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 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『ジョゼフ・バルサモ』 151-1

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

第百五十一章(その1) Le cas de conscience

 極めて綿密に『孤独な散歩者の夢想』の文章を数ページ綴った後で、ルソーは質素な朝食を済ませた。

 ド・ジラルダン氏からエルムノンヴィルの庭園に保養地を用意してもらったにもかかわらず、大人物の傘下に入るのを潔しとせず、人間嫌い(monomanie misanthropique)の中で言っていたように、いまだにプラトリエール街の侘住まいで暮らしていた。

 テレーズが簡単に家事を済ませた後で、買い物に出かける為に籠を取りに来た。

 時刻は朝の九時。

 テレーズはいつものように、夕飯は何がいいのかとルソーにたずねた。

 ルソーが夢想から醒め、ゆっくりと顔を上げて夢うつつで妻を見つめた。

「何でも好きなものを買っておいで。さくらんぼと花がありさえすればいい」

「わかりましたよ。そんなに高くなけりゃね」

「もちろんだ」

「それにしてもねえ、あなたがなさっていることがお金になるのかどうか知りませんけどね、みんな昔のようには払ってくれないようですね」

「そんなことはないよ、テレーズ。同じだけもらっているとも。だが疲れているのであまり働いていないからね。それに本が出来るのが半分くらい遅れているんだ」

「どうせまた破産させられるんでしょう」

「そうじゃないことを祈らないと。いい人だからね」

「いい人ねえ、いい人ですか! そういう言葉を使えばすべて言い尽くせたと思ってらっしゃるんでしょう」

「少なくとも大勢の人には言っているだろうが」ルソーが微笑んだ。「誰彼かまわず言っているわけではないからね」

「そうでしょうとも。あなたは気難しい人ですからね!」

「テレーズ、話が逸れているよ」

「そうでしたね、さくらんぼが欲しいですって、食いしん坊さん。花が欲しいって言うんですか、女たらし!」

「何を言うんだ!」ルソーは辛抱強く答えた。「胸も頭も痛くて外に出られないから、せめて気晴らしをしたいだけじゃないか。神様はがたくさんの幸を田舎にもたらしてくれたんだ、そのうちの一部が欲しいだけだ」

 言われてみればルソーは顔色も悪く身体もぐったりとしていたし、本をめくる手もぎこちなく、目は文字を読んでいなかった。

 テレーズが頭を振った。

「わかりましたよ。一時間くらい出かけて来ます。鍵は玄関マットの下ですからね。何かあった時には……」

「出かけたりはしないよ」

「出かけないことはわかってますよ。立ってられないんですからね。そうじゃなくて、来る予定の人を気にかけたり、呼鈴が鳴った時に開けたりする為ですよ。呼鈴を鳴らすのがあたしじゃないことはわかるでしょうからね」

「すまないね。いってらっしゃい」

 テレーズはいつものようにぶつくさ言いながら家を出たが、重く引きずるような足音だけは、しばらく階段から聞こえていた。

 それでもやがて門が閉まるのが聞こえると、ルソーは一人きりとなって椅子の上で寛ぎ、窓辺でパンをついばむ鳥を見つめ、立ち並ぶ隣家の煙突を縫うように降り注ぐ陽の光を満喫した。

 若々しく軽やかなルソーの心は、自由を感じ取るとすぐに、食事を終えた雀のように翼を広げた。

 ところが不意に玄関扉の蝶番が悲鳴をあげ、ルソーをまどろみから引き離した。

「お邪魔いたします」という声が聞こえて、ルソーは飛び上がり、慌てて振り向いた。

「ジルベール!」

「そうです、ジルベールです。改めて、お邪魔いたします、ルソーさん」

 間違いない、ジルベールだ。

 だが顔は青白く、髪は乱れ、襤褸服の下の手足が痩せ細り震えているのも隠しようがなかった。一言で言えば、ジルベールの外見はルソーをぞっとさせた。不安にも似た憐れみの叫びがルソーの口から洩れた。

 ジルベールは獲物に飢えた鳥のように、目を動かさずに爛々と光らせていた。おずおずと不自然な笑みを浮かべたのが、そんな眼差しとは対照的で、鷲のように厳かにも見え、狼や狐のように冷笑的にも見える。

「何をしにいらしたのです?」ルソーはだらしないのを嫌っていたし、だらしがないのは悪巧みの証拠だと見なしていた。

「お願いです、お腹が空いているんです」

 ルソーはその声を聞いて震え上がった。人間の口からこれほど恐ろしい言葉を聞くとは思わなかった。

「どうやってここに入り込んだのですか? 門は閉まっていたはずです」

「テレーズさんがいつも玄関マットの下に鍵を仕舞うことは知っていましたから。テレーズさんが出て行くのを待っていたんです。ぼくは嫌われてますから、二度と敷居を跨がせてくれないだろうし、あなたのそばに近寄らせてもくれないでしょうから。そこであなたが一人きりになったとわかってから家に近づき隠し場所から鍵を取り出して、ここまで来たんです」

 ルソーが椅子の肘掛けに手を突いて立ち上がった。

「少しでいいので聞いて下さい。少しだけでいいんです。聞いていただくだけの内容であることは保証しますから」

「いいでしょう」ルソーは愕然としていた。ジルベールの顔には、いつの時代のどんな人間にも備わっている感情を示すような、如何なる表情も浮かんでいなかったのだ。


 つづく。

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『ジョゼフ・バルサモ』 150

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

第百五十章 父と息子

 フィリップが戻ると、アンドレがひどく狼狽えて不安がっていた。

「お兄様。お兄様がいない間に、わたくしの身に起こったことを残らず考えておりました。わたくしに残っていた理性をすっかり飲み込んでしまいそうな深淵でございました。お兄様はルイ先生にお会いになったのでしょう?」

「先生のところから戻ったところだよ」

「あの人はわたくしをひどく侮辱なさいました。正しかったのでしょうか?」

「間違ってはいなかった」

 アンドレは青ざめ、細く白い指を神経質に引きつらせた。

「名前を。わたくしを破滅させた卑怯者の名前は?」

「ずっと知らない方がいい」

「フィリップ、嘘は仰らないで。ご自分の良心を誤魔化さないで……名前を知る必要があるんです。わたくしは弱いだけの人間で、祈ることくらいしか出来ません。祈ることで犯人に神の怒りをもたらしてやれるのです……その為にも、犯人の名前を」

「その話はよそう」

 アンドレがフィリップの手をつかみ、顔を見つめた。

「それがお兄様のお返事ですか? 腰に剣を佩いているお兄様の?」

 フィリップはアンドレの激しさにたじたじとなったが、すぐに自分の怒りは抑え込んだ。

「アンドレ、自分でも知らないことを教えることは出来ない。ぼくらを悩ましている運命が、それが明らかにならぬよう定めたのだ。秘密にしておこうという願いも我が家の名誉と共に危険に晒されたけれど、神がせめてもの情けをかけて誰からも触れられぬようにしてくれるはずだ。誰からも……」

