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 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『ジョゼフ・バルサモ』第103章

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

第百三章 プラトリエール街の支部ロッジ

 出席者たちの話し方が随分と目立たず抑えられたものであることに、ルソーは気づいた。口唇がほとんど動いていない。言葉を交わしているのはせいぜい三、四組だけだ。

 口を閉ざしている人々は、顔を隠そうとさえしている。いまだ議長のいない演壇の作る影が大きいため、それは難しいことではなかった。

 臆病にも思える人々の隠れ場所が、この演壇の後ろだった。

 だがなかにはいろいろと動き回って知り合いの顔を見つけようとしている人々もいた。行ったり来たり、おしゃべりを交わしたり、そうかと思えば扉を通って順番に姿を消していた。扉には赤い炎が灯され黒いカーテンが掛けられている。

 やがて鐘が鳴った。ついこれまでほかのメーソンたちと話に興じていた人物が、さあらぬ態でベンチの端から離れて、壇上に上った。

 手と指で何事か合図をして、出席者たちがそれに倣うと、最後にそれまでとは明らかに違う動きをした。開会の宣言だ。

 それはルソーの見たこともない人物だった。裕福な職人という外見の下に、たっぷりと機智を秘めており、演説者に求められる豊かな声を授かっていた。

 演説は簡単明瞭だった。曰く、こうして集会を開いたのは新しい同志ブラザーを迎えるためである――。

「入会試験をすることが出来ないような場所に集まってもらったのはほかでもない。試験など無用だと支部長たちは判断した。迎え入れようとしているのは、当代きっての哲学を照らす光、聡明な智性の持ち主だ、恐れからではなく信念によって忠誠を誓ってくれるに違いない。

「この方は森羅万象の謎も人間の心の謎も解き明かそうとして来たのだ。凡人に対して技術や意思や財産の強力を仰ぐのと同じようなやり方では、心を動かすことは出来まい。その類い稀なる精神を借りるにしても、誠実な人柄と熱意だけで充分信頼に足りよう。本人の約束と同意があれば充分ではないか」

 こう提案して話を締めくくり、会場を見回して反応を確かめた。

 ルソーは魔法にかけられたような反応を見せていた。フリーメーソンの入会儀式のことは知っていたが、明敏な頭脳の持ち主には嫌悪感をもよおさせるものだと考えていた。そんな奥伝などどれもこれも馬鹿馬鹿しいばかりで、無意味なものだからだ。入会者に怖がっているふりをさせながらも、恐れるものなど何もないと知れているのであれば、幼稚極まりない意味のない迷信にしか思えなかった。

 そのうえ、内気な哲学者にとっては感情表現や自己顕示というのがまた天敵であり、見知らぬ人々の前に姿を晒すのは苦手中の苦手であった。しかも形はどうあれ誠意につけこまれたのは間違いない。

 だから試験を免除されたとわかった時の喜びはひとしおであった。フリーメーソンの標語である「平等」が厳格なものであることは知っていたから、特別扱いされたことに言いしれぬ誇らしさを感じていた。

 ルソーが議長の弁舌に一言答えようとした時、会場から声があがった。

 その声は高く震えていた。「少なくともあなたは、我々と同じ人間を王族のように扱わざるを得ないと考えているのですね。肉体的苦痛を通して自由を求めることが我々の象徴の一つであるにもかかわらず、肉体的苦痛を免除するのですね。儀式に則って質疑をおこない、信条を表明させない限り、見知らぬ人物に入会資格を与えることはやめていただきたい」

 ルソーが首を回してこの攻撃的な人物の顔を見ると、凱旋車の上で激しく訴えていた。

 非常に驚いたことに、それはまだ朝のうちにフルール河岸で再会を果たしたあの若い外科医であった。

 ルソーは誠意から、そして恐らくは資格に対する侮蔑から、それに答えようとはしなかった。

「お聞きになりましたか?」議長がルソーにたずねた。

「聞こえました」自分の声が薄暗い地下室の穹窿に響き渡ったのを聞いて、ルソーは軽く身震いを覚えた。「疑義を口にされた方を見て、ますます驚きました。肉体的苦痛と呼ばれるものと戦い、そうして同胞たちを助ける職業に就いている方が、ほかの会員の方々と何ら変わらぬ人間であったとは。肉体的苦痛の有効性を説くなんて!……人間に幸福をもたらし、病人に快復をもたらすにしては、随分と奇妙な方法を取るものです」

「そんな人物の話をしているのではない」若者は語気を荒げた。「私とこの新入りは見ず知らずの人間です。理屈の話をしているのであり、議長が誰かを特別扱いするのは間違っていると申し上げているのです。私はこの人物が――」とルソーを指さし、「哲学者だと気づいたふりはしません。向こうでも私が医者であることは否認してくれることでしょう。我々は一生を通じて一目たりとも交わさずに過ごすべきであり、協会のおかげで普通の友情よりも固い結束で結ばれているにもかかわらず、仲間であることを示す合図を洩らしたりせずに過ごすべきなのです。繰り返しますが、新入会者の試験を免除すべきだと思われるにしても、せめて質疑だけはおこなうべきなのではありませんか」

 ルソーは何も答えなかった。その顔の上に、議論を嫌う気持や、集会に参加したことを後悔する気持が表れていることに議長は気がついた。

同志ブラザーよ」議長は厳格な声を出した。「支部長が話をしている時には沈黙を守るべきであり、絶対的な言動に対し少しでもけちをつけるべきではない」

「私には疑義を呈する権利があります」若者はもっと穏やかに答えた。

「疑義の権利は認めるが、けちをつける権利は認めぬ。我々フリーメーソンには愚にもつかない無益な神秘を仲間に供するつもりのないことは、入会予定のこの同志も重々承知している。ここにいる同志たちは誰もが新入りの名前を知っており、その名前が何よりの保証だ。無論、本人も平等を愛する者であろうから、儀式の際に用いられる『結社に何を求めているのか?』という質問に答えてくれることと信じている」

 ルソーは一歩前に出て出席者から離れると、夢見るような憂鬱な目つきを会場に彷徨わせた。

「わたしが結社に求めているものは、結社の中には見つからないものです。まやかしではなく、真実なのです。刺さらない短剣、綺麗な水入りの毒、下に布団の敷かれた落とし穴、何故わざわざそんなもので脅すのですか? 人間の能力の限界はわかっていますし、自分の体力のこともわかっています。その力を損ねてしまえば、わたしを選んだことが無駄になってしまいますからね。死んでしまえばお役には立てません。だからあなたがたにはわたしを殺すつもりもなければ、ちょっとでも傷つけるつもりもないのでしょう。何処の医者だって、手足を折られている人を見て、黙って儀式を眺めていたりするとは思えません。

