アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む。
ジルベールは訊問の用意が出来たことを国王に知らせた。
「では伯爵夫人」国王がたずねた。「そなたが逮捕させたがり、また実際に逮捕させたのは、こちらの先生なのだな?」
「はい」
「間違いや思い違いはないのだな?」
「はい」
「小箱はどうだ?」
「ご冗談を!」伯爵夫人はぼそりと口にした。「その小箱をこの人のところに置いておかなくてはならないのでしょうか?」
ジルベールと国王は視線を交わした。
「ではそなたが盗んだのだな?」
「わたくしが盗みました」
「何ということだ! 伯爵夫人、詳しく聞かせなさい」国王は威厳もかなぐり捨てて、アンドレの前に膝を落とした。「そなたが盗んだのか?」
「はい」
「場所と方法は?」
「ここにいるジルベールはここ十六年の間に二度フランスを移動し、今回の三度目の旅を企てた時にはいよいよ定住するつもりだということを突き止めました」
「それで、小箱は?」
「警視総監のクロンさん【Marie Louis Thiroux de Crosne、1736-1794、lieutenant général de police】に教えていただきました。旅の途中でヴィレル=コトレ近郊に土地を買ったと聞きました。その土地の持ち主である農夫が信頼されていると知り、小箱がそこにあることを見つけ出したのです」
「どのように見つけ出したのだ?」
「メスメルに会って眠らせてもらい、透視いたしました」
「小箱は……?」
「一階の箪笥の中、下着の中に隠してありました」
「たいしたものだ! それからどうなった? 教えてくれ」
「クロンさんのところに戻ったところ、王妃の推薦状を許に、有能な警官を一人用意してくださいました」
「その警官の名は?」ジルベールがたずねた。
アンドレは真っ赤に焼けた鉄に触れたようにびくりとした。
「名前を尋いているんだ」ジルベールが繰り返した。
アンドレが抗おうとする。
「名前だ。命令だ!」
「パ=ドゥ=ルーです」
「その後どうなったのだね?」国王がたずねた。