「例外が一人だけいます、フィリップ……高らかに笑い、わたくしたちに歯向かっている人間が!……きっと人の目の届かない隠れ場所から、わたくしたちを嘲笑っているんです」

 フィリップが拳を固め、天井を見上げたまま、一言も答えなかった。

「その男のことを――」アンドレが怒りと苛立ちをさらに高まらせた。「わたくしはその男のことを知っているような気がするんです……フィリップ、思い出させてしまってごめんなさい。あの男がわたくしに不思議な力を及ぼしていることはもうお伝えしましたね。お兄様はあの人のところに会いに行ってしまったのでしょう」

「その人は違うんだ。会って確かめてきた……もういい。もう忘れるんだ。もう考えなくてもいい……」

「フィリップ、あの人よりも高いところを一緒に目指しましょう。お嫌?……この王国の権力者たちの最上段まで……国王のところまで!」

 フィリップはアンドレを抱き締めた。何も知らぬまま憤りに震えているアンドレは、哀れで神々しかった。

「いいかい、目を覚ましている状態で名を挙げている人たちのことを、おまえは眠っている間に名を挙げていたんだ。今こうして美徳の限りに非難してしている人たちに対して、罪が犯されるのを目にしながら無実を訴えたんだ」

「ではわたくしは犯人を名指ししたのですね?」アンドレの目に炎が灯った。

「いいや。そんなことはない。もう質問をするのはやめてくれ。ぼくに倣って運命に従おう。起こってしまったことは元には戻らない。犯人が罰せられないのはおまえにとっては二重の苦しみだろう。だが希望はある。希望……神は何よりも偉大だからね。神は不幸に押しつぶされた人に、復讐と呼ぶ甘美な悲しみを残してくれた」

「復讐……!」フィリップがこの言葉に込めた恐ろしい響きに、その言葉を繰り返したアンドレも怯えていた。

「今のところは休むといい。ぼくの好奇心のせいでおまえに悲しい思いや恥ずかしい思いをさせてしまったね。予め知ってさえいたら! わかってさえいたら!……」

 フィリップは悔しさのあまり両手に頭をうずめた。だがすぐに顔を上げた。

「ぼくは何を嘆いているんだ?」フィリップは笑みを浮かべた。「純粋で、ぼくのことを愛している妹がいるんじゃないか! 信頼も愛情も裏切ったりはしなかった。ぼくのように若く、ぼくのように誠実だった。ぼくらは共に暮らし、共に歳を取ってゆくんだ……二人なら、世界の誰よりも強くなれる!……」

 フィリップが慰めの言葉を綴るにつれ、アンドレの顔色が翳って行った。顔をさらに青ざめさせてうつむき、フィリップが気丈にもふるい落としたばかりの絶望的な態度と眼差しを湛えていた。

「二人のことなど二度と話さないで下さい!」青く鋭い目を、動揺しているフィリップの顔に向けた。

「じゃあ何を話せばいいんだい、アンドレ?」フィリップはアンドレの視線を受け止めた。

「だって……わたくしたちにはお父様がいます……お父様が娘を裏切ると言うのですか?」

「昨日言った通りだよ」フィリップは淡々と言葉を返した。「悲しいことも恐ろしいこともみんな忘れてしまうんだ。朝靄を吹き払う風のように、ぼく以外の思い出も愛情も吹き払ってしまって欲しい……だってアンドレ、この世の誰も愛してはいなかったのだろう。ぼくのほかには。ぼくが愛していたのもおまえだけだ。哀れなみなし児が、どうして感謝や親戚といったくびきに囚われなくちゃならないんだ? ぼくらが恩恵を受けたことがあったか? 父から守ってもらったことがあったか?……ははっ!」フィリップは苦々しい笑みを浮かべた。「ぼくの考えていることならすっかりわかっているだろう。ぼくの気持などお見通しだろう……今話している人のことを愛さなくてはならなかったなら、『愛しなさい』と言っていたさ。ぼくは黙るから、おまえも口を閉じるといい」

「でもお兄様……わたくしに必要なのは信じることでしょうか……?」

「ねえ、恐ろしい災難の中で、子供というのは知らず知らずのうちに、理解できないながらも『神を恐れよ!』という言葉が鳴り響くのを聞いているものさ……ああ、そうだとも。神様は残酷にもぼくらに思い出させたんだ……『父を敬え……』とね。敬意を最大限に表そうと思ったら、おまえに出来ることは記憶を消し去ることだろうな」

「本当にその通りね……」アンドレは侘びしげに呟いて、椅子に倒れ込んだ。

「アンドレ、どうでもいい話で時間を無駄にするのはよそう。身のまわり品を揃えるんだ。ルイ先生が王太子妃殿下に会いに行って、おまえがいなくなることを伝えてくれる。どんな理由をつける予定なのかわかっているね……原因不明で苦しんでいるから、空気を変える必要があると……出発に必要なものを用意してくれ」

 アンドレが立ち上がった。

「家具はどうしますの?」

「それは無理だ。下着に上着に宝石」

 アンドレは言われた通りにした。

 まずは洋服箪笥や、ジルベールが隠れていた衣装部屋の衣装を片し、それから、貴重品箱に移すつもりだった宝石を幾つか手に取った。

「それは……?」

「トリアノンで陛下に謁見した際に賜った装身具です」

 贈り物が豪華なのを見てフィリップの顔が青ざめた。

「この宝石だけで、何処に行ってもそこそこの生活が出来ますわ。真珠だけでも十万リーヴルだと聞きました」

 フィリップが宝石箱を閉じた。

「驚くほど高価だね」

 と言って、宝石箱をアンドレの手に戻した。

「ほかにも宝石があるんだろう?」

「でもこの宝石とは比較にはなりません。母がお洒落をした時に身につけていたもので、十五年も前の……懐中時計、ブレスレット、ダイヤの散りばめられた耳飾り。それに肖像画もあります。お父様はみんな売ろうとなさいました。流行遅れだからと言って」