「わたしはあなたがたの誰よりも苦しい見習い期間を経験して来ました。肉体を探り、魂にまで触れて来たのです……仲間に入るように請われて、引き受けた暁には――」ルソーはここで言葉を強調した。「皆さんの役に立つことが出来ます。与えるだけで、受け取るつもりはありません。

「嗚呼! わたしを縛るために何かするのも構いませんし、あなたがたなりのやり方で、囚われているわたしに自由を、飢えているわたしにパンを、苦しんでいるわたしに慰めを下さるのも構いません。それにあなたがたがどうなろうと構いませんが、今日から仲間入りを許された同志であるこのわたしは――もっとも、こちらの紳士が入会を許してくれたらの話ですが――」と言ってマラーを見た。「そうなる前に土に還ってしまうに違いありません。進歩の足はびっこを引いて、啓蒙の光はあまりにのろい。わたしの落ちた場所からは、誰も引き上げてはくれないでしょう……」

「あなたは間違っておいでだ」人を惹きつけるような鋭い声が飛んで、ルソーは自然と耳を奪われた。「あなたがお入りになるつもりのこの結社には、あなたの考えを遙かに超えたところがある。この世の未来のすべてがある。未来とは希望であり科学だ。未来とは神であり、神はこの世に光を与えてくれることでしょう。何故なら神は約束されたのだから。無論、神は嘘をつかない」

 この言葉に驚いたルソーが声の主を見ると、まだ若い見覚えのある男だった。今朝、親裁座のところで会った人物だ。

 その黒衣の男には気品があり、ほかの人物とは毛並みが違った。演壇の横にもたれかかり、鈍い光に照らされた顔は、美しさと気品と飾らない表情で輝いていた。

「そうなんです!」ルソーが答えた。「科学とは汲めども尽きせぬ深淵にほかなりません! あなたは科学と慰めと未来と約束の話をされたのに、ほかの人は物質と厳しさと暴力の話をなさるのですね。どちらを信じればいいのでしょうか? 狼たちに頭上で蠢かれているような状態のまま、同志たちに加わらなければならないのでしょうか? 狼たちと羊たち! どうかわたしの信仰告白をお聞き下さい。わたしの本は読まれていないでしょうから」

「あなたのご本は、それは崇高な理想に満ちていますが、絵空事に過ぎませんね」とマラーが言った。「役に立つと言われても、ピタゴラスやソロンやキケロのような詭弁家と変わらない。あなたは幸福を説いていますが、あんなのは人工的で手の届かない幸福だ。光に当たってきらきら光るシャボン玉を、飢えた民衆に食わそうとしているようなものです」

「何の前触れもなく大災害が起こるのをご覧になったことがありますか?」ルソーは眉をひそめた。「人間が生まれるという、ありきたりですが崇高な出来事をご覧になったことは? 九か月を重ねて母親のお腹に宿らずに、人間が生まれるのをご覧になったことがありますか? 世界を変える行動を起こすべきだとお考えなのですか?……起こるのは世界の変化ではなく、革命ではありませんか!」

「ではあなたは独立を望まないのですか? 自由を望まないのですか?」

「とんでもありません。独立こそわたしの偶像であり、自由こそわたしの女神ですから。ただしわたしの望む自由とは、包み込んで温めるような、穏やかで喜びに満ちた自由なんです。わたしの望む平等とは、恐怖ではなく友情によって人を結びつける平等なんです。わたしの望む教育とは、社会を構成する一つ一つの分子に教育を施すことなんです。修理工が滑らかに動かそうとして、家具職人が家具を組み立てようとするのと同じことです。つまり一つ一つの歯車が残らず協力してきっちり組み合わさること。繰り返しますが、わたしの望みはすべて本に書いてあります。進歩、調和、献身」

 マラーは口元に嘲りを浮かべた。

「ミルクと蜂蜜の流れる川、ウェルギリウスの描いた楽園、哲学者が実現を夢見る詩人の空想ですね」

 ルソーは答えなかった。引っ込み思案なのだと言い訳するのも気が重い。ヨーロッパ中から過激な改革者と呼ばれて来たのだ。

 正直で内気な心を慰めるため、先ほどかばってくれた人物に目で助けを求め、暗黙の同意を得ると、ルソーは黙って席に着いた。

 議長が立ち上がった。

「話は聞いたな?」

「はい」出席者たちが答える。

「この者は同志に相応しいか? 義務を理解したか?」

「はい」答えには躊躇いがあった。全員納得のうえではないのだろう。

「誓いを」議長がルソーに命じた。

 ルソーには自負心があった。「何人かの会員に嫌われてしまったのは残念なことです。もう一度わたしの考えを繰り返さなくてはなりませんね。これがわたしの信仰の言葉にほかなりません。わたしが雄弁であれば、人の心をがっちりつかむことも出来るでしょうに、いつも言葉はわたしの考えを裏切り、お伝えしたいことを上手くお伝えすることが出来ません。

「わたしの言いたいのは、あなたがたのしきたりをこまめに実践しなくとも、この集まりから離れたところで、世界やあなたがたのために出来ることがあるということです。ですからわたしの仕事にしても、気の弱いところにしても、一人きりでいることにしても、大目に見ていただきたいのです。わたしは棺桶に片足を突っ込んでいる人間だと申し上げました。物思いに身体の痛み、それに不幸がわたしを墓場に駆り立てるのです。自然の偉大な営みを遅らせることは誰にも出来ません。どうか一人にしておいて下さい。わたしは人とは並んで歩けない人間なのです。わたしは人を嫌い、人を避けて来ました。それでも人の役に立つことは出来ます。わたし自身も人間だからです。わたしが人の役に立つことで、人間が今より上に行けることを夢想しているのです。これで考えていることはすっかりお伝えいたしました。もう何も言うことはありません」

「では誓いを拒むのですか?」マラーの声には棘があった。

「きっぱりとお断りいたします。結社に属するつもりはありません。そんなことをしてもお役に立てないことはあらゆる証拠が証明してくれるでしょう」

「同志よ」黒衣の男の取りなすような声が聞こえた。「そう呼ぶのを許していただきたい。何故なら我々は人間の心が織りなすあらゆる頸木から離れた、真の同志きょうだいだからだ。同志よ、忌々しいと思うのは当然だが、それに負けてはいけない。自惚れるのももっともだが、しばし自惚れは忘れて欲しい。あなたはお嫌だろうが、どうか我々のために腰を上げてもらえないだろうか。あなたの助言、思想、存在は光なのだ! 不参加のうえに拒絶までして、二重の闇に我々を投げ込まないで欲しい」

「それは違います」ルソーは答えた。「あなたがたからは何も奪いはしません。あなたがたに授けるのは、著作の第一読者や新聞の第一評のようなほかの方々に授けて来たことと何ら変わらないのですから。もしあなたがたがルソーの名前と価値をお求めでしたら……」

