大柄な四十前後の男であり、赤ら顔、青い髭、幅広いレースの袖口の下にはごつごつとした手が見える。士官用の帽子を斜めにかぶっているのが、パリジャンを驚かしてやろうという田舎者の風情である。

 三度目を叩いたところで堪忍袋の緒が切れた。

「随分と冷たいじゃないか。開けないのなら、今すぐぶち破ってやるぞ!」

 この脅し文句が聞いて、再び鎧戸が開き先ほどの顔が現れた。

「だが馬は売りもんじゃないと言いましたよ」農夫が繰り返した。「まったく! それで充分でしょうが!」

「こっちは馬が欲しいと言ったんだがね」

「馬が欲しいんなら宿駅で手に入れることです。陛下の厩舎のが六十頭はいるでしょうから、よりどりみどりだ。だが一頭しか持ってない人のことはそっとしといて下さい」

「繰り返すが、欲しいのはその馬なんだ」

「冗談言っちゃいけません。アラブ馬ですよ!」

「それを聞いてますます買いたくなった」

「買いたくなるのは構いませんがね……残念ながら売りもんじゃないんですよ」

「誰の馬なんだ?」

「随分と詮索好きですな」

「そっちこそ随分と口が堅いじゃないか」

「いやはや! うちにお泊まりの方のものなんですよ。それは子供のようにこの馬を可愛がってますんでね」

「その人と話がしたい」

「眠ってらっしゃいます」

「男か女か?」

「女の方です」

「よしわかった。その女に伝えてくれ。五百ピストール欲しければ、この馬と交換しよう」

「何ですって!」農夫が目を見開いた。「五百ピストール! そりゃ大金だ」

「こうも言ってくれ。この馬を欲しがっているのは王だ」

「王が?」

「王ご自身が」

「でもまさか、あなたは王ではないでしょうが?」

「そうさ。だが代理なのだ」

「王の代理ですか?」農夫は帽子を脱いだ。

「早く頼む。王はお急ぎだ」

 そう言ってその偉丈夫は確かめるように路上を見つめた。

「そうですか! ご婦人の目が覚めたら、ご安心下さい、一言申しておきましょう」

「そうか。だが時間がない。目が覚めるまでは待てない」

「ではどうしろと?」

「馬鹿だな! 起こすんだ」

「ああ! でもあたしにはとてもそんなことは!」

「そうか、では自分で起こすことにしよう。待ってろ」

 陛下の代理だと自称する男は、手に持った銀の握り付の長い鞭で二階の鎧戸を叩こうと進み出た。

 だが掲げられた手は、鎧戸をかすめることすらなく降ろされた。疲れ切った三頭の馬が輿を牽いて、最後の追い込みに入ったのが見えたのだ。

 男の目は難なく馬車の標識を認めた。あれほど欲しがっていたアラブ馬も敬服させるほどの速さだ。すぐに男は馬車の前に飛び出した。

 この馬車こそが、ジルベールの守護天使を乗せた馬輿だった。

 宿駅まで馬が持つかどうか危ぶんでいた御者は、しきりに合図している人物を見つけると喜んで馬車を停めた。

「ション! ション!」男が叫んだ。「やっと来たか? ご苦労だったな!」

「あたしよ、ジャン」風変わりな名で呼ばれた乗客が答えた。「ここで何をやってるの?」

「参ったな! 待ってたんだよ」

 偉丈夫は踏段に飛び乗り、扉を開けて長い腕で婦人を抱きしめ口づけを浴びせた。

『ジョゼフ・バルサモ』20-2 「ジルベールが今やエキュ……」アレクサンドル・デュマ

 車中の婦人と御者が言葉を交わしている間に、ジルベールは再び気が遠くなりかけていた。座席に戻った婦人の目に、真っ青になって目を閉じたジルベールが見えた。

「ああ、可哀相に。また具合が悪くなってしまったんだわ! あたしも悪かった。飢えと渇きで死にそうだっていうのに、飲み食いさせずにおしゃべりさせてしまったんだもの」

 無駄にした時間を直ちに償おうと、馬車の隠しから彫り細工入りの壜を取り出した。壜の首には金の器が金の鎖で堤げられていた。

「さあこのコート水を少し飲んで」とグラスに注いでジルベールに差し出した。

 今度はジルベールも素直だった。コップを差し出した美しい手のせいだろうか? サン=ディジェの頃よりも空腹がひどかったのだろうか?