「それがすべてここに残っているんだね。ぼくらの唯一の財産だ。金は溶かして、肖像画の宝石は売ろう。それで二万リーヴルにはなる。貧乏人には充分な額だよ」

「でも……この真珠の宝石箱はわたくしのものです!」

「触れちゃ駄目だ。火傷するぞ。この真珠には奇妙な性質があって……顔に触れると痣が出来るんだ……」

 アンドレが身震いした。

「この宝石箱はぼくが預かるよ。正当な権利を持つ人に返そうと思うんだ。これはぼくらのものじゃない。何一つ主張するつもりはないね?」

「お兄様がそう仰るのでしたら」アンドレは恥ずかしさに震えた。

「じゃあ着替えてくれ。妃殿下に最後のご挨拶をしに伺おう。これほど高貴な主人の許から離れるんだから、ちゃんと落ち着いて、敬意を払い、胸に刻むんだぞ」

「もちろん胸に刻みますわ」感極まったアンドレが囁いた。「今度の不幸の中でも一番辛いことですもの」

「ぼくはパリに行くけれど、夕方頃には戻って来る。着いたらすぐに迎えに来るよ。必要な人たちには支払いを済ませておくんだぞ」

「そんな人はおりません。ニコルがいましたけれど、逃げてしまいましたから……あら、ジルベールのことを忘れていました」

 フィリップの背筋が凍り、目に炎が灯った。

「ジルベールにそんなことをする必要があるのか?」

「ええ」アンドレは当たり前のように答えた。「季節の初めから花を届けてくれましたから。それにお兄様も仰ったように、あの子には不当に厳しく接することもありましたし。何だかんだ言っても慇懃な子だったのに……何らかの形でお礼をしようと思っています」

「ジルベールなど放っておけ」フィリップが声を絞り出した。

「どうしてですか?……庭にいるでしょうから、何なら呼びに行かせましょう」

「駄目だ! 貴重な時間を無駄にするな……そんなことをせずとも、並木道を歩いて行けば、途中で出くわすだろうから……ぼくが話して……お礼を言っておくよ……」

「そういうことでしたら構いません」

「ああ。それじゃあ晩に」

 フィリップは腕の中に飛び込んで来たアンドレの手に口づけをした。心臓の鼓動が伝わるまで優しく抱き締めると、時間を無駄にせずパリに向かい、コック=エロン街の門前で馬車から降りた。

 そこに行けば父と会えることはわかっていた。男爵はリシュリューとおかしな仲違いしてからは、ヴェルサイユでの耐えがたい生活を良しとせず、活動的な人々がよくやるように、場所を変えることで無為な感覚を紛らそうとしていたのだ。

 フィリップが正門の小窓から訪いを告げた時には、男爵は悪態をつきながら宿の庭や隣接する中庭を歩き回っていた。

 呼鈴の音にびくりとすると、男爵自ら門を開けに現れた。

 人が来るとは思っていなかったので、こたびの予期せぬ訪問に期待を抱いていたのだ。転落した人間はどんな枝にもしがみつきたがる。

 悔しさと好奇心の入り混じった捕えがたい気持で、男爵はフィリップを迎え入れた。

 だが息子の青ざめて強張った顔や痙攣する口を見るや、質問しようとして開いた口は凍りついた。

「お前か!」とだけ言うのがやっとだった。「どういう風の吹き回しだ?」

「これからご説明いたします」

「ふん! 一大事か?」

「極めて重大なことです」

「お前はいつも仰々しいから不安でならん……それで、今回の報せは不幸と幸運のどっちじゃ?」

「不幸の方です」フィリップの声は重かった。

 男爵の身体がかしいだ。

「ここにはぼくたちしかいませんね?」

「無論だ」

「家に入りませんか?」

「どうして外ではいかん? この木の下では……?」

「明るい空の下では言えないようなことだからです」

 男爵は息子を見つめ、無言で招かれるがままに従った。平静を装って笑みまで浮かべて地下室までついて行くと、フィリップが扉を開けて待っていた。

 扉がしっかりと閉められると、フィリップは父親が話せと合図するのを待った。男爵は部屋で一番いい椅子にどっかりと腰を下ろしている。

「父上、アンドレとぼくは、父上とお別れすることになりました」

「どういうことだ?」男爵は驚いてたずねた。「行ってしまうというのか!……では兵役はどうなる?」

「もう兵役などありません。ご存じの通り、国王のお約束は実現しませんでしたから……幸いなことに」

「幸いだと? 意味がわからん」

「父上……」

「説明せんか。聯隊長になれぬのが幸いとはどういうことだ? 哲学をこじらせおったか?」

「たいした哲学ではありません。不名誉よりは運命を取ったまでです。ですがこの種の理由には突っ込まないでいただけませんか……」

「突っ込まずにおられるか!」

「お願いです……」フィリップのかたくなな言葉からは、『嫌だ!』という叫びが聞き取れた。

 男爵が眉をひそめた。

「妹はどうなんじゃ?……あれも務めを忘れてしまったのか? 妃殿下のおそばにお仕えするという……?」

「まさしく、ほかにしなくてはならない務めがあるのです」

「どういった務めじゃ?」

「極めて緊急性の高いものです」

 男爵が立ち上がった。

「うつけ者めが。謎めいたたわごとをほざきよって」

「ぼくの言ったことが謎めいていたでしょうか?」

「謎ばかりではないか」と答えた男爵は驚くほどに冷静だった。

「それでは説明いたします。アンドレが立ち去るのは、不名誉から逃れるために雲隠れを余儀なくされたからです」

 男爵が笑い出した。

「はッ! たいした親孝行どもじゃのう! 息子は不名誉を恐れて聯隊という希望を諦め、娘は不名誉を怖がってせっかくつかんだ地位を捨ててしまうのだから。ブルートゥスとルクレティアの時代に戻れればのう! わしの若かった頃は良い時代ではなかったし、哲学にとっては冬の時代だったろうが、不名誉を蒙るのがわかっておって、お前のように腰に剣を佩いているうえに、二人の師と三人の隊長に教えを受けているのなら、剣の切っ先にその不名誉を突き刺していたところだぞ」

 フィリップは肩をすくめた。

「そうじゃろう。血を見たくない博愛主義者にとっては、わしの言っていることは嫌なことじゃろうな。だがな、軍人というのは哲学者になる為に生まれて来たわけではない」

「父上と同様、ぼくにだって名誉に関わる問題を背負う覚悟はあります。ですが血を流してあがなうのではなく……」

「口先だけ!……詭弁か……哲学者のお家芸じゃな!」男爵の怒りに凄みが現れ始めていた。「確か、臆病者の話をしようとしていたところじゃったな」

「しようとしただけでやめて下さったのは正解でしょう」フィリップは青ざめ、震えていた。

 フィリップの挑むような視線に、男爵は毅然として応えた。

「わしを言いくるめようとしている人間ほどには、わしの理屈は錆びついておらぬぞ。この世で不名誉を蒙るのは、おこないのせいではなく言葉があるからじゃ。犯罪者が聾や盲や唖の前に引き出されて、不名誉を感じると思うのか? どうせ馬鹿な格言を持ち出すつもりじゃろう。

『恥を生むのは罪であり、断頭台ではない』

「女子供が相手ならそれでも良かろう。だが男が相手ではそうはいかぬぞ! まるで外国語だわい……男を作り出したと思っておったが……とにかく、盲の目が明き、聾の耳が聞こえ、唖が口を利くようになれば、剣の鍔に手を置き、目を潰し、鼓膜を破り、最後に舌を切り取るがいい。タヴェルネ=メゾン=ルージュの名を戴く男は侮辱に対してそのように答えねばらなん!」