「もちろん求めている!」いくつかの声があがった。

「でしたら、わたしの著作をお読み下さい。議長の机上に積み上げて下さい。いつかあなたがたが意見を募り、わたしの話す番が回って来た時には、わたしの本をお読み下さい。そこにわたしの意見、わたしの判断が書かれてあります」

 ルソーは立ち去ろうと一歩を踏み出した。

「お待ち下さい!」外科医のマラーが声をあげた。「どんな意思であれ自由であるべきですし、それは著名な哲学者の意思であろうと変わりないことは認めます。だがこうして会員ではない俗人を聖域に招き入れるのは異例のことになるはずです。如何なる暗黙の契約にも縛られていないのですから、たとい不誠実な者でなくとも、秘密を洩らしかねないではありませんか」

 ルソーは同情するような微笑みを返した。

「沈黙の誓いをお望みなのですか?」

「その通りです」

「用意は出来ています」

「誓いの文句を読み上げて下さい、同志」マラーが言った。

 私は永遠の神の存在にかけて、また宇宙と賢者と結社の創造主にかけて誓う。目の前でおこなわれたことを決して明かさず、決して知らせず、一言も記さないことを。いやしくも慎みを忘れた際には、偉大なる創始者と賢者たちの律法、並びに父の怒りに従いて、自らを罰することを誓う。

 ルソーが手を伸ばした頃には、先ほどの人物が議長に近づき何事か囁いていた。言葉の応酬に耳を傾けている最中も、人混みに紛れながらも誰にも有無を言わせぬだけの貫禄があった。

「もっともだ」議長はそれに答えてから、ルソーに話しかけた。「あなたは同志ではなく、一人の人間であり、考えを同じくする場合に限って会議の場で顔を合わせる名誉会員だ。こうなれば我々もこだわりを捨てよう。ここで起こったことはすべて忘れるというただ一言だけを聞かせて欲しい」

「寝覚めの夢のように忘れましょう。名誉にかけて誓います」ルソーは感激して答えた。

 その言葉と共にその場から立ち去ると、たくさんの会員たちが後に続いた。

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『ジョゼフ・バルサモ』 第102章

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

第百二章 見知らぬ人物の言葉がジャン=ジャック・ルソーに与えた影響

 見知らぬ人物の口から不可解な言葉を耳にした後で、ルソーは辛そうに震えながら人混みを掻き分け、自分が年老いていることも人混みが苦手なことも忘れて道を切り開いた。やがてノートル=ダム橋にたどり着いたので、相変わらず思索に耽りながらラ・グレーヴ地区を突っ切って、自宅のある方に真っ直ぐ向かおうとした。

 ――要するに、秘伝を受け継いだ者たちが命を賭けて守っている秘密は、先人が手に入れたものなのだ。だから秘密結社は人々をふるいにかけてそれを手に入れる……わたしのことを知っていた人物は、わたしが仲間であり、恐らくは共犯関係にあることがわかっていたのだろう。そんな状態は馬鹿げている、我慢がならない。

 そんなことを思いながら、ルソーは足早に歩いていた。常日頃から、それもメニルモンタン街の事件があってからは警戒を怠ることがなかった。【※『孤独な散歩者の夢想』第二の散歩】

 ――要するにわたしは、人類を改革する計画の核心が知りたかったのだ。イルミナティという名で飾られたいろいろな思想を知りたかったのだ。優れた思想がドイツというビールと靄の国からもたらされると信じるとは、何と愚かだったのだろう。馬鹿や山師と関わって、愚かさを隠す外套代わりにわたしの名を利用されることになるのかもしれない。いや、そんな風にはなるまい。稲光が深淵の場所を教えてくれたというのに、そこに自ら進んで身を投げたりはすまい。

 やがてルソーは杖にもたれて立ったまま一休みして、通りの真ん中でじっとしていた。

 ――そうは言っても、素晴らしい夢想だ。いつかの将来、奴隷にも自由が、障碍も音もなく勝ち取った未来、地上の暴君が眠りを貪っている隙にいつの間にか張られた網……あまりに好都合すぎて、信じる気になれなかった……恐れや疑いや妬みなど御免だ。そんなものは自由な精神や独立した身体に相応しくない。

 こんなことを呟きながら、いつしか歩みを再開していた。ド・サルチーヌ氏配下の警官たちがじろじろと目を光らせて、自由な心を脅かし、独立した身体に先を急がせた。ルソーは柱通りの暗がりのより深いところに迷い込むことになって、その下を歩き続けた。

 柱通りからプラトリエール街まではそう遠くない。ルソーは足を早めて、階段を上りながら追われたダマ鹿のようにほっと息をついた。部屋に入ると椅子に倒れ込んだまま、テレーズに何を聞かれても返事すら出来なかった。

 それでもようやく、昂奮している事情を説明できるようになった。走って来たこと、暑さ、親裁座で国王が怒りを見せたという報せ、恐怖に駆られた民衆が動揺し、その余波が蠢いていたこと。

 テレーズはぶうぶう唸って、そんなこと夕食を冷ます理由にはなりませんよ、第一ね、男の人なら小さな物音に怯えるような臆病者じゃあいけませんもの、と言った。

 ルソーは二つ目の発言に対して何も答えなかった。これまで形を変えて何度も言われて来たことだ。

 テレーズはさらに言葉を重ねた。哲学者みたいな空想癖のある人たちはね、みんな同じですよ……著作の中でわんわん喚くのをやめないじゃありませんか。何も恐れてはいないと言いながらね。神様も人間もどうでもいい存在だとか。そのくせ小さなワンちゃんがキャンキャン吠えただけで、「助けてくれ!」と叫んだり、熱が出ただけで、「死にそうだ!」と叫んだりして。

 これはテレーズお得意の話題だった。こうなるとテレーズのおしゃべりにますます磨きがかかり、生来おとなしいルソーはますます口ごもってしまう。こうしてルソーは辛辣な調べに乗せて思いを馳せていた。いくら罵詈雑言を浴びせられようとも、テレーズの思っていることに劣らず大事なことを考えているのだ。

「幸せとは香水と小言で出来ている。音と匂いは昔から変わらない……玉葱からは薔薇ほどいい匂いがしないと誰が決めたんだ? 孔雀には夜鶯ナイチンゲールほどの歌声がないと誰が決めたんだ?」

 それなりの逆説と言えなくもないこの箴言を合図に、二人は食卓に着いて夕食を摂り始めた。

 ルソーは食事を終えると、いつものようにチェンバロの前には行かずに、部屋を何度もうろつき回り、幾度となく窓からプラトリエール街の様子を確かめた。

 こうなるとテレーズが嫉妬の発作に囚われた。からかい好きな人々、言いかえるならこの世でもっとも嫉妬深くない人々が不快を感じて起こすような発作である。

 なるほど不愉快なのが見せかけであるのなら、欠点ではあってもなお長所と言えなくもない。

 テレーズはルソーの女々しさ、体質、性質、習慣を心から軽んじていたし、ルソーが年老いて、身体を壊し、醜くなったことに気づいていたから、夫を奪われることなど思いも寄らなかった。違う見方でルソーを見つめる女がいるとも思えない。とは言うものの、嫉妬の苦しみは女にとって蜜の苦しみ。そこでテレーズも時にはそんなご馳走を味わうことにしていた。