「ほら! 次はビスケットをお食べなさい。あと一、二時間もしたら、もっとちゃんとした食事も取らせてあげる」

「ありがとうございます」

 そう言うと、まるでワインを飲み干したようにビスケットを口に入れた。

「いいわ! これで少しは元気になったでしょう。あたしでよければ話を聞かせて頂戴。どんな事情があってあの馬車を追いかけなければならないの? あれは王太子妃一行のものだという話だけど」

「単純なことです。妃殿下がいらっしゃった時、僕はタヴェルネ男爵のところで暮らしていました。妃殿下が男爵にパリまでついてくるようお命じになり、男爵は受諾したのです。孤児の僕のことなど気にかける者などいませんから、お金も食べ物も持たされずに見捨てられました。みんなが見事な馬と馬車でヴェルサイユに向かう以上は、僕もヴェルサイユに行こうと決めたんです。ただし徒歩で。十八歳の足で。十八歳の足でなら、馬や馬車に負けないくらい早くたどり着けるはずだったんです。なのに体力も僕を見捨てました、いや運命が僕に引導を渡したんです。お金を失くしてしまったら、食べることもできません。夜に食べておかなければ、朝、馬に追いつくこともできません」

「素敵、何て勇敢なの! 立派なことだわ。でも一つ心得てないことがあるんじゃないかしら……」

「何です?」

「ヴェルサイユでは、勇気だけじゃ生きていけないわ」

「パリに行くつもりです」

「パリはその点ではヴェルサイユよりも厳しいわ」

「勇気だけで生きられないのなら、働いて暮らします」

「いい答えね。でも何をして働くの? 人夫や人足の手には見えないけれど?」

「勉強をするつもりなんです」

「もう随分といろいろ知っているように見えるけれど」

「ええ、自分が何も知らないということを知っていますから」ソクラテスの言葉を思い出して、ジルベールは大げさな答えを返した。

「聞いてもいいかしら? 学びたい分野は何?」

「そうですね。一番大事な学問とは、同胞のために役立てるものだと思います。その一方、人間はあまりにちっぽけです。強さの秘密を知るためには弱さの秘密を学ばなくてはなりません。お腹のせいで朝から足が進まないのは何故なんでしょう? いつかそれが知りたいんです。それに、本当にお腹のせいなんでしょうか――怒りや熱や毒気が頭に回ったり、僕が路上に倒れたりしたのは?」