「その名を戴く人間なら、やるべきことの中でも第一にしなければならないのは、不名誉な行動を取らぬことだと心得ております。だからこそあなたに反論するつもりはありません。ただし、時には避けがたい不運から恥が生まれることもあるではありませんか。それがアンドレとぼくに起こったことなのです」

「アンドレの話に移ろうか。わしに言わせれば、男なら抗えることから逃げてはならぬし、女とて毅然として耐えねばならぬ。哲学者殿よ、悪意ある攻撃を防ぐことが出来ぬのであれば、美徳に何の意味があるのだ? 悪意に勝てぬのであれば、美徳に活躍の場などあるのか?」

 そう言ってタヴェルネ男爵はまた笑った。

「ド・タヴェルネ嬢は怯えている……そうだな?……それで弱気になっている……つまり……」

 フィリップが突然歩み寄った。

「父上、ド・タヴェルネ嬢は弱気になったのではなく、征服されたのです! 罠に嵌められ、陥れられたのです」

「罠だと……?」

「そうです。染み一つない名誉を貶めようと企んだろくでなしに報いを受けさせる為に、先ほどは父上を煽るようなことを申しました」

「わからんが……」

「すぐにおわかりになります……ある卑劣漢がド・タヴェルネ嬢の部屋に人を引き入れたのです……」

 男爵の顔から血の気が引いた。

「犯人はタヴェルネの名に……ぼくの……そして父上の名に……消せない汚点をつけようとしたのです……さあ、父上の剣は何処ですか? 血を流すに足る出来事ではありませんか」

「フィリップ……」

「ああ、心配はいりません。表立って誰かを非難しても告発してもいませんから……犯罪は暗がりの中で計画され、暗がりの中で実行されたのです……その結果も暗がりの中に消えてくれることを願っています! 我が家の栄光をぼくなりに誇っているのですから」

「どうやって知ったのだ……?」茫然としていた男爵が、恐ろしい野心とおぞましい希望の力で我に返った。「どんな徴候があったのだ……?」

「ここ何か月かの間にぼくの妹を――あなたの娘を――見かけた人の誰一人として、そのようなことをたずねたりはしませんでした!」

「だがな、フィリップ」男爵の目には歓喜が溢れていた。「我が家の運命と栄光は消えてなくなってはおらぬ。わしらは勝利を収めたのじゃ!」

「やはり……父上はぼくの考えていた通りの人でした」フィリップの言葉には激しい嫌悪が滲んでいた。「本音を洩らしましたね。息子の前で感情を忘れてしまっただけでなく、神の前でも心を無くしてしまったのですね」

「たわけ者めが!」

「落ち着いて下さい! 大きな声を出すと、凍てついた母の幽霊が目を覚ましてしまいますよ! 生きていれば、我が娘を見守ってくれたでしょうに」

 フィリップの目からほとばしる光のまぶしさに、男爵は瞼を伏せた。

「わしの娘は、父の意思に反して立ち去ったりはせんよ」と、ようやく口を開いた。

「ぼくの妹は、父上と二度と会うことはないでしょう」

「本人がそう言ったのか?」

「父上にそう伝えるように本人から言われたのです」

 男爵は震える手を伸ばし、血の気の引いて湿った口唇を拭った。

「まあよいわ!」

 と言って肩をすくめた。

「子供に関しては運がなかったの。馬鹿と人でなしとは」

 フィリップは口答えしなかった。

「もうよいわ。もうお前たちなどいらぬ。行ってしまえ……言いたいことを言ってしまったのであればな」

「あと二つ申し上げたいことがあります」

「言うてみろ」

「一つ目です。国王が父上に下さった真珠の宝石箱ですが……」

「お前の妹に、であろう……」

「父上に、です……何にしてもどうでもいいことです。アンドレはあのような宝石を身につけたりはませんから……ド・タヴェルネ嬢は娼婦ではありません。宝石箱をお返しして下さるよう言づかって来ました。ただし、ぼくらにあれほど親切にして下さった陛下のご機嫌を損ねるのがご心配でしたら、どうかお手元にお留め下さい」

 フィリップは父に宝石箱を差し出した。男爵は箱を受け取って蓋を開き、真珠を見つめてから洋箪笥の上に箱を放った。

「次は?」

「二つ目に、ぼくらは裕福ではありません。母の財産まで質に入れたり使ったりしていたくらいですから。ですから非難するつもりはありません。とんでもないことです……」

「それでよかったのかもしれん」男爵が歯を軋らせた。

「ですがぼくらにはささやかな財産の一つであるタヴェルネしかないのですから、父上はタヴェルネとこの家のどちらかを選んで住んで下さい。ぼくたちは残りの方に引き籠もります」

 男爵がレースの胸飾りをしわくちゃにした。怒りに耐えているのは、その手が震え、額が汗ばみ、口唇が震えているところからしかわからなかった。フィリップは気づきもせずにそっぽを向いていた。

「タヴェルネにしよう」

「ではぼくらは宿を」

「好きにせい」

「いつ出発なさいますか?」

「今晩……いや、今すぐにだ」

 フィリップが頭を下げた。

「タヴェルネでは、三千リーヴルの年金があれば大金持じゃ……わしはその二倍の金持じゃな」

 男爵は洋箪笥に手を伸ばし、宝石箱をつかんでポケットに入れた。

 それから戸口に向かったが、不意に残忍な笑みを浮かべて引き返して来た。

「フィリップよ、これから哲学論を発表することがあれば、我が家の名を冠しても構わぬぞ。アンドレには……初めての子が授かったら……ルイかルイーズと名づけてくれるよう伝えてくれ。幸運をもたらす名じゃからの」

 男爵は卑屈に笑って立ち去った。フィリップは目を血走らせ、顔を上気させ、剣の鍔に手を掛けて呟いた。

「神よ! 我に忍耐と忘却を与え給え!」

『ジョゼフ・バルサモ』 149

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第百四十九章 ルイ医師の小庭園

 前章でフィリップが訪れたのが、ルイ医師の家であった。ルイ医師は四方を塀に囲まれた小さな庭を歩き回っていた。そこは古いウルスラ修道院の一部であり、現在は国王親衛隊の竜騎兵用の秣倉庫になっていた。

 医師は歩きながら、出版予定の新作の試し刷りを読んでいるところだった。時折しゃがみ込んでは、歩いている並木道や左右に広がっている花壇から、好き勝手に伸びている雑草を引き抜いていた。