 そこでルソーがちょろちょろと窓に近づき、考え事に耽ってじっとしていないのを見ると、

「随分とそわそわとしているじゃありませんか……ちょっと前に誰かと会ってたんでしょう」

 ルソーがぎょっとして見つめたので、テレーズはますます確信を深くした。

「その人とまた会えないかと思ってるんですね」

「何だって?」

「逢い引きの約束があるんじゃありませんか?」

 嫉妬しているのだということにようやく気づいた。「逢い引きだって? 馬鹿だね、テレーズ!」

「馬鹿げたことだってのはようくわかってますよ。でも何をやらかしたっておかしくない人ですからね。ほらほら、紙粘土みたいな顔をしてますよ、胸も波打ってるし、乾いた咳をしているじゃありませんか。その女をものにしてくればいいんですよ。あなたには丁度いいんじゃありませんか」

「だがねテレーズ、本当に何でもないんだよ」ルソーは顔をしかめた。「静かにしておいてくれないか」

「あなたは放蕩者なんですよ」これまで以上に真面目な口振りだった。

 事実を言い当てられたかお世辞でも言われたように、ルソーは顔を赤らめた。

 そこでテレーズが考えたのは、恐ろしい顔をして、食器をひっくり返し、音を立てて扉を閉め、冷静なルソーをもてあそぶくらいのことはしてもいいということだった。つまり子供たちが金属の輪っかを箱に入れて大きな音を立てて振るようにである。

 ルソーは自分の部屋に逃げ込んだ。こんなに騒がれては考えもまとまらない。

 河岸で話しかけられた人物の謎めいた申し出に応じないと、恐らくまずいことになるだろう。

 ――裏切り者に罰が与えられるのなら、小心者や怠け者にも罰があって然るべきだ。大きな危険が何もないことも、大きな脅威が何もないこともわかっているではないか。そんなことで刑罰や処刑を喰らったりすることは滅多にない。だが復讐や陰謀、詐欺のような細々としたことに気をつけなくては。いつかフリーメーソンの会員たちに、馬鹿にされた仕返しだといって階段に綱を張られかねない。足を折って、一桁しか歯が残らないなんてことにも……或いは、建築現場を歩いていると頭上から石材が落ちてくる……いやもしかすると、この近くに誹謗小冊子パンフレット書きが住んでいるかもしれない。それも同じ階に住んでいて、窓からパンフレットを投げ込みはしないだろうか。あり得ないことではない。会合はプラトリエール街でもおこなわれているのだから……あることないこと書いて、パリ中でわたしを笑いものにするつもりだろう……そこいらじゅうに敵がいるのだから……

 やがてルソーは別のことを考え始めた。

 ――わたしには勇気がないのか? 名誉は? わたしは自分と向き合うのが怖いのだろうか? 鏡を見ても、そこに映るのは臆病者や悪戯者でしかないのだろうか? いや、そんなことはない……たとい世界が寄ってたかってわたしを不幸に陥れようとも、たといこの通りの地下室が崩れ落ちて来ようとも、出かけよう……それに、推測してばかりだから恐れも生まれるのだ。あの男に会ったせいで、帰って来てからずっと馬鹿なことにばかり考えを巡らせてしまう。こうなってしまうと何もかも信用できなくなる、自分自身さえも! 理屈ではない……自分が昂奮しやすい人間でないのはわかっている。結社に素晴らしいところがあると思ったのなら、それは本当に素晴らしいところがあるからだ。わたしが人類の改革者ではないというのだろうか。おたずねものになり、無限の力を持った警官たちから著作を調べられていたわたしが。人々がわたしの著作をたどって、理論が実践に移されるべきときが来れば、わたしは用済みになるのだろう!

 ルソーは俄に活気づいた。

 ――素晴らしいことだ! 時代は進む……人々は痴呆状態から抜け出し、暗闇の中に足を踏み出し、手を伸ばすに違いない。巨大なピラミッドが聳え、その上にはいつの日かジュネーヴ市民ルソーの胸像が掲げられることになるのだ。有言実行、自由と生活のために戦い、自らの主義に忠実だった男として。真理に命を捧ぐVitam impendere vero

 それからルソーはチェンバロの前に移動し、もやもやした思いを大仰で堂々とした勇ましい調べに変えて、楽器の脇から音を出した。

 夜が訪れた。テレーズは気持を張り詰めすぎてぐったりしてしまい、椅子の上で眠りこけていた。ルソーは胸をどきどきさせながら、まるで逢い引きにでも出かけるかのように新しい服に着替えた。鏡に映して黒い目を確かめてみると、生き生きとして雄弁に動いていた。いい徴候だ。

 ルソーは籐の杖を突いて、テレーズを起こさぬように部屋から抜け出した。

 だが階段の下まで来て、通りに面した扉の鍵を回してから、ルソーが真っ先におこなったのは、外を覗いて町の様子を確かめることだった。

 馬車は一台も通っていない。いつもと変わらず通りにはたくさんの人が散歩しており、いつもと同じく顔を合わせ、売り子の女性目当てに店先で立ち止まっている人たちも多かった。

 このうえ一人増えたところで誰も気づくまい。ルソーは人混みに飛び込んだ。目的地までは遠くない。

 ヴァイオリンを手にした歌うたいが門の前にいるのがわかった。正真正銘のパリっ子なら耳を奪われるような音楽が通りに響き、楽器の音や歌声がルフランを繰り返したいる。

 だからその場を取り囲んでいる聴衆を除けば、通行の邪魔になるようなものは何もない。通行人はこの聴衆の右か左に進まなくてはならない。左に向かえば通りを横切ることになる。右に向かえばその反対に、注目の的となっている家に沿って進むことになる。

 通行人の多くが罠にでも落ちたように道を彷徨っていることに、ルソーは気づいた。どうやら同じ目的地に向かっているらしいとわかり、後をついて行くことにした。簡単なことだ。

 そこで聴衆の後ろに回り、さも音楽でも聴くように足を止めて、誰かが出入り自由な並木道に入るのを見逃すまいとした。人より慎重なのは、恐らく人より危険を冒さなくてはならないからだろう。ルソーは何度も機会を窺っていた。

 長くは待たずに済んだ。通りの向こうからやって来た二輪馬車が、人の輪を二つに割り、二つの半円を家屋に向かって押し返した。気づけばルソーは並木道の入口に立っていた。進むしかない……野次馬たちは二輪馬車に気を取られて、家に背を向けている。誰からも見られていないのをこれ幸いと、暗い並木道の奥に姿を消した。