「きっと素晴らしいお医者さんになるわ。今でも充分に医学の心得があるみたいだし。十年もしたら、かかりつけはあなたにしましょう」

「お心にかなうよう努力します」

 御者が車を停めた。到着した宿駅には一台の馬車も見当たらなかった。

 問い合わせてみると、王太子妃は十五分前に通ったばかりだという。馬を替えたり食事を取ったりするために、ヴィトリーで止まるはずだ。

 替わったばかりの御者が鞍に跨った。

 婦人は御者に、並足で町を出るよう命じた。やがて家も見えなくなってからしばらく経った。

「御者さん、王太子妃の馬車に追いつくことは請け合える?」

「まあ大丈夫でしょう」

「ヴィトリーの手前で?」

「冗談言っちゃいけねェ! 向こうは速歩《トロット》ですぜ」

「それなら駆足《ギャロップ》で行けば……」

 御者が目を剥いて見つめた。

「三倍払うわ!」

「そういう話はさっさとしてくれるべきでしたな。でしたらとっくに四半里先でしたでしょうに」

「これが手付けの六リーヴル=エキュ。失くした時間を取り戻しましょう」

 御者が後ろに身を乗り出し、婦人が前屈みになり、ついに二人の手が触れ合うと、エキュ銀貨が乗客の手から御者の手へと渡った。

 馬こそとんだとばっちりだ。輿は疾風のように走り出した。

 馬を替えている間に、ジルベールは水飲み場で顔と手を洗っていた。顔と手が瑞々しさを取り戻すと、今度はつやのある髪を梳かしていた。

 ――本当に。と婦人は独り言ちた。――医者になるには充分過ぎる器量だわ。

 ご婦人はジルベールを見て微笑んだ。

 旅の連れが微笑んだ理由に心づいたのか、ジルベールは真っ赤になった。

 御者と話をつけたご婦人は再びジルベールと話し始めたのだが、その逆説・警句・金言に退屈する暇がなかった。

 時折ではあるが、ジルベールの答えの端々に耳哲学を感じて笑いはじけながらも、黙り込んで道の先に目を凝らしたりもした。婦人の腕がジルベールの額に触れたり、丸い膝が脇腹に押しつけられたりすると、伏せた目とは裏腹に顔が真っ赤になるのを見て面白がった。【※quelque réponse sentant le philosophisme à une lieue à la ronde】

 こうして一里ほど走った。婦人が歓声をあげ、躊躇せず前部座席から身を乗り出したため、今度は身体全体がジルベールに押しかぶせられる恰好となった。

 長い坂道を苦労して登っている馬車の後ろ姿を捉えたのだ。連なった馬車からは、ほとんどの乗員が降りている。

 ジルベールは花柄の襞から抜け出し、肩の下に頭を潜らせ、前部座席に膝をついて、坂を登る小人たちの中にタヴェルネ嬢を探そうと目を凝らした。

 ボンネットをかぶったニコルらしき人が見つかった。

「見えましたよ、マダム」と御者が言った。「どうしやすか?」

「追い越して頂戴」

「追い越すですって! そんな無茶な。王太子妃を追い越すなんたァ」

「どうして?」

「ご法度ですよ。王のお馬を追い越すなんて! ガレー船行きですぜ」

「出来ないことはしなくてもいいわ。でも追い越さなくちゃならないの」

「ではあなたはお付きの方ではないんですか?」ジルベールとしては今の今まで、婦人の馬車は一台だけ遅れたのだと思っていたし、馬を飛ばすのも本隊に追いつきたいからだとばかり思っていたのだ。

「知りたがるのはいいことね。口を閉じていた方がいいこともあるわ」

「すみません」ジルベールは真っ赤になった。

「困ったわね。どうしましょう?」婦人は御者にたずねた。

「そうですな。ヴィトリーまではこのままついて行きましょう。そこで妃殿下が車を停めれば、先に行くお許しをもらえばいい」

「そうね、でも誰何されるでしょうし、あたしが誰なのか知られたら……駄目、それじゃ意味がない。別の方法を考えましょう」

 ここでジルベールが声をかけた。「よろしければ考えがあるのですが……」

「聞かせて頂戴。いい考えならいただくわ」

「ヴィトリーに回り込むように抜け道を取れば、無礼を働くことなく王太子妃殿下の前に出ることが出来るのではないでしょうか」

「その通りよ」婦人は声をあげて御者にたずねた。「抜け道はないの?」

「何処に抜けるんです?」

「何処でもいいわ。王太子妃殿下があたしたちより後ろになるようなところなら」

「ああ! そうしますと、右にマロール(Marolle)の道がありますから、ヴィトリーを回り込むようにして、ラ・ショセ(La Chaussée)で本通りに戻れまさァね」

「上出来! そうしましょう!」

「ですけどマダム、回り道をしますと、おあしも二倍になりますが」

「ラ・ショセで王太子妃を追い越していたら、二ルイ出すわ」

「輿が壊れるかもしれませんぜ?」

「心配いりません。輿が壊れたなら、馬で旅を続けるだけです」

 斯くして馬車は右に折れて大通りを離れ、深い轍の残る抜け道に入り、青い水の流れ。ラ・ショセとミュティニー(Mutigny)の間を流れるマルヌ川(la Marne)の支流である。御者は約束を守った。輿が壊れるまで、また目的地にたどり着くまで人間に出来うる限りのことをしたのである。

 ジルベールは何度も婦人の上に投げ出され、婦人の方も何度となくジルベールの腕の中に倒れ込んだ。

 ジルベールは気詰まりにならぬよう礼儀をわきまえていた。たといその目が、婦人を美しいと思う気持を雄弁に語っていようとも、微笑みを浮かべぬ術は心得ていた。

 二人きり揺られたことで親近感が湧き起こった。二時間経って辻に出た頃には、ジルベールは十年も前からご婦人のことを知っていたような気持になっていたし、婦人の方でもジルベールを生まれた時から知っていたと断言できたはずだ。