 愛想の良くない家政婦が一人で、仕事の邪魔をされたくない医師の為に、家事のすべてを取り仕切っていた。

 フィリップの手の下で青銅の敲き金が立てた物音を聞いて、家政婦は門に近づいて扉を細めに開けた。

 だがフィリップは家政婦と話し合うことも厭って、扉を押しやり中に入って来た。いったん並木道に入れば、庭が見え、庭には医師がいた。

 厳戒中の番人の如く、フィリップは声も音も立てずに庭に駆け込んだ。

 足音に気づいて医師が顔を上げた。

「おや、あなたですか!」

「勝手に押し入って一人きりの時間を邪魔してしまったことをお許し下さい。ですが、あなたがお考えになっていた瞬間が来たのです。ぼくにはあなたが必要なんです。あなたの助けを請わねばならないのです」

「確かにお約束いたしました。お助けしましょう」

 フィリップがお辞儀をした。感激のあまり何も言葉が出て来なかった。

 ルイ医師はその気持を酌み取った。

「妹さんの具合は如何ですか?」フィリップがあまりに真っ青だったので、何らかの悲劇が起こったのではないかと不安になってたずねた。

「おかげさまで何よりです。妹ほど誠実で気高い女はいないのに、苦しみや脅威に晒されるとしたら、神様は不公平だと言うしかありません」

 医師はフィリップを物問いたげに見つめた。昨夜のことを否定されているように聞こえたのだ。

「では、妹さんは何らかの事件や罠の犠牲になったのだと?」

「その通りです、先生。途方もない事件の犠牲者であり、おぞましい罠の犠牲者でした」

 医師は手を組み、天を仰いだ。

「ああ! そういう点では私たちはひどい時代に生きているのですよ。ずっと前から個人専属の医者は生まれていたのですから、これからは国民全員の医者を作り出すのが緊急の課題だと考えております」

「その通りです。そんな時代が来てくれたら、誰よりも嬉しい気持でそれを見守ることでしょう。ですが今は……」

 フィリップはひどく脅すような仕種をした。

「そうですか! あなたも、罪を償うには暴力や死をもってと考えている人なのですね」

「そうです」フィリップの声は穏やかだった。「ぼくはそういう人間です」

「決闘ですか」医師は溜息をついた。「犯人を殺すことが出来たとしても、妹さんの名誉は回復しませんし、あなたが殺されるようなことがあれば妹さんを絶望の底に投げ込むことになるだけですよ。あなたは真っ直ぐな心と、聡明な魂の持ち主だと思っておりました。この事件のことは何もかも隠し通したがっているとばかり思っていましたが?」

 フィリップが医師の腕を押さえた。

「どういうわけかわかりませんが、先生は誤解していらっしゃいます。深い確信と汚れない良心にかけて、ぼくの頭ははっきりとしています。ぼくの望みは、この手で裁きをおこなうことではなく、裁きを受けさせることです。ぼくの望みは、妹をひとりぽっちにすることでもぼくを亡くして死んだも同然にすることでもなく、ろくでなしを殺して妹の恨みを晴らしてやることなんです」

「あなたが殺すというのですか? 殺人を犯すのですか?」

「もし罪が犯される十分前に姿を見かけていたなら――あんな立場の人間が足を踏み入れる権利などない部屋に盗っ人のように入り込むのを見かけていたなら――ぼくは犯人を殺していましたし、ぼくの行動は正しかったのだと言われたことでしょう。だったらどうして今になって犯人を見逃さなくてはならないのですか? 罪が浄化されたとでもいうのでしょうか?」

「では、そんな残酷な計画を、心の中で固め、魂に誓っているのですね?」

「誓っていますとも! 心を固めていますとも! 何処に隠れていようといつか必ず見つけ出し、見つけた暁には、憐れみも後悔も見せずに、犬のようにぶち殺してやります!」

「ではあなたは、犯人と同じような罪を――それ以上に恐ろしい罪を――犯すことになるのですよ。女の不用意な言葉や媚びた仕種が、男の願望や気持を何処に向かわせるかわかったものでもないというのに。人殺しなどと! ほかの償わせ方があるのではありませんか、結婚させるとか……」

 フィリップが顔を上げた。

「タヴェルネ=メゾン=ルージュの歴史は十字軍にまで遡り、妹の身分は内親王や大公女にも匹敵するのだということをご存じないのですか?」

「そうでしたか。犯人はそうではなく、平民であり愚民であり、あなた方とは別の人間だというわけですね。ええ、そうですとも」医師は辛辣な笑みを見せた。「仰る通りだ。神は劣った粘土から造った人間を、優れた粘土で造った人間に殺して欲しいのですよ。まったくあなたは正しい。どうぞお殺りなさい」

 医師はフィリップに背を向け、雑草取りの作業に戻った。

 フィリップが腕を組んだ。

「先生、聞いて下さい。今ここで問題にしているのは、何だかんだ言って浮気女からその気にさせるようなことをされた色男なのではありません。問題にしているのは、ぼくらに養ってもらったろくでなしのことなんです。慈悲のパンを口にしていた癖に、夜中に眠ったように気絶して仮死状態になっているのをいいことに、恩を仇で返して卑怯にも、この世でもっとも清らかで純粋な女を汚したろくでなしなんです。昼間の光では顔をまともに見ることも出来ない癖に。法廷に出ればこの犯人には死刑の宣告が待っているに違いないんです。それなら法廷のように公正に、ぼくが裁いてやる。ぼくが殺してやる。先生のことは寛大で立派な方だと信じています。ぼくにこの務めを果たさせてもらえませんか? でなければ、犯人を引き渡すという条件を認めてくれませんか? 親切な第三者として役目を果たし自己満足しようとするような方だったんですか? そうだとしたら、先生は尊敬していたような素晴らしい方ではなく、普通の人間だったんですね。あなたは先ほどぼくを軽蔑してみせたけれど、ぼくの方がよっぽど尊敬できる人間ですよ。何の下心もなく秘密をすっかり打ち明けたんですから」

「つまり――」医師が考え込んだ。「犯人が逃亡したと仰るのですか?」

「そうです。事情の説明が始まりそうなことに感づいたのでしょう。非難されているのを聞いて、慌てて逃げ出したんです」

「では、これからどうなさるおつもりですか?」医師がたずねた。

「手を貸していただけませんか。妹をヴェルサイユから連れ出し、何も洩れることのない濃い闇の中に、明らかにされれば恥辱となるような恐ろしい秘密を埋めてしまいたいのです」

「一つだけ訊きたいことがあります」

 フィリップが不機嫌な顔をした。

「まあまあ」医師はなだめるような仕種をした。「僧侶代わりに懺悔された哲学者としては、務めとしてではなく主義主張を持つ権利に基づいて、条件をつけなくてはなりますまい。思いやりとは為すべき務めであって、単なる美徳ではありません。人を殺すと仰いましたね。私はどんな手を使ってでも全力でそれを阻止しなくては。その為には暴力も辞しません。妹さんに降りかかった災難を自ら裁くのも阻止したのですから。だからどうか、私に誓って下さい」