 数秒後、光が見えた。その下に寛いで坐っている男が一人、その日の店を畳んだ商人然として、新聞を読んでいるか読んでいるふりをしている。

 ルソーの足音を聞きつけて、その男が顔を上げ、胸に指を押し当てるのが、明かりの下ではっきりと見えた。

 ルソーも口唇に指を当ててその符丁に答えた。

 すぐに男が立ち上がり、右手の扉を押した。その扉は男がもたれていた羽目板に巧妙に擬装されて、それとはわからないようになっていた。険しい下りの階段が見える。

 ルソーが中に入ると、扉が音もなく素早く閉じられた。

 ルソーは杖の助けを借りて階段を降りた。第一関門の段階で首や足を折りかねないことを会員たちから強いられるのは、いい気分ではない。

 だが階段は険しいにしても長くはなかった。十七段進むと、目と顔が熱気に襲われるのを感じた。

 湿った熱気の正体は、地下室に集まった大勢の人々の息だ。

 赤と白の壁紙が貼られた壁に、様々な種類の工具が描かれたいた。実物通りではなく、図案化されているようだ。ランプが一つだけ穹窿からぶら下がり、木製の腰掛けベンチの上で囁き声を交わしている幾つもの正直そうな顔を、不吉に照らしている。

 床には板敷も絨毯もなく、重ねた茣蓙が足音を消していた。

 だからルソーが入室しても、何の騒ぎも起こらなかった。

 現れたことに気づかれてもいないようだ。

 五分前にはこうした反応しか望んでいなかったにもかかわらず、いざ実現してみると寂しさを感じた。

 後列のベンチが空いている。ルソーはなるたけ遠慮して、誰よりも後ろに坐った。

 数えてみると三十三人の人間が集まっている。演壇は議長のために空けられていた。

『ジョゼフ・バルサモ』 第101章

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

第百一章 親裁座

 問題となっている親裁座は、荘厳かつ厳格のうちにおこなわれた。一つには王国の威信に賭けて、また一つには国王が今回のクーデターに踏み切ることなった陰謀がその理由である。

 国王親衛隊は武装して任務に就き、短装の弓兵、警備兵、警官隊が大法官の護衛を務めていた。事に当たる将軍のように、計画に際して身体を張る必要があったのだ。

 大法官は憎まれていた。本人もそのことはわかっていたが、思い上がりにも暗殺を恐れていたとしても、それ以上に輿論に聡い人々であれば予言することさえ簡単に出来たであろう。つまり生じるのは暗殺ではなくなかなか結構な侮辱であり、侮辱でなくとも野次の嵐である、と。

 同じ結論はデギヨン氏にも言えた。世間は本能的にデギヨン氏を嫌っていたし、高等法院の弁論がそれを後押しした。国王は静閑を決め込んでいたものの、内心のところは冷静ではいられなかった。だが国王に相応しいきらびやかな衣装に感服しているのはわかったし、国王陛下のように守られているものなど何一つないのだと即座に思い至ったのがわかった。

 「そして国民の愛も」とつけ加えることも出来た。だがそれはメッツで臥せっていた際に繰り返し聞かされた言葉であったので、そんなことを繰り返しては、盗用したという非難は免れ得まい。

 その日の朝、こうした光景を初めて見る王太子妃は、実のところは見たくて仕方なかったのだろうが、顔に憂えを浮かべ、儀式の終わるまでずっと表情を変えなかったために、それが好意的に受け止められられた。

 デュ・バリー夫人は堂々としていた。若さと美しさに基づく自信に満ちていた。もっとも、それが夫人のすべてではないだろうか? ほかにつけ加えることがあるだろうか? 恋人である国王の荘厳な光に照らされたように、燦然と輝いて見えた。

 デギヨン公爵は大胆にも、国王の面前に居並ぶ大貴族たちの方に歩いて行った。顔中が気高さに満ち、苦悩の跡も不満の跡も認められない。勝利の影は窺えない。そうやって歩いているのを見れば、国王と高等法院が公爵の領地で戦いに敗れた可能性など想像もつかなかった。

 人混みの中から誰もが指を指し、高等法院の座席から恐ろしい目つきを送ったが、それだけだった。

 裁判所の大広間には、当事者と野次馬、合わせて三千人以上の人が溢れていた。

 建物の外では、守衛や弓兵の警棒や大槌に押し返された群衆が、声でも言葉でもない唸りを発していた。その唸りだけが聞こえてくる様子は、まさに人から成る波の音と呼ぶに相応しい。

 足音が止み、各員が席に着き、顔を曇らせた国王が大法官に向かって厳かに発言を命じた際にも、同じような沈黙が大広間に訪れた。

 自分たちを標的にして親裁座が開かれていることを、高等法院は予め承知していた。召集された理由も心得ていた。寛大とは言えぬ心積もりを聞かせるために違いない。だが国王が優柔不断とは言わぬまでも、辛抱強いことはわかっている。だから高等法院が恐れているとすれば、それは親裁座そのものではなく、その影響の方であった。

 大法官が演説を始めた。大法官は能弁家であった。その導入の巧みなることは、雄弁な演説を好む方々なら、そこに格好の材料を認めたことであろう。

 しかしながら、演説はやがて厳しい非難に切り替わり、貴族たちは口元に笑みを浮かべ、高等法院の構成員たちはそわそわとし始めた。

 国王は大法官の口を借りて、ブルターニュで問題とされている事件をすべて取りやめることを命じていた。そうしたことにはもううんざりしている。さらに国王は高等法院に命じた。デギヨン氏と和解し、特権を認めること。裁判の過程に口を出さぬこと。そうすればすべては至福の黄金時代のようにうまくいく。そうなれば小川は議会や裁判流の五段階の演説を囁きながら流れ、木々は弁護士や検事の手許にある訴訟袋に詰め込まれ、庭の果物を摘むようにいつでも取り出すことが出来る。

 こうした飴玉によって高等法院はデギヨン氏とだけでなくド・モープー氏との関係も悪化することになろう。だが演説が終わっても、反論することは出来なかった。

 高等法院の構成員たちはぎりぎりと歯噛みしながらも、そもそもの強みである恐ろしいほどの一体感を以て、落ち着き払った無頓着な態度を取った。これが国王や壇上の貴族たちにはひどく気に入らない。

 王太子妃の顔は怒りで青ざめていた。国民から反抗されるのは初めてのことだったが、努めて冷静に相手の力を見積もっていた。

 誇りの高い王太子妃は、決議されたり通告されたことに対して、少なくともうわべだけは反論しようという心積もりで親裁座に赴いて来たのだが、いつしか同じ一族や階級の人々と同じような気持に傾いていることに気づいた。だから大法官が高等法院の連中の目の前で咬みつくたびに、その牙に鋭さが欠けているのを見ては憤りを覚えた。言葉の一つ一つが牛追いに追われる牛の群れのように議会を飛び跳ねさせるものであったならば、と考えていたのである。早い話が気づいたのだ。大法官はあまりに弱く、高等法院はあまりに強い。

