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 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 20-2

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「ご用件とは?」ジルベールがベラルディエ院長にたずねた。

「この子に必要なのは勉強ではなく、気晴らしなのです」

「何ですって?」

「それはもう素晴らしい若者です。誰からも、息子のように、兄弟のように愛されています。ですが……」

 院長は言い淀んだ。

「だが何だと?」

「ですが注意深く見てあげなくては、いずれこの子を殺してしまうものがあるのです」

「それは?」

「あなたの助言にあった『勉学』ですよ」

「勉強が?」

「ええ、勉強です。書見台の前で腕を組んだり、辞書に鼻を突っ込んで目を落としているのをご覧になれば……」

「それは勉強しているんですか、空想に耽っているんですか?」

「勉強です。適切な言い回しや、古典的な表現、ギリシア語やラテン語の文型を、時間があればあるだけ、考えてばかりいるのです。現に今も……」

 なるほど父親がほんの数分離れているだけのうちに、ビヨが扉を閉めたか閉めなかったかのうちに、若きセバスチャンは恍惚とした表情を浮かべて自分の世界に入っていた。

「しょっちゅうああなんですか?」ジルベールが不安そうにたずねた。

「いつものことだと申し上げるべきでしょう。あの様子をご覧下さい」

「仰る通りだ。あんなところを見つけたら、気晴らしさせざるを得ませんね」

「残念な話ですが。何しろこの勉強の成果が、いずれルイ=ル=グラン学校に最大の名誉をもたらしてくれる結晶なのですから。断言しておきます、三年後にはあらゆる試験を総なめにすることでしょう」

「とは言うものの、先生がご覧になったようにセバスチャンがああやって考えに耽っているのは、強さではなく弱さの証、健康ではなく不健康の徴候……先生が仰った通り、この子にはあまり勉強を勧めるべきではありません。いずれにしても、せめて勉強しているのか空想しているのか区別をつけられるようにしておかなくては」

「あの子が勉強しているのは間違いありません」

「あんな状態の時にですか?」

「ええ。あの子は宿題を終わらせるのが誰よりも早い。口唇が動いているでしょう? あれは課題を繰り返しているのです」

「でしたら、あんな風に繰り返しているのを見たら、気晴らしさせるようにしてもらえますか。もっと上手く課題をこなせば、もっと具合も良くなるでしょうし」

「そうお考えですか?」

「もちろんです」

「そうなのでしょう。お知りおきいただきたいのですが、コンドルセ先生もカバニ先生も仰っていたのですよ、これほど優れた人間は見たことがないと」

「一つだけお願いします。夢から引き出す時には注意してもらえますか。初めは小さな声で話しかけて下さい」

「なぜですか?」

「離れていた心を少しずつこの世に連れ帰るためです」

 院長は驚いて医師を見つめた。気が狂ったのかと言わんばかりだった。

「どういう意味なのかすぐにご覧になれますよ」ジルベールが言った。

 ちょうどビヨとピトゥが戻って来たところで、ピトゥがほんの数歩でセバスチャンに近寄った。

「ボクを呼んでくれたんですね、セバスチャン」ピトゥが腕を取った。「気を遣ってくれてありがとうございます」

 そう言ってでっかな頭を土気色の顔に近づけた。

「ご覧なさい」ジルベールが院長の腕をつかんだ。

 なるほどセバスチャンはピトゥに優しく触れられて、不意打ちで夢から引き出されてよろめき、くすんでいた顔色は白っぽく変わり、襟がふやけたように首が落ちた。胸から痛ましい溜息が洩れると、頬が鮮やかに赤く染まった。