「嫌だ! 嫌です!」

「誓ってもらわなくては」ルイ医師が声を荒げた。「誓いなさい。神の手を意識して、その拳も間合いも見誤らないようになさい。もう少しで犯人を捕まえるところだったと仰いましたね?」

「そうなんです。あそこにいるとわかっていたなら、扉を開けて顔を合わせていたでしょうに」

「それで犯人は逃げ出して震え出し、辛い逃亡生活が始まったというわけですか。ああ、笑っていますね。神がお造りになったものがあなたには足りないのです! 悔恨という気持があなたには欠けているようだ! どうか落ち着きなさい! これからも妹さんのそばに居続けて、犯人を追いかけたりしないと約束して下さい。あなたが犯人と再会することがあれば――言いかえれば、神が犯人をあなたに売り渡したとしたら――私も男ですからね!――あなたにもわかるでしょう!」

「馬鹿らしい。犯人が逃げずにいるとでも?」

「わからないではありませんか? 殺人犯は逃げ出し、隠れ場所を探し、死刑台を恐れ、それでも磁石に引かれるように、裁判所の柵に引き寄せられ、死刑執行人の手の下に頭を垂れに来るものです。もっとも、あなたが辛い思いで実行しようとしていたことをやめるのが問題でしょうか? あなたが生きている世界にとっては問題であり、妹さんの純潔を明らかに出来ない人には問題なのでしょう。あなたが人を殺すのも、そのことで好奇心を何倍も満足させてくれるのを楽しみにしている暇人の為でしかありません。野次馬たちは最初は犯行の告白を聞いて楽しみ、次に罰が下るのを大騒ぎして楽しむつもりなんですよ。いけません。私を信じて沈黙を貫き、今回の不幸を隠し通す覚悟をなさい」

「あのろくでなしをぼくが殺したとして、殺したのが妹の為なのかどうか、誰にわかります?」

「殺した動機が見つかるに違いありません」

「いいでしょう。あなたの言う通りにして、ぼくは犯人を追うのはよしますが、きっと神が裁いて下さることでしょう。神は罰から免れることを餌にして、犯人をぼくの許まで届けて下さるはずです」

「では、神が裁くことでしょう。手をお貸し下さい」

「どうぞ」

「ド・タヴェルネ嬢の為にしなくてはならないことは何ですか?」

「しばらく王太子妃殿下のおそばを離れる口実を考えなくてはなりません。ホームシック、環境、政治……」

「難しく考えることはありません」

「そうですね。あなたについては信頼いたします。ですから妹をフランスの片隅――例えばタヴェルネ――人の目からも猜疑の目からも遠く離れたところに連れて行くことにします」

「それはいけません。あの子には継続的な治療と絶え間ない安らぎが必要です。恐らくは科学の助けが必要になるに違いありません。この辺りで私の知っている小村を探しますから、そこならあなたが連れて行く予定の田舎よりも百倍も人目につかず百倍も安心な隠れ家となるでしょう」

「先生、そうお思いですか?」

「そう思うのにも理由があります。水に石が落ちて広がる輪のように、疑いとは中心から遠ざかるにつれ拡散してゆくものなのですよ。ですが石そのものは拡散しませんし、波紋が消えてしまえば原因を見つけることは出来ませんし、石は水の奥深くに沈んでしまっているものです」

「ではお願いいたします」

「今日から始めましょう」

「妃殿下に知らせていただけますか」

「今朝すぐに」

「ほかの点については……?」

「二十四時間後には答えがわかります」

「何とお礼を言って良いか! あなたこそ神様です!」

「では、すべて決まったからには、あなたは自分のすべきことをなさい。妹さんのところに戻って慰め守っておやりなさい」

「それでは失礼いたします、先生!」

 医師はフィリップが見えなくなるまで見送ると、再び歩き始め、庭の点検と掃除を再開した。

『ジョゼフ・バルサモ』 148

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

第百四十八章 真相

 バルサモが扉を閉じて戸口に姿を見せると、フィリップが恐れと好奇心の入り混じった目を妹に向けていた。

「覚悟はいいかな、騎士シュヴァリエ?」

「ええ、大丈夫です」フィリップは震えながら呟いた。

「では妹さんに質問を始めるぞ?」

「お願いします」フィリップは深呼吸して、胸にかかる重みを和らげようとした。

「だがその前に、妹さんを見てもらおう」

「見ています」

「間違いなく眠っているな?」

「ええ」

「ならばここで起こることに何一つ気づくことはないだろうな?」

 フィリップは答えずに、迷ったような仕種を返した。

 バルサモは暖炉に向かい、蝋燭をつけてアンドレの目の前にかざしたが、炎を前にしてもアンドレの瞼は閉じなかった。

「眠っていることに間違いはありませんが、何て不思議な眠り方なんだ!」

「では質問をしよう。いや、俺が妹さんに無礼な質問をしないか心配だと言っていたな。あなたがご自分で質問なさい」

「でもぼくはさっき話しかけたし手を触れたんです。ぼくの声が聞こえもしないし、何も感じもしないようでした」

「それはあなたが妹さんと結びつけられてなかったからだ。俺が段取りを整えよう」

 バルサモはフィリップの手を取り、アンドレの手と重ねた。

 すぐにアンドレが微笑んで囁いた。

「あなたなの、お兄様?」

「どうだ、あなたのことがわかったようだぞ」バルサモが言った。

「本当ですね。何て不思議なんだ」

「質問すれば、答えが返って来る」

「ですが、目を覚ましている時に覚えていなかったものを、どうやって眠っている時に思い出すというのでしょうか?」

「そこが科学の神秘だな」

 バルサモは息を吐いて、隅にある椅子に腰を下ろした。

 フィリップは手をアンドレの手に重ねたまま動かなかった。アンドレに何とたずねればいいのだ? 答えを聞けば、辱めを受けたことが確実になるだろうし、誰が犯人なのかも明らかとなり、誰に復讐心を向ければいいのかもわかるだろう。