 ルイ十五世は人相を観るのが好きであった。利己主義者とは怠け者でない場合には得てしてそうなる。そういうわけだから、自らの心積もりを代弁した言葉がかなり説得力に富んでいると見るや、その効果を確かめようと周囲に目を走らせた。

 王太子妃の口唇が不満そうに青ざめているのを見れば、その心によぎっていたことも手に取るようにわかった。

 公平を期してデュ・バリー夫人の顔を確かめた。そこにあったのは予想とは違って勝ち誇った笑顔ではなく、国王の考えていることを判断したいとでも思っているのか、自分の方を見て欲しいという激しい思いが伝わって来た。

 気持の弱い人間にとって、他人の気持や意思に先んじられることほど恐ろしいものはない。とっくに結論を出されて観察されているのだと気づけば、これから道化を演じることになるのか既に演じていたのかを問わず、下駄を履かせた要求を出すようなことはできないと結論づけるものである。

 そこで人は極端に走る。それまで及び腰だったのが猛り狂い、急に攻撃的になり、さほど脅威でもないものを恐れているせいでそんな反応をしたのだということがばれてしまう。

 国王は大法官の言葉に一言もつけ加える必要はなかった。そんな作法はないし、不可欠なことでもないのだ。ところが今回ばかりは、国王は雄弁の悪魔に取り憑かれて、手を振ってこれから口を開くのだという合図を送った。

 途端に注目ではなく驚きが辺りを覆った。

 高等法院の構成員たちは訓練された兵士のように無駄なく揃って親裁座に顔を向けた。

 王族、大貴族、軍人たちは動揺を隠せなかった。これほどまでに優れた演説の後で、キリスト教の信仰篤きフランス国王陛下が無益なことを言うとは考えられぬ。国王に抱いている敬意のせいで、国王の口からほかのことが飛び出す可能性など思い至らなかった。

 ド・リシュリュー氏は敢えて甥から離れて立っていたが、それでも示し合わすような視線と怪しげな仲間意識でくっついているのがわかる。

 ところが思う通りには行かないもので、デュ・バリー夫人と目が合ってしまった。だが変幻自在の才能では誰にも劣らない。リシュリューは皮肉な目つきを感嘆の目つきに変えて、両端を結ぶ対角線の交わる点を、美しい伯爵夫人に定め直した。

 そこで賛嘆と追従の微笑みをさり気なくデュ・バリー夫人に送ったが、デュ・バリー夫人とてそれに騙されるようなたまではない。そういうわけだから、高等法院や反対派の王族たちとやり取りを交わし始めていた老元帥は、実際にしていたことを悟られないためにそれを続けざるを得なかった。

 一滴の水に映し出された光景の数を思えば、それはさながら海であった! 一秒のうちに幾世紀もの時間が詰まっているのを思えば、それは目も眩むような永遠であった! これまで記して来たことはすべて、ルイ十五世陛下が口を開いて話をしようとしかけた刹那の間に起こったことなのである。

「余の心積もりは大法官から聞いたであろう」国王の声は険しかった。「それが実行された時のことを考えてみよ。余の考えは絶対に揺るがぬ!」

 ルイ十五世は最後の一言を雷鳴の如き大音声で言い放った。

 出席者の誰もが文字通り雷に打たれていた。

 高等法院に走った畏怖の震えは、導火線の端までひた走る火花のように、瞬く間に会衆に広まった。この震えは国王の支持者にも伝染した。驚きと感動が人々の顔に浮かび、心を穿った。

 王太子妃は美しい目をきらめかせて、思わず国王に感謝していた。

 デュ・バリー夫人も電流に打たれて思わず立ち上がっていた。外に出た途端に石を投げられるかもしれないだとか、翌日にはこれまで以上に不愉快な小唄を百も二百も受け取るのではないかという当然の恐れさえなければ、喝采していたところだったろう。

 ルイ十五世はその瞬間から勝利を確信した。

 高等法院の連中は揃って顔を伏せたまま、上げはすまい。

 国王は百合の紋章付きの座布団から腰を上げた。

 すぐに護衛隊隊長、親衛隊隊長、それに侍従たちが立ち上がる。

 外では太鼓の音が響き、喇叭が鳴り響いた。馳せ参じた人々が立てる聞き取れぬほどのざわめきは呻き声に変わり、兵士や弓兵に押し戻されて遠ざかって行った。

 国王は毅然として大広間を闊歩した。伏した頭よりほか見えるものはない。

 デギヨン氏は勝利に驕ることなく、なおも国王陛下の露払いに甘んじていた。

 出口まで至ると大法官が、遠くにまで見物人がいるのを見て、その稲光がここまで届きやしないかとびくついていた。

「離れんでくれよ」と弓兵に命じた。

 ド・リシュリュー氏はデギヨン公爵に深々と頭を下げて声をかけた。

「みんな頭を下げておるな。いつになるかは知らぬが、いずれまた高々と頭を上げる日がやって来るぞ。気をつけるがいい!」

 その頃、デュ・バリー夫人は通路を渡っていた。兄とド・ミルポワ元帥夫人と数人の貴婦人がお供している。伯爵夫人は元帥の言葉を聞きつけて、恨みからではなく反射的に声をかけていた。

「あら、何にも怖いものはありませんのね、元帥。陛下のお言葉をお聞きにならなかったのかしら? 絶対に揺るがない、と仰ったように聞こえましたけれど」

「恐ろしい言葉ですな」老元帥の顔には笑いが浮かんでいた。「だがわしらにとっては幸いなことに、絶対に揺るがぬと仰った時に国王があなたを見ていたことを、高等法院の連中は知りません」

 そしてもはや今では芝居の中ですらお目にかかれぬようなお辞儀をして、歌曲に幕を下ろした。

 デュ・バリー夫人は女であったし政治家ではなかった。デギヨン氏が当てつけと悪意をまざまざと感じた台詞に、伯爵夫人はお世辞しか読み取らなかった。

 そういうわけだから、伯爵夫人が微笑みによって返答に代えていた一方で、同盟者のデギヨン氏は元帥の恨みが深いのを見て口唇を咬み顔色をなくしていた。

 親裁座を開いたことで当座は王国の利益にかなう結果が出た。だが大打撃によって眩暈を起こしただけというのもよくある話で、眩暈が治まればさらに力強くさらに混じりけのない血が巡り始めることになるだろう。

 ――というのが、国王がお供を引き連れて立ち去るのを、フルール河岸とラ・バリエーリ(la Barillerie)街の隅で眺めていた質素な服装をした人々の考えであった。

 人数は三人……偶然からその片隅で一緒になり、人々がどう感じているのかをその場所から興味津々で追っていた。知り合いではなかったが、ひとたび言葉を交わし始めると、議会が終わりもしない内から論を戦わせ出した。