 セバスチャンは首を振って微笑んだ。

「ああ、ピトゥか。そうなんだ、僕が呼んだんだよ」

 それからピトゥを見つめ、

「じゃあ君は戦いに参加したんだね」

「そうさ、たいした子だよ」ビヨが言った。

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『アンジュ・ピトゥ』 20-1

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

第二十章 セバスチャン・ジルベール

 プランシュ=ミブレー街(rue Planche-Mibray)の端で辻馬車を見つけたので、ジルベール医師は馬車を停めて乗り込んだ。【現在のサン=マルタン街の一部。ジェーヴル河岸とヴィクトリア通りの間の区域。ヴァンリー街を西に真っ直ぐ進むと、ちょうど rue Planche-Mibray と rue des Arcis の境目にぶつかる。coin de la rue Planche-Mibray とはその境目のことだろう。】

 ビヨとピトゥも隣に腰を下ろした。

「ルイ=ル=グラン学校(collège Louis-le-Grand)まで!」ジルベールは馬車の奥に腰を据えてじっくりと考え込み始めた。ビヨとピトゥはこういう時には邪魔しないようにしていた。【サン=マルタン街を南下し、ノートル=ダム橋を渡ってそのまま真っ直ぐ進めば、サン=ジャック街の左手(東側)に collège Louis-le-Grand がある。】

 ポン=ト=シャンジュを渡り、シテ街、サン=ジャック街を進むと、ルイ=ル=グラン学校に到着した。【Pont-au-Change は、ノートル=ダム橋の一本向こう、サン=マルタン街の一本向こうのサン=ドニ街から通じる橋である。rue de la Cité は、ノートル=ダム橋から通じてシテ島を貫きサン=ジャック街に通ずる通りである。】

 パリ中がおののいていた。最新の報せが駆け巡っていた。グレーヴで虐殺がおこなわれたという噂が、バスチーユを奪い取ったという輝かしい物語と一緒くたになっていた。心に感じて洩れ出した魂の輝きが様々な表情となって人々の顔に浮かぶのが見えた。

 ジルベールは窓に顔を向けることも、口を利くこともなかった。喝采する民衆というものには馬鹿げた側面がある。ジルベールは己が凱旋をそちら側から見ていた。

 こぼれて撥ねた血の滴を、流さずに済む方法が何かあったはずだ。

 ジルベールは学校の門前で馬車を降り、ビヨにもついてくるよう合図した。

 ピトゥは辻馬車でおとなしくしていた。

 セバスチャンはまだ医務室にいた。ジルベール医師到着の報せに、校長自ら案内に立った。

 如何に目が曇っていようと、父子の性格を承知していたビヨは、目の前で繰り広げられている光景を注意深く観察した。

 セバスチャンは落ち込んでいると弱々しく苛立ち神経質になりながらも、嬉しい時には穏やかで控えめな姿を見せた。

 真っ青な父を見て、言葉を失った。口唇がぷるぷると震えた。

 やがて悲鳴にも似た歓声をあげて父の首にかじりつき、無言のうちに両腕できつく抱きしめた。

 ジルベール医師も同じく無言の抱擁で応えた。ただしその後、嬉しいというよりは悲しそうな微笑みを浮かべて、長々と息子を見つめた。

 ビヨが熟練した観察眼の持ち主であれば、この父子の間には不幸か事件が起こったのだ、と考えたことだろう。

 セバスチャンはビヨに対してはそれほど感情を押し殺しはしなかった。父だけに向けられていた注意がようやくほかのものにも向けられるようになると、農夫に気づいて首筋に飛びついた。