 アンドレは半ば恍惚として、その顔からは何よりも安らぎが窺えた。

 フィリップは震えながらも、準備はいいかと問いかけるバルサモの目つきに応えた。

 だがフィリップが不幸な出来事のことを考え、顔色を曇らせるにつれて、アンドレの顔にも雲が覆い、ついに口を開いたのはアンドレの方だった。

「ええ、その通りです、お兄様。わたくしたち家族にとって大変な不幸でした」

 兄の心を読んだように、フィリップの考えていたことを口に出した。

 不意打ちされたフィリップはおののいた。

「不幸とは何のことだい?」何と答えて良いのかわからずに問いかけた。

「まあ! ご存じじゃありませんか」

「話をさせるのです。そうすれば話してくれる」

「どうやって話をさせればいいのでしょうか?」

「話をして欲しいと願いなさい。それだけでいい」

 フィリップは内なる衝動に任せてアンドレを見つめた。

 アンドレが顔を赤らめた。

「まあ、ひどい。アンドレがお兄様に嘘をついたと思ってらっしゃるなんて」

「では愛している者などいないのかい?」フィリップがたずねた。

「おりません」

「すると、二人で示し合ったのではなく、ぼくを裏切ったのは犯人一人なんだね?」

「何のことでしょうか?」

 フィリップは助言を求めるように伯爵を見つめた。

「問いつめなさい」とバルサモが答えた。

「問いつめるですって?」

「ええ、単刀直入に質問なさい」

「アンドレにも恥じらいというものがあるのに?」

「抑えて抑えて。目が覚めれば何も覚えていないのだから」

「それなのに、ぼくの質問には答えられるというのですか?」

「よく見えるか?」バルサモがアンドレにたずねた。

 アンドレはその声の響きに身体を震わせ、バルサモの方に光の消えた目を向けた。

「あまりよく見えません。あなたが質問して下されば――あっ、でもだんだん見えて来ました」

「見えるんだね。それなら、おまえが気絶したあの夜のことを詳しく話してくれないか」フィリップが声をかけた。

「五月三十一日の夜からではないのですか? 疑いはあの夜まで遡るものと思っておりましたが? すべてを一斉に明らかにするなら今ですぞ」

「あの夜から質問する必要がありませんから。あなたの言葉を信じることにしました。これほどの力を自在に操れる方でしたら、それをつまらない目的に使ったりなどはなさらないでしょう。アンドレ、気絶した夜に起こったことを残らず話してくれないか」