「昂ぶりが熟していますね」目をした、穏やかで誠実そうな顔立ちの老人が言った。「親裁座は大きな成果ですよ」

「そうですね」若者の一人が苦々しい笑みを浮かべた。「成果というのが文字通り実現したのなら」

「失礼ですが……」老人は若者の顔を見つめた。「見覚えがある気がするのですが……お会いしたことがありませんでしたか?」

「五月三十一日の夜でした。仰る通りですよ、ルソーさん」

「ああ、あの時の外科医でしたか。マラーさんでしたね?」

「ええ、お見知りおきを」

 二人は挨拶を交わした。

 三人目の人物はまだ言葉を発していなかった。若くて、気高い顔立ちをした人物で、親裁座の間中、一切たりとも人々から目を話さなかった。

 若い外科医がまずその場を離れ、果敢にも人混みの中に消えた。ルソーほど義理堅くはない町の連中は、その外科医のことなどとっくに忘れていたが、いつの日かその記憶を思い出すことになるだろう。

 三番目の人物は外科医が立ち去るのを待って、ルソーに話しかけた。

「あなたは行かないのですか?」

「あんな人混みに飛び込んで行けるほど若くはありませんからね」

 第三の人物は声をひそめた。「そういうことでしたら、今夜、プラトリエール街で、ルソーさん……どうかお忘れなく!」

 目の前に立っているのは幽霊なのではないかと思い、ルソーはぞっとした。普段から土色の顔色は鉛色に変わっていた。返事をしようとした時には、とうに姿が消えていた。

『ジョゼフ・バルサモ』 第100章

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

第百章 事態がますます紛糾する次第

 ド・ベアルン夫人はリシュリューの助言をそのまま実行に移した。公爵と別れてから二時間半後には、リュシエンヌでザモール氏と一緒に控えの間に待機していた。

 ド・ベアルン夫人の姿を見なくなってからしばらく経っていたので、デュ・バリー夫人は名前を告げられるとひどく好奇心をそそられた。

 デギヨン氏も時間を無駄にはしていなかった。寵姫と話し込んでいる最中に、ションがド・ベアルン夫人の謁見申し込みを伝えに来た。

 デギヨン公爵は立ち去ろうとしたが、デュ・バリー夫人が引き留めた。

「そこにいて下さいますか。知り合いがお金の無心に来たのでしょうから、あなたがいて下さった方がいいんです。無茶な要求も出来ないでしょうから」

 公爵は部屋に残った。

 その場に相応しい顔つきで入室して来たド・ベアルン夫人は、伯爵夫人の正面に当たる椅子を推められ、そこに坐ると、挨拶を交わした。

「今日はどういったご用件ですの?」

「それが困ったことになったんですよ!」

「具体的には?」

「陛下がお悲しみになるような報せで……」

「早く仰って下さい」

「高等法院が……」

「おお!」デギヨン公爵が呻いた。

「デギヨン公爵閣下です」誤解を招かぬように、デュ・バリー伯爵夫人は急いで紹介した。

 だがド・ベアルン老伯爵夫人とて、宮廷の人々を束にしたほどの抜け目ない人物である。誤解するなら意識的に、それも誤解した方が都合がいいと考えれば、誤解もしよう。

「法律屋というのは卑しい人たちなんですよ。勲章や生まれにもちっとも敬意を払わないんですから」

 こうした世辞をあやまたず受け取って、公爵が恭しくお辞儀をしたので、ド・ベアルン夫人もお辞儀を返した。

「でも公爵閣下だけの問題じゃございません。全国民の問題ですよ。高等法院が仕事を拒否するなんて」

「何てことかしら!」デュ・バリー夫人が長椅子の上で仰け反った。「もうフランスに正義はないのかしら?……それで……これからどうなってしまんでしょう?」

 公爵が笑みをこぼした。ド・ベアルン夫人はにこりともせず、却ってますます顔を曇らせた。

「これは大変な出来事ですよ」

「あら、そうかしら?」

「あなたが訴訟を起こしていないのは幸運というものですよ」

「うほん!」デギヨン氏が注意を促したので、デュ・バリー夫人はようやく当てこすりに気づいた。

「そうね、その通りだわ」デュ・バリー夫人は慌てて答えた。「思い出しました。あたくしは訴訟を抱えていなくても、あなたは重大な訴訟を抱えているでしたものね!」

「そうなんですよ!……ちょっとでも遅れたら破滅してしまいます」

「お気の毒に!」

「ですからね伯爵夫人、国王に決断していただかなくてはならないんですよ」

「もちろん陛下はそうなさるわ。評定官を追放なさるでしょうから、それでお終いね」

「でもそれではいつになるかわからないまま先送りされることになってしまいます」

「解決策をお持ちですの? だったら教えて下さいな」

 トーガの下で息絶えたカエサルのように、ベアルン夫人は髪飾りの下に隠れた。

「方法はあるのでしょうが、陛下は躊躇なさるでしょうね」ここでデギヨンが口を挟んだ。

「どんな方法ですか?」ベアルン夫人がたずねる。

「フランスの王権が危機に瀕した際には、いつも採られる方法です。親裁座を開いて『余は望む!』と言えばいいのです。反対者たちが『我々は望まぬ』と言ったところでどうにもなりません」

「名案じゃございませんか!」ド・ベアルン夫人は夢中になって叫んだ。

「だがばれてはなりません」デギヨンが素早く合図したのを見て、ド・ベアルン夫人も承知した。

「ああ、伯爵夫人! 『余はド・ベアルン夫人の訴訟が審理されるのを望む』と陛下に言わせられるのはあなただけなんです。だいたい、ずっと前から決まっていたことなんですからね」

 デギヨン氏は口を固く結んでデュ・バリー夫人に挨拶すると、閨房を後にした。国王の四輪馬車が中庭に入って来る音が聞こえたのだ。

「国王だわ!」デュ・バリー夫人は立ち上がって、ベアルン夫人を退出させようとした。

「どうか! 陛下のお足許にひざまずくのを許していただけないのですか?」

「親裁座を請うために? そうね。ここに残りたいのなら、残って下さいな」

 ド・ベアルン夫人が髪飾りを直し終えたところで、国王が入室して来た。

「おや、お客さんでしたか……?」

「ド・ベアルン夫人です」

「陛下、正義を!」老婦人は深々とお辞儀をして訴えた。

「おやおや!」ルイ十五世は親しくない者にはわからぬほどの嘲笑を浮かべた。「どなたかから侮辱でもされたのであろう?」

「陛下、正義を求めます」

「誰に対する?」

「高等法院に対する」

「なるほど!」国王はぱちぱちと手を叩いた。「余の高等法院に苦情を訴えておいでか? では是非それを正す機会をいただこう。その点について余も苦情を訴えねばならぬ。そなたにも正義を見せていただきますよ」老伯爵夫人に倣って恭しくつけ加えた。