「ああ、ビヨさん、何て凄い人なんだ。約束を守ってくれたんですね、ありがとうございます」

「いやいや、これがまた大事おおごとだったんだ、セバスチャンさん。お父さんはしっかり閉じ込められていたもんだから、外に出すのは一苦労だったんだ」

「セバスチャン、元気だったかい?」医師が心配そうにたずねた。

「ええ。医務室にいますけど、大丈夫です」

 ジルベール医師は微笑んだ。

「医務室にいる理由は知っているよ」

 微笑むのは息子の番だった。

「欲しいものはないかい?」

「おかげさまで何も」

「だったらいつもと同じく、言うことは一つだけだ。勉学に励むといい」

「わかりました」

「これが無意味でつまらない言葉だとは思っていない。もしおまえがつまらないと感じるのなら、これからは口にするのはよすよ」

「お父さん、それに答えるのは僕ではなく校長先生のベラルディエさんだと思います」

 医師がベラルディエ氏を見ると、ちょっと話があるという合図が返って来た。

「では待っていてくれ、セバスチャン」

 医師は校長に近寄った。

「ビヨさん、ピトゥに何かあったんですか? 一緒にいませんけど」セバスチャンがたずねた。

「門のところにいますよ、辻馬車の中です」

「お父さん、ビヨさんにピトゥを連れて来てもらっても構いませんか? 会えば気持もほぐれると思うんです」

 ジルベールがうなずき、ビヨが出て行った。

『アンジュ・ピトゥ』 19-4

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 これが始まりだった。

 ジルベールはこのすべてを見下ろしていた。今度もまた助けに行こうと身を躍らせたのだが、二百人の腕に阻まれていた。

 顔を背けてため息をく。

 目を開けて顔を上げると、最後に挨拶しようとしたかの如く、正面の窓にフレッセルがいて、選挙人に守られるようにして囲まれていた。

 血の気がなかったのは生者と死人のいずれだったのかと問われても、答えることは難しかろう。

 俄にローネーの死体が倒れている辺りでどよめきが起こった。死体を漁っていた者が、上着のポケットから市長が出した手紙を、ロスムが見せられたあの手紙を見つけたのだ。

 手紙には以下の文言がしたためられていたことを覚えておいでだろう。

『持ちこたえてくれ。パリの市民は徽章と約束で誤魔化しておいた。日が沈むまでにはブザンヴァル氏の援軍が向かうはずだ。 ド・フレッセル』

 おぞましい呪詛の言葉が、路上からフレッセルのいる市庁舎の窓まで、撒き散らされた。

 理由まではわからなかったが、その殺気を感じ取ったフレッセルは、後ろに飛び退いた。

 だがとっくに姿は見られて居場所は知られていた。人々が階段に殺到する。皆の気持が一つになっていた。ジルベールを運んでいた男たちも、怒りに吹き寄せられたこの波に遅れまいとして、手を離した。

 ジルベールも市庁舎に入ろうとした。フレッセルの命を脅かすためではなく、守るために。正面階段を四、五歩上りかけたところで、後ろに強く引っ張られた。後ろを向いて振り払おうとしたが、見ると今回引っ張っていたのはビヨとピトゥだった。

「あれは何だ?」ジルベールは高いところから広場を見下ろしていた。「向こうでは何が起こっているんだ?」

 手を震わせてチクスランドリー街(Tixéranderie/Tixeranderie)を指さした。【現在のリヴォリ街。サン=タントワーヌ街の続きに当たる。】

「行きましょう、先生、行かなくては」ビヨとピトゥが急かした。

「何てことだ! 虐殺だ! 虐殺が起こってるんだ……」

 今しもロスム氏が斧で打ち倒されたところだった。怒りに駆られた民衆は、囚人を迫害していた利己的で残忍な司令官と、絶えず支えとなっていた優しい男を、取り違えてしまったのだ。

「そうだ、行かなくちゃ。あんな人たちに助けてもらったと思うと恥ずかしくなって来たよ」

「先生、落ち着いて下さい。あそこで戦っていたのは、ここで人殺しをしている奴らとは違う」ビヨが言った。

 だが、フレッセルを助けようとして上りかけていた階段を降りているまさにその時、円天井に押しかけていた人波が吐き出されて来た。その真ん中に一人の男がもがきながら引きずられていた。

