アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む。
「ボクがいた頃アラモンには銃が五挺あったはずです。歩兵銃(fusil de munition)が三挺に、単身の猟銃が一挺に、二連式の猟銃が一挺」
「今は四挺しか無え。猟銃は先月ぶっ壊れた」
「デジーレ・マニケ(Désiré Maniquet)の銃ですね」
「ああ、暴発した拍子に指二本、持ってかれちまった」デジーレ・マニケが指の欠けた手を掲げて見せた。「ロンプレ(M. de Longpré)って貴族の狩り場で起こった事故だ。貴族にはその借りを払ってもらわんと」
それはやり返すのももっともだと、ピトゥはうなずいて見せた。
「たった四挺だけだ」クロード・テリエが言った。
「四挺あれば、五人が武装できます」ピトゥが応えた。
「どうやって?」
「五人目は槍を持てばいいんです。パリではそうでした。銃を持った男四人につき、槍を持った男一人で一組でした。槍なら使いやすいですし、斬り落とした首を刺すことも出来ますから」
陽気な声の持ち主が応えた。「首を斬り落とさなくて済めばいいんだがねえ」
「そうですとも。ピット父子の金を退けることが出来れば。でもそれより銃の話です。バイイさんと同じ質問をしましょう。アラモンには武器を取れる人間は何人いますか? 数えてくれましたか?」【※ピット父子の対仏政策については第44章を参照】
「うん」
「何人でしょう?」
「三十二」
「では二十八挺の銃が必要です」
「そんなには無理だろう」大きな身体に陽気な表情を浮かべて、先ほどの男が応えた。
「しなくちゃなりません、ボニファス」
「はあ、しなくちゃならないって?」
「ええ、しなくちゃなりません。ボクなら出来るからです」
「出来るって何を?」
「銃を手に入れることが出来るんです」
「銃を?」
「ええ、パリの人たちだって武器は持ってませんでした。でもマラーさんっていうお医者さんがいて、とても賢くてぶさいくな人なんですけれど、その人が武器の在処を伝えたんです。パリの住人はマラーさんの言った場所に出向いて武器を見つけました」
「マラーは何処に行けと言ったんだ?」デジーレ・マニケがたずねた。
「廃兵院です」
「なるほど。だがアラモンに廃兵院はない」