「つまるところ陛下は国王であり、支配者なのでございますから」

「国王というのは間違いない。支配者というのは時と場合によるな」

「お心積もりをお聞かせ願えませんか」

「それは余が毎晩やっていることではないか。高等法院の連中は朝ごとに心積もりを表明しておる。双方の心積もりは相矛盾していて、地球と月のように、決してぶつかることなく追いかけ合ってばかりだ」

「陛下の力強いお声でしたら、高等法院のわめきを掻き消すことも出来るのではございませんか」

「そこがそなたの間違いだ。余は弁護士ではなく、彼奴らは弁護士だ。余がウイと言えば、彼奴らはノンと言う。理解し合うことなど、到底不可能……余がウイと言っても、彼奴らにノンと言わせぬ手だてでもあるのなら、そなたと手を結ぶのもやぶさかではないぞ」

「手だてはございます」

「直ちに教えてもらおう」

「ではお話しいたします。親裁座をお開き下さい」

「また一つ厄介が増えるだけではないか。親裁座だと! 正気か? 革命も同然だ」

「支配者は陛下なのだということを、歯向かう者どもに正面切って伝える手だてでございます。国王がお心積もりを表明なさる際には、一方的にお話しなさるだけで、言い返されることはないはずです。『余は望む』と陛下が仰れば、相手は頭を垂れるしか……」

「面白い考えなのは確かね」デュ・バリー夫人が評した。

「面白いのは確かだが、優れているとは言えぬな」国王が答えた。

「でも見物じゃありません?」デュ・バリー夫人は夢中になって言い募った。「お供の者に、侍従に、大貴族に、武官親衛隊、それに夥しい数の民衆、それに金縫いの百合の紋章つきの五つの座布団で出来た親裁座……素晴らしい儀式になるに違いないわ」

「そうかね?」国王の気持が揺れた。

「それに陛下の衣装も素晴らしいものになるでしょう? 白貂地のマント、王冠のダイヤ、金の笏、どれもこれもまばゆくて、厳かなご尊顔にぴったり。ご立派に見えるに違いないわ!」

「親裁座など久しく開かれておらぬ」ルイ十五世は気のないふりをした。

「ご幼少のみぎりから、陛下の光り輝くお姿は誰の心にも刻まれておりますよ」ド・ベアルン夫人が言った。

「それに、大法官にとっては要領を得た先鋭的な演説を披露するにはいい機会ですし、真理と尊厳と権威に賭けてあの人たちをねじ伏せるにもいい機会じゃありませんこと?」デュ・バリー夫人も続けた。

「高等法院の背信を待つべきだ。その時は考えよう」ルイ十五世が答えた。

「あれ以上の背信を待つと言うんですの?」

「何のことだ?」

「ご存じありませんの?」

「デギヨン殿を少々からかったからといって、絞首刑には当たらぬ……たとい公爵が余の友人であるにしてもな」国王はデュ・バリー夫人を見つめた。「それに高等法院が公爵をからかったのだとしても、余がおふれを出してやり返しておいた。昨日だったか一昨日だったかよく覚えておらぬが、これでおあいこだ」

「でも陛下、伯爵夫人の今朝のお話では、黒服たちと来たら受けて立ったそうですわ」デュ・バリー夫人がすかさず。

「どういうことだね?」国王は眉をひそめた。

「お話し下さいな、マダム。国王のお許しが出ました」

「評定官たちは陛下が要求をお飲みにならない限り裁判をおこなわないと決定したのでございます」

「まさか? そんなはずはない。これが本当であれば謀叛ではないか。余の高等法院が叛乱を起こすような真似はしまい」

「ですが……」

「いやいや、ただの噂だ」

「お聞き下さいませんか?」

「お話しなさい」

「今朝、検事から訴訟書類を受け取りました……もう辯護することはない、何故なら裁判はおこなわれないからだと」

「噂だと申したはずだ。こけおどしに過ぎぬ」

 そう言いながら国王は慌ただしく閨房を歩きまわっていた。

「失礼ながら、私のことはともかくド・リシュリュー氏のことなら信用なさるのじゃございませんか? 私の目の前でド・リシュリュー氏も訴訟書類入れを手渡されたのでございますよ。公爵はひどくお腹立ちになって退出なさいました」

「扉を叩く音が聞こえたようだが」国王は話題を変えようとした。

「ザモールですわ」

 ザモールが入室した。

「奥さま、手紙です」

「いいかしら、陛下? あら、大変」

「何だ?」

「大法官ド・モープー閣下からですわ。陛下があたくしのところによくいらっしゃるのをご存じなものだから、謁見の時間を割いていただけるよう訴えにいらしたんです」

「このうえ何があるというのだ?」

「大法官閣下をお通しして」

 ド・ベアルン夫人が立ち上がっていとまを告げようとしたが、国王が引き留めた。

「どうかそのまま。ご機嫌よう、モープー殿。何か新しい報せでも?」

 大法官は頭を垂れた。「それが陛下、高等法院が困ったことになりまして。もはや高等法院はございません」

「どういうことかね? 一人残らず死んだのか? 砒素でも服んだのか?」

「そうであってくれれば!……いいえ、陛下、生きております。ところが法廷を開こうとせず、辞表を提出しているのです。先ほど私のところに山のように参りまして」

「評定官がか?」

「いいえ、辞表のことです」

「深刻な話だと申し上げたじゃございませんか」ド・ベアルン伯爵夫人がぼそりとこぼした。

「非常に深刻だ」ルイ十五世はむっとして答えた。「して大法官、そなたはどうするつもりだ?」

「陛下の命令をいただきに参りました」

「追放してしまおう」

「追放してはますます裁判がおこなわれません」

「裁判を開くよう厳命せよ……いやいや、それはありふれておるが……命令状……」

「このたびは陛下のお心積もりを明らかにしなくてはなりません」

「ああ、その通りだな」

「後押しして下さいな!」ド・ベアルン夫人がデュ・バリー夫人に囁いた。

「これまでは父親らしいところばかりお見せになってらしたけれど、支配者らしいところもお見せにならなくては!」

「大法官よ」国王はのろのろと口を開いた。「一つしか手だてはない。大事おおごとだが効果はあろう。親裁座を開こうと思う。今回ばかりはあやつらを震え上がらせておく必要がある」

「仰る通りです。降参するか破滅するかいずれかでしょう」

「マダム」国王はド・ベアルン夫人に話しかけた。「これでそなたの訴訟が審理されずとも、余の過ちではないぞ」

「陛下は世界一の国王でございます」

「その通りです……」デュ・バリー伯爵夫人にション、大法官が唱和した。

「だが世間がそう言っているわけではないからな」国王はもごもごと呟いた。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 名前:東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 本好きが高じて翻訳小説サイトを作る。
  • 翻訳が高じて仏和辞典Webサイトを作る。

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