アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む。
こうした女たちがゆっくりと行進しながら勧誘を繰り返しているのを、一人の男が見ていた。男は両手をポケットに入れて後ろからついて来ていた。
この男、肉のない青白い顔をして、痩せて長身、鉄灰色の外套(un habit gris-de-fer)に、黒い上着と黒いキュロットを身につけ、擦り切れた三角帽を斜めにかぶっている。
長い剣が細く逞しい足にぶつかっていた。
後をつけ、目を凝らし、耳をそばだたせ、黒い眉の下で油断なく目を光らせていた。
「あの顔には見覚えがあるな。暴動には必ずいた」ビヨが呟いた。
「あれは執達吏のマイヤール(l'huissier Maillard)だよ」ジルベールが言った。
「ああ、そうでした。バスチーユであたしの後ろから板を渡った人ですよ。あたしなんかよりずっと器用だった。堀に落ちずに済んだんだから」【※第17章参照】
マイヤールは女たちと共に路地を曲がって姿を消した。
ビヨはマイヤールの後を追いたがったが、ジルベールによって市庁舎に連れて行かれた。
確かに暴動の起きる場所は決まって市庁舎だった。暴動を起こしたのが男たちであれ女たちであれ。流れを追いかけるくらいなら、河口で待ち受ける方が早い。
パリで何が起こっているのかは市庁舎にも知らされていた。だがほとんど関心は払われていなかった。冷静なバイイや貴族のラファイエットにとって、太鼓を叩く女が何を思いついていようがどうでもよかった。せいぜい祭りの先触れだとしか考えられていなかった。
だがその女の後から二、三千人の女たちがやって来て次から次へと人数がふくらんでゆくのを見て、また同じくらい大勢の男たちがいやらしい笑みを浮かべおぞましい武器を手に歩いて来るのを見て、また女たちがこれから犯すことになる罪を思ってその男たちが北叟笑んでいるのだと、ましてや質の悪いことに前回も憲兵隊(la force publique)に拘束されなかったのだから今回も法的(la force légale)に拘束されて罰せられることはないと見くびられているのだとわかるにつけ、事態がどれだけ深刻であるのか気づき始めた。
男たちが北叟笑んでいたのは、自分たちが罪を犯さなくて済むからであり、人類の無害な片割れが罪を犯すのを安穏として見ていられるからであった。
半時間後、グレーヴ広場には一万人の女が集まっていた。
充分な数が集まったと見るや、女たちは腰に手を当て議論し始めた。
議論は穏やかとは言いがたかった。大部分は門番女に市場の女将に娼婦である。ほとんどは王党派であったので、国王や王妃を傷つけようとするくらいなら、二人のために死を選んだだろう。この侃々諤々の議論が川向こうのノートル=ダムの尖塔にまで聞こえていたなら、尖塔もきっと、これまで見下ろして来たどんなものより輪を掛けて面白そうだからぜひ見に行こうと考えたことであろう。