アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む。
ピトゥは目と同じくらいに耳を開いて、ビヨのそばの床に腰を下ろした。
こうしてジルベールの仕事部屋(le cabinet)で始まった三人の話し合いは、なかなか興味深い光景だった。傍らの机には手紙や書類やほやほやの印刷物や新聞が積まれ、すぐそばの扉に詰めかけた請願者や告訴人は、目も手足もほとんど利かない老事務員に押し返されていた。
「教えて下さい。悪い結末とは?」ビヨがたずねた。
「いま何をしているかわかるかい?」
「文章をお書きで」
「ではこの文章の意味は?」
「当てろと仰るんですな、文字も読めないあたしに」
ピトゥがおずおずと顔を上げ、ジルベールの前にある書類に目を向けた。
「数字ですね」
「そう、数字だよ。この数字がフランスを破滅させるものでもあり、救うものでもあるんだ」
「何ですって!」ビヨが声をあげた。
「何ですって!」とピトゥも同じ言葉を発した。
「この数字が明日には印刷されて、王宮や貴族の館や貧乏人のあばら屋から、収入の四分の一を請求することになるんだ」
「え?」ビヨがたずねた。
「アンジェリク伯母さんが嫌な顔をしそうだなあ」ピトゥが呟いた。
「おかしいかい? 革命を起こしたんだから、革命の対価を払うべきだろう?」
「その通りですね」ビヨがきっぱりと応じた。「そうさね、払うべきだ」
「君は信念を持っているからね、そうした答えを聞いても驚かないよ。だが信念を持っていない人たちは……」
「信念を持っていない人たちは……?」
「ああ、どうすると思う?」
「抗うでしょうね」ビヨの言葉には強い意志が感じられた。自分だったら何が何でも抗うだろう。自分の信念と相容れない活動のために収入の四分の一を請求されて黙っているわけがない。
「では抗争だ」ジルベールが言った。
「でも多数派が」
「言ってご覧」
「多数派が押し切りますよね」
「つまり圧制だ」
ビヨがジルベールを見つめた。疑わしげだった眼差しに閃きの光が灯った。
「焦らなくていい」ジルベールが言った。「言いたいことはわかる。貴族と聖職者が何もかも手にしている、そうだろう?」
「その通りです。それに修道院も……」
「修道院?」
「修道院も貯め込んでますよ」
「
「貴族の税率が低すぎるんです。あたしは農夫ですからね、あたしだけでシャルニー三兄弟の二倍の税金を払ってるんですよ。三人で二十万リーヴル以上の年金を受け取ってるというのにね」
「では貴族と司祭のことを自分と同じフランス人だとは思っていないのかい?」
ピトゥが耳をそばだてた。グレーヴ広場では肘の強さで愛国心が測られているような時に、異端の響きを伝えるような質問だったからだ。