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 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』64-2

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 だが何よりもまず、この場面について説明しよう。他の箇所であれば冗長のそしりを免れ得ぬであろうが、この箇所であれば不自然とは言われまい。

 この説明によって、フォルチエ神父の家に三、四十挺の銃があることが明らかになるであろう。ピトゥと共犯者二人が欲しがっている銃のことである。

 以前お伝えする機会のあった通り、かつて城館の所属司祭もしくは副司祭だったフォルチエ神父は、時と共に、そして長く根を張るという聖職者の習いによって、舞台構成的に家の付属物と呼ばれるものの唯一の管理者となっていた。【※第1章によればフォルチエ神父は chapelain du château(城館の礼拝堂所属司祭)である】

 聖器、蔵書(la bibliothèque)、家具(le garde-meuble)に加えて、国王フィリップの父であり後にエガリテと呼ばれたドルレアン公ルイ=フィリップ二世の狩猟用具を預かっていた。この古い狩猟用具の幾つかはルイ十三世やアンリ三世にまで遡る。こうした道具類が神父によって城館の回廊に整然と並べられていた。そのために城館を任されていた。ひときわ見る者の目を惹くように、周りには円楯、狩猟槍、短刀、短剣、カトリック同盟時代に象嵌が施されたマスケット銃が散りばめられていた。【※Louis-Philippe II Joseph, duc d'Orléans, Philippe Égalité(1747-1793)は革命時にフィリップ・エガリテを自称した。その息子 Louis-Philippe(1773-1850)は7月王政で国王ルイ=フィリップとなる】

 回廊の扉はルイ十四世が王弟ムッシューに授けた銀張りの青銅の大砲二門にしっかりと守られている。

 さらにはウェサンの戦い(combat d'Ouessant)でジョゼフ=フィリップが戦勝記念に持ち帰った五十ばかしの小銃ムスクトンが、町に寄贈されていた。先述したようにフォルチエ神父に無料で宿を貸していた町としては、このマスケット銃の扱いにあぐねて神父の家(la maison collégiale)の寝室に預けたというわけであった。【※ジョゼフ=フィリップ。上記ルイ=フィリップ二世のこと。1778年のウェサンの海戦にて、当時シャルトル公だったルイ=フィリップは、司令官の命令を聞き逃し、退却するイギリス艦隊をみすみす逃してしまうというミスを犯した。必死で弁明したものの容れられず】

 これこそがフォルチエという名の龍が守りアンジュ・ピトゥという名のイアーソンが狙っている財宝であった。

 この城館の小さな武器庫は、労せず武器を持ちたいと願う者にとってはよく知られたところとなっていた。

 だが眠らぬ龍たる神父には、このヘスペリデスの黄金の林檎を、如何なイアーソンにも易々と明け渡すつもりはないようだった。

 そういうわけで、ピトゥの話に戻ろう。

 ピトゥは愛想良くフォルチエ神父に挨拶しながら、咳払いをした。放心したり没頭したりしている人間の注意を引くように。

 フォルチエ神父が新聞から顔を上げた。

「ほう、ピトゥか」

「お役に立てることがあれば仰って下さい」ピトゥは恭しく応じた。

 神父は新聞を折り畳んだ。より正確に言えば二つ折りの書類入れのように新聞を閉じた。古き良きこの当時にはまだ新聞は冊子の形であったのだ。

 神父は閉じた新聞をベルトに通した。九尾鞭とは反対側だ。

「そうか。だが生憎だな」神父はからかうように言った。「役には立てまいよ」

「先生!(l'abbé !)」【※この行と次の行は、底本・初出にはなし】

「聞こえぬか、語形間違い(barbarismes)の名人よ?」

「先生!」

「聞こえぬか、偽善者殿?」

「先生!」

「聞こえぬか、革命家殿?」

「ちゃんと聞こえてますとも。話を始めてもいないのに怒り出して。そういうのは、拙い出だしなんじゃないですか」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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