 十一時頃、シャロン(Châlons)でヴィトリーの本通りに合流した。たずねられた伝令が言うことには、王太子妃はヴィトリで食事を取っただけではなく、疲労を感じたために二時間の休憩を取ったという。

 さらに言うには、自分が次の宿駅に急いでいるのは、繋駕係を呼んで午後三時か四時までには準備させておくためだという。

 この報せに婦人は満足したようである。

 約束通り御者に二ルイ払うと、ジルベールの方を向いた。

「さあ、あたしたちも次の宿駅で夕食を取りましょう」

 だがジルベールはそこではまだ夕食にありつけない定めだった。

『ジョゼフ・バルサモ』20-1 「今やジルベールはエキュ銀貨を失くしたことをそれほど気に病んではいないこと」 アレクサンドル・デュマ

第二十章 今やジルベールはエキュ銀貨を失くしたことをそれほど気に病んではいないこと

 数分後、意識を取り戻したジルベールは、言うなれば自分が若いご婦人の膝の上に横たわり、あまつさえそのご婦人から心配そうに見つめられていることに気づいて、少なからぬ驚きを禁じ得なかった。

 婦人は二十四、五歳で、大きな灰色の瞳、反り気味の鼻、頬は南国の陽に焼かれていた。神経質そうな形の小さな口が、明るく開放的な顔に抜け目のなさそうな表情を与えていた。驚くほどに綺麗な腕が、金釦付きの紫天鵞絨の袖口の中にひとまず収められている。大きな花模様のついた灰色の絹スカートが、馬車一杯に波打って広がっていた。というわけでジルベールは、こうした諸々のことにもやはり驚いたまま、自分がいるのは早駆けする三頭の馬車馬に牽かれた馬車の中だということに気づいたのである。

 ご婦人が微笑みを浮かべて目を注いでいるのを見て、ジルベールはこれは夢かと覚えたまま目を離せないでいた。

「気づいたのね!」一呼吸置いて婦人がたずねた。「悪いところはない?」

「ここは何処です?」と、かつて小説で読んだことのある台詞、しかもまず小説でしかお目にかかることのない台詞を、絶好のタイミングで口にした。

「もう大丈夫」婦人の言葉には明らかな南仏訛りがあった。「だけどもう少しで轢かれるところだったんだから。あんなふうに道の真ん中で倒れるなんて、いったい何があったの?」