「パレ=ロワイヤルへ! パレ=ロワイヤルへ!」人々が叫ぶ。

「そうだ、諸君、パレ=ロワイヤルだ!」その男も繰り返す。

 だが男の向かう先にあるのは川だった。パレ=ロワイヤルに連れて行くのではなくセーヌ川に引きずり込もうとしているかのようだった。

「また殺されてしまう! 何とか助けなくては」ジルベールが叫んだ。

 だが言いも終わらぬうちに銃声が聞こえ、フレッセルは煙の中に消えた。

 ジルベールは正義の怒りに震えて両手で目を覆った。許せなかった。あれほど偉大だった人々が、気高いままでいることも出来ずに、三つの殺人で勝利を汚してしまうとは。

 目から手を離すと、三つの首が三本の槍の先にあるのが見えた。

 一つ目はフレッセルの首、二つ目がロスムの首、三つ目がローネーの首だ。

 一つは市庁舎の階段に、二つ目はチクスランドリー街の真ん中に、三つ目はペルティエ河岸(quai Pelletier)にある。【現在のジェーヴル(Gesvres)河岸。ノートル=ダム橋とグレーヴ広場の間あたり。】

 その三点を結べば三角形が形作られていた。【※市庁舎と、チクスランドリー街の西端と、ペルティエ河岸の東端を結べば、ぎりぎり何とか直角二等辺三角形くらいにはなる。】

「そんな……! バルサモ! バルサモ!」ジルベールは嘆息して呟いた。「では自由を象徴するのが、こんな三角形だというのですか?」

 ジルベールはヴァンリー街(rue de la Vannerie)を走り抜けた。ビヨとピトゥも後に続いた。【現在のヴィクトリア通り(avenue Victoria)】


 第20章に続く

『アンジュ・ピトゥ』 19-3

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 この集団の隣を併走するように、大通りからセーヌ川に通じるサン=タントワーヌ街の大路を、殺気を帯びて進んでいるのは、最上級曹長ロスムを連れ出していた集団だった。ご覧になった通りロスムは先ほど司令官の意向に逆らった際には、抵抗の意志が堅い司令官に従うしかなかった。

 ロスムは優しく誠実な素晴らしい男であった。ロスムが就任してからバスチーユの辛さは改善されていた。だが民衆にはそのことを知るよしもない。立派な制服のせいで司令官だと勘違いされてしまった。当の司令官はサン=ルイ勲章の赤綬をもぎ取り、何の飾りもない灰色の服を着ていたために、安全な疑いの中に逃げ込み、本人を知る者たち以外には気づかれずにいた。

 ジルベールが暗い目つきで見下ろしていたのはこうした風景だった。身の危険を孕んだこの大波のさなかでさえ、その落ち着いた観察眼が失われることはなかった。

 バスチーユを出たユランに呼ばれて、もっとも信頼できる忠実な友人たちと、この日もっとも勇敢だった民兵たちと、四、五人の男たちが集まり、司令官を守ろうという高潔な目的に協力しようとした。公正なる歴史が刻むところによれば、その中に三人の男がいた。アルネ、ショラ、ド・レピーヌ(Arné, Chollat et de Lépine)である。

 この三人がユランとマイヤールの後から、誰もが死を願う男の命を救おうとしていた。

 周りにはフランス近衛聯隊の擲弾兵が集まっており、三日前からお馴染みとなったその制服は、人々にとって崇敬の的であった。

 高潔な者たちの手に守られればローネー氏も殴られることからは免れたが、罵りや脅しから逃れることは出来なかった。

 ジュイ街の端まで来ると、バスチーユからの行列に合流していた五人の擲弾兵は、残らずいなくなってしまった。人々が昂奮に駆られてか、或いは殺戮を望む者たちが意図的に、一人ずつ路上から連れ出してしまったのだろう。一人また一人と数珠玉が外れるようにいなくなるのがジルベールには見えた。