「覚えておりません」とアンドレが答えた。

「お聞きになりましたか、伯爵?」

「絶対に覚えているし、話してくれるはず。そう命じてご覧なさい」

「ですが眠っているのなら……?」

「魂は起きている」

 バルサモは立ち上がってアンドレに手をかざし、眉をひそめて意思と霊力をさらに強めた。

「思い出せ、いいな」

「思い出しました」

「凄い!」フィリップが額を拭った。

「お知りになりたいことは?」

「すべて!」

「どの時点からでしょうか?」

「おまえが横になった時点から」

「自分が見えるか?」バルサモがたずねた。

「はい、見えます。ニコルが用意したコップをつかんで……おお、恐ろしい!」

「どうした? 何があった?」

「人でなし!」

「話してくれ、アンドレ」

「コップには混ぜものが入っていました。それを飲んでいたら、わたくしは終わりでした」

「混ぜものだって! いったい何の目的で?」フィリップが声をあげた。

「待って下さい!」

「まずは飲み物だ」

「口元に持って行こうとしましたが……その時……」

「どうした?」

「伯爵に呼ばれました」

「何処の伯爵だい?」

「この方です」アンドレはバルサモに手を向けた。

「それから?」

「それから、コップを元に戻して、眠りに陥りました」

「それからどうしたんだ?」

「立ち上がって伯爵に会いに行きました」

「伯爵は何処に?」

「窓の正面にある菩提樹の下です」

「じゃあ伯爵はおまえの部屋に入ったことはないんだね?」

「ありません」

 バルサモの目が、「嘘をついていたかどうかおわかりいただけましたな?」とフィリップに告げていた。

「伯爵に会いに行ったと言ったね?」

「はい。呼ばれればその通りにいたします」

「伯爵の用事は何だったんだ?」

 アンドレは躊躇った。

「言うんだ。俺は聞かぬことにする」

 バルサモは椅子にうずくまって両手で頭を抱えた。アンドレの言葉が届かないようにしているのだろう。

「伯爵の用事が何だったのか教えてくれるかい?」フィリップが繰り返した。

「知りたがっておいででした……」

 ここで再び口を閉ざした。伯爵の心臓が破れてしまわないかと心配しているかのようだった。

「続けてくれ、アンドレ」フィリップが懇願した。

「家から逃げ出してしまった人のことを知りたがっておいででしたが」アンドレの声が小さくなった。「その方はその後、お亡くなりになってしまいました」

 アンドレの言葉は小さかったものの、バルサモの耳に届いたか、もしくは見当がついたに違いない。バルサモが苦しげに呻くのが聞こえたからだ。

 フィリップが口をつぐんだ。沈黙が降りた。

「続けてくれ」バルサモが言った。「兄上はすべてを知りたがっているぞ。すべてを知らなくてはならぬ。その男は手に入れたかった情報を受け取った後どうした?」

「お逃げになりました」アンドレが答えた。

「おまえを庭に置いて?」フィリップがたずねた。

「はい」

「おまえはどうしたんだ?」

「伯爵が立ち去ると共に、わたくしを捕えていた力も遠ざかりましたので、わたくしは倒れました」

「気絶したのかい?」

「違います。眠っていましたが、それまでとは違う重い眠りでした」

「眠っている間に起こったことを思い出せるかい?」

「やってみます」

「よし、何が起こった?」

「男が茂みから出て来て、わたくしの腕をつかんで連れて行きました……」

「何処に?」

「ここ。わたくしの部屋に」

「そうか!……その男が見えるかい?」

「待って下さい……はい……はい……また!」アンドレが嫌悪と不快感を見せた。「またあのジルベールです!」

「ジルベール?」

「はい」

「ジルベールは何をしたんだ?」

「わたくしを長椅子に寝かせました」

「それから?」

「待って下さい……」

「見るんだ、目を凝らせ」バルサモが言った。「それが俺の望みだ」

「耳を澄まし……別の部屋に行き……怯えたように後じさり……ニコルの部屋に入って……ああ! ああ!」

「どうした!」

「その後から男が一人。目を覚ますことも、抵抗することも、叫ぶことも出来ずに、眠っているわたくしを!」

「誰のことだ?」

「お兄様! お兄様!」

 アンドレの顔がこれまで以上の苦痛に歪んだ。

「その男が誰なのか言うんだ。命令だ!」バルサモが命じた。

「国王です」アンドレが呟いた。「国王です」

 フィリップが身体を震わせた。

「そうだろうと思っていた」バルサモが呟いた。

「陛下はわたくしに近づいて、話しかけ、腕を回して抱き寄せました。お兄様! お兄様!」

 大粒の涙がフィリップの目に浮かび、バルサモから受け取った剣の柄を握り締めていた。

「続けてくれ!」伯爵の声がさらに威圧的になった。

「幸運でした! 国王は狼狽え……立ち止まり……わたくしを見つめ……怯えて……逃げ出しました……アンドレは助かりました!」

 妹の口から出てくる言葉の一つ一つに、フィリップは喘ぎをあげ、息を吸った。

「助かった! アンドレは助かったんだ!」と機械的に繰り返した。

「待って下さい、お兄様!」

 アンドレは身体を支えようとでもするように、フィリップの腕にしがみつこうとした。

「それからどうなったんだ?」

「すっかり忘れていました」

「何を?」

「あそこ。ニコルの部屋に、ナイフを持って……」

「ナイフを?」

「死人のように真っ青になっているのが見えます」

「誰だい?」

「ジルベールです」

 フィリップが息を呑んだ。

「国王のいたところまで出て、扉を閉め、絨毯を焦がしていた蝋燭を踏んで、わたくしの方へ進んで来ました。ああ!……」

 アンドレは兄の腕の中で立ち上がった。筋肉という筋肉が、折れそうなほどに強張っていた。

「おぞましい!」

 ついにそれだけ言うと、アンドレは力なく崩れ落ちた。

 フィリップは止めることさえ出来なかった。

「あいつです! あいつです!」

 そう呟いてからアンドレは兄の耳元まで這い上がり、目を輝かせ、震える声で囁いた。

「あいつを殺して下さいますね、フィリップ?」

「もちろんだ!」

 フィリップは飛び上がった拍子に後ろにあった円卓にぶつかり、磁器をひっくり返してしまった。

 磁器が粉々に砕け散った。

 その音と共に、壁が音もなく鳴り振動した。そしてそのすべてを掻き消すようなアンドレの悲鳴。

「何だ?」バルサモがたずねる。扉が開いた。

「誰かに聞かれたのか?」フィリップが剣をつかむ。

「あいつです。またあいつです」アンドレが答えた。

「あいつとは?」

「ジルベールです。いつもジルベール。殺して下さいますね、フィリップ、ジルベールを殺して下さいますね?」

「もちろんだ! もちろんだとも!」

 フィリップは剣を手にしたまま控えの間に飛び込んだ。アンドレは長椅子に倒れ込んだ。

 バルサモがフィリップの後を追い、腕をつかんで引き留めた。

「待ちなさい。秘密が秘密でなくなりますぞ。陽が昇った。王宮の噂はかしましい」

「糞ッ! ジルベールめ。あそこに隠れて盗み聞きしていたんだ。殺してやるとも。ろくでなしなど死んでしまえ!」

「異論はないが、まずは落ち着きなさい。いずれあの若者には再会できる。差し当たって気にかけなくてはならないのは妹さんだ。昂奮のあまりぐったりし始めているではありませんか」

「わかっています。ぼくと同じ苦しみに喘いでいるんです。あまりにおぞましくて、立ち直れそうにありません。ああ、死んでしまいそうだ!」

「妹さんの為にも生きなくてはなりません。妹さんにはあなたが必要だ。あなたしかいないんだ。妹さんを愛で、憐れみ、大事になさい……」バルサモはしばらく押し黙ってから、口を開いた。「これでもう私はお役御免ですかな?」

「ありがとうございました。疑ったり侮辱したりしたことをお詫びいたします。それでもやはり、すべての不幸の元凶はあなただったのではありませんか」

「言い訳はいたしません。だが妹さんの話をお忘れではありませんかな……?」

「妹が何と? 頭が混乱してしまって」

「仮に私が来なかったとしたら、妹さんがニコルの用意した飲み物を飲んだところに、国王が訪れていた……そっちの方がましでしたかな?」

「そうは思いません。どちらも同じく不幸な出来事でしょう。よくわかってます。ぼくらはそうした宿命に生まれついたんですよ。妹の目を覚ましてくれませんか?」

「だが妹さんが私の姿を見たら、恐らく何が起こったのか察するのではありませんかな。眠らせた時と同様に、遠くから目覚めさせた方がいい」

「ありがとうございます!」

「ではこれにて」

「もう一つだけ。あなたは信用できる方ですね?」

「秘密を守れるかどうかですかな?」

「伯爵……」

「念押しは無用。第一に、私は信用できる人間です。第二に、もう人と関わるようなことはしないと決めたのです。人とも人の秘密ともおさらばするつもりだ。それでももし、私でお役に立てるようなことがあれば頼っていただきたい。もっとも、もう何の役にも立たぬでしょうが。この世にはもう何の未練もない。ではご機嫌よう!」

 バルサモはフィリップに向かって頭を下げ、今一度アンドレを見つめた。アンドレは苦痛と疲労から心持ち顔を仰け反らせていた。

「科学というやつは、価値なき結果に幾多の犠牲を求めやがる!」とバルサモは呟き、姿を消した。

 バルサモが遠ざかるにつれ、アンドレが自由を取り戻した。鉛のように重かった頭を起こし、目に驚きを浮かべて兄を見つめた。

「フィリップ 何があったの?」

 フィリップは嗚咽を喉の奥で引っ込め、気丈にも微笑んだ。

「何でもないよ」

「何も?」

「ああ」

「ですけれど、何だかわたくし、頭がおかしくなって夢を見ていたようなんです!」

「夢を? どんな夢だい、アンドレ?」

「ルイ先生、ルイ先生、お兄様!」

「アンドレ!」フィリップはアンドレの手を握った。「おまえは太陽のように純粋だ。それなのにひどい目に遭わされ、汚されてしまい、ぼくら二人は恐ろしい秘密を抱えることになった。ぼくはルイ先生を探しに行くつもりだ。おまえがホームシックにかかり、治すにはタヴェルネで過ごすしかないと、王太子妃殿下に伝えてもらおうと思うんだ。そうしたら二人で出かけよう。タヴェルネでもいいし、何処か別の場所でもいい。この世に二人きりになって、愛し合い、慰め合えれば……」

「でもお兄様の仰るように、わたくしが純粋なのなら……?」

「そのことはいずれ説明するよ。今は出発の準備をしなさい」

「でもお父様は?」

「父上か」フィリップの顔色が翳った。「そのことも考えている。手筈はととのえるよ」

「ではお父様も一緒なのね?」

「父上も? あり得ないよ。ぼくら二人きりだと言ったはずだ」

「怖がらせないで下さい、お兄様! わたくしは具合が悪いんですから!」

「最終的には神様が判断して下さるさ。だから勇気を出すんだ。ぼくは先生を探しに行く。おまえの具合が悪くなったのは、タヴェルネから離れたのが寂しいからさ。それを妃殿下に遠慮して感づかれまいとしたんだろう。元気を出すんだ。ぼくら二人の名誉の問題だ」

 フィリップは息が詰まりそうになって、アンドレを抱き締めた。

 それから落としていた剣を拾うと、震える手で鞘に戻し、階段に向かって駆け出した。

 十五分後、フィリップはルイ医師宅の門を叩いていた。医師は廷臣がトリアノンにいる間は、ずっとヴェルサイユで暮らしていたのだ。

PROFILE

東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 名前:東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 本好きが高じて翻訳小説サイトを作る。
  • 翻訳が高じて仏和辞典Webサイトを作る。

  • ロングマール翻訳書房
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