「衰弱していたものですから」

「衰弱? どうしたらあんなになるまで衰弱したの?」

「随分と歩いて来たものですから」

「どのくらい?」

「昨日の午後四時からです」

「昨日の午後四時から……じゃあ……?」

「十七、八里はあったはずです」

「十三、四時間で?」

「駆け続けでしたから」

「行き先は?」

「ヴェルサイユです」

「何処から来たの?」

「タヴェルネから」

「それは何処?」

「ピエールフィットとバル=ル=デュックの間にある城館です」

「何か口に入れる時間くらいはあったでしょう?」

「そうする時間すらも、それにそうする手段もなかったのです」

「どうして?」

「お金を落としてしまいました」

「つまり昨日から何も口にしては……?」

「僕が持っていたのはパン数切れだけでした」

「可哀相に! どうして食べ物を分けてくれるよう頼まなかったの?」

 ジルベールは馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「僕には自尊心があります」

「自尊心! もちろん大事なことよ。でも飢え死にしそうな時に……」

「名誉を傷つけられるくらいなら死を選びます」

 婦人は心を打たれたようにこの大げさな少年を見つめた。

「その言葉遣いからすると、どちらの方かしら?」

「僕は孤児です」

「お名前は?」

「ジルベール」

「ジルベール・ド・何です?」

「何も」

「まあ!」婦人はまた一つ驚きの声をあげた。

 相手に与えた効果を見て、ジルベールは自分がジャン・ジャック・ルソーになったと感じて快哉を叫んだ。

「道を旅するには若すぎるわ」

「主人が捨てた古い城館に、一人きりで残され捨てられたんです。おんなじように、今度は僕が城館を捨てたんですよ」

「当てもなく?」

「世界は広い。誰もが幸せになれる場所があります【太陽が万人を照らす場所があります】」

 ――そうか。と婦人は口の中で呟いた。――田舎の城館から逃げ出してきた庶子なのだ。

「それで、財布を落としてしまったというのね?」婦人は声に出してたずねた。

「そうです」

「たくさん入っていたの?」

「六リーヴルエキュ一枚だけです」窮状を告白するという恥ずかしさと、不正に手に入れたと思われかねない大金をひけらかす危うさがせめぎ合っていた。「でもそれで充分でした」

「六リーヴルエキュでそんな長旅を! 二日間でパンを買うのがやっとですって! しかもそんな道のりを! バル=ル=デュックからパリと言ったわね?」

「ええ」

「六十里近くはあったはず?」

「距離など物の数ではありません。行かなければならない――それだけです」

「だからあなたは旅出った、と?」

「幸いにしてこの足があります」

「丈夫な足にも疲れが出るわ。今のあなたみたいに」

「ああ、駄目になったのは足ではありません。僕に欠けていたのは希望です」

「確かに絶望していたようね」

 ジルベールは悲しげに微笑んだ。

「何が心に巣食っていたの? 自分の頭をぶって、髪を掻きむしったりして」

「本当ですか?」ジルベールは困惑し切ってたずねた。

「もちろん嘘なんかじゃないわ。やはり絶望のあまり馬車の音も聞こえてはいないようだった」

 実話だとわかったおかげで、自分の立場がぐっと上向いているのを感じた。しめた。風が向いてきている。相手が女性ならなおのこと。

「絶望していたのは事実です」

「何が原因?」

「追っていた馬車に追いつける望みがなくなったせいです」

「まあ!」婦人が笑顔を見せた。「それは一大事ね。恋愛がらみかしら?」

 懸命に隠そうとしたものの顔が赤くなってしまった。

「どんな馬車なの、小カトーさん?」

「王太子妃ご一行の馬車です」

「待って! 何て言ったの? じゃあ王太子妃がこの先にいらっしゃるのね?」

「恐らく」

「まだせいぜいナンシーでもたもたしてると思ったのに。途中で歓迎されたりはしなかったの?」

「そんなことはありません。でも妃殿下は急いでいらっしゃるようでした」

「急いでいる? 王太子妃が? 誰がそんなことを?」

「推測したのです」

「あなたが?」

「ええ」

「どこからそんな発想を?」

「タヴェルネ邸で二、三時間お休みになるつもりだと初めに仰ったことからです」

「凄い! それで?」

「実際にお休みになったのは四十五分ほどでした」

「パリから手紙か何かを受け取ってらっしゃらなかった?」

「刺繍入りの服を着た男の方が手紙を手にして現れたのが見えました」

「その方の名は?」

「わかりません。ただストラスブールの司令官とだけしか」

「スタンヴィル殿。ショワズール殿の兄弟か! ひどいものね。急いで、御者さん、もっと早く!」

 この訴えに鞭が力強い音を立てて答えた。すると既に駆足《ギャロップ》で走っているというのに、さらに速度が上がったように感じられた。

「要するに、王太子妃はこの先に?」

「そうです」

「でも食事を取りに停まるはず」自分自身に言い聞かせるようにしていた。「だったら追い抜くこともできる。今夜は無理でも……今夜はもう車を停めたの?」

「ええ。サン=ディジェで」

「何時だった?」

「十一時頃です」

「それなら夜食ね。だったらきっと昼は取るはず。このまま進んで次に着く大きめの町は何処?」

「ヴィトリ(Vitry)でござァます」

「今はヴィトリからどのくらい?」

「三里ですね」

「何処で馬を変えるつもり?」

「ヴォクレール(Vauclère)です」

「いいわ、ありがとう。途中で馬車の列を見かけたら知らせて頂戴」

PROFILE

東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 名前:東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 本好きが高じて翻訳小説サイトを作る。
  • 翻訳が高じて仏和辞典Webサイトを作る。

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