 この時からジルベールは悟っていた。こたびの勝利は血で汚されることになる。御輿代わりの卓子から抜け出したかったが、鉄のような腕に捕えられてどうすることも出来ない。仕方がないのでビヨとピトゥに司令官を守るように伝えると、二人とも全力で人波を掻き分け、司令官のところに行こうとした。

 司令官を守っている者たちに助けが必要なのは事実だった。ショラは昨夜から何も口にしていなかったので、体力もなくなり、意識を失って倒れてしまったのを、すんでのところで抱き起こされ、踏みつぶされずに済んだのである。

 だがそれが壁の割れ目であり、堤防の裂け目であった。

 一人が割れ目から飛び込み、銃の銃身をつかんで振り回しながら、司令官の剥き出しの頭に喰らわせようとした。

 だが銃が振り下ろされるのを見たド・レピーヌが素早く飛び出して腕を伸ばしたために、銃は司令官ではなくド・レピーヌの額に打ち下ろされた。

 ド・レピーヌは衝撃に目を回し、血で目を塞がれ、よろけながら手で顔を覆った。目が見えるようになった時には司令官からかなり離されていた。

 ビヨが追いつき、後ろからピトゥがやって来たのは、そんな時であった。

 すぐにビヨはローネーが気づかれた理由に思い至った。一人だけ無帽だったのだ。

 ビヨは帽子を取って腕を伸ばし、司令官の頭にかぶせた。

 ローネーが振り向き、ビヨを認めた。

「ありがとう。だが何をしても私は助からない」

「とにかく市庁舎に行こう」ユランが言った。「そうすればどうにかなる」

「わかった。だがたどり着けるかな?」ローネーが答えた。

「神のご加護を信じて、とにかくやってみよう」ユランが言った。

 確かに希望はあった。市庁舎広場はもうすぐそこだった。だが広場には腕まくりした男たちが押し寄せ、剣や槍を掲げていた。バスチーユの司令官と最上級曹長が連れて来られたという噂が駆け巡っているのを聞いて、猟犬のように鼻をひくつかせ、歯を軋らせて、待ち受けていた。

 行列を目にした男たちが飛びかかって来た。

 ユランは一目で、今が一番危ない時であり、正念場であると悟った。ローネーを玄関の階段に上げるなり放るなり出来さえすれば、ローネーは助かっていたはずだ。

「俺だ、エリー、マイヤール。優しさがあるなら助けてくれ、みんな。俺たち全員の名誉がかかっているんだ!」

 エリーとマイヤールがそれを聞いて人群れに足を踏み入れたが、誰もが必要以上に協力的だった。二人の前に道が開き、二人の後で道が閉じた。

 二人はいつの間にか問題の集団から離れ、元に戻ることは叶わなかった。

 群衆は手に入れたものを見ると、努力を惜しまなかった。ローネーたちを囲むようにして、大蛇の如くとぐろを巻いた。ビヨは持ち上げられ、連れ出され、運び去られた。ピトゥもビヨと同じ大渦に巻き込まれた。ユランは市庁舎の一段目につまずいて転んだ。すぐに立ち上がったものの途端にまた倒され、今度はローネーも一緒に引きずり倒された。

 司令官はどこまでも司令官のままであった。最後の瞬間まで呻き声一つ洩らさず、命乞いすることもなかった。ただ一言、絶唱した。

「諸君が虎なら、せめて苦しませずに今すぐ殺してくれ」

 未だかつてこの頼みより迅速に実行された命令はなかった。直後、倒れたローネーを囲んで血に飢えた顔が覗き、武器を持った腕が振り上げられた。束の間、引き攣った手と突き立てられた刃のほかは何も見えなかった。やがて胴体から離れた首が、槍の先から血を滴らせて掲げられた。その顔には鉛色の蔑んだ微笑みが残されたままだった。

PROFILE

東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 名前:東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 本好きが高じて翻訳小説サイトを作る。
  • 翻訳が高じて仏和辞典Webサイトを作る。

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