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 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』65-2

 そこでピトゥは新たな鉱脈を掘ることにして、説得して手に入れようと考えていた武器を、計略か武力(par la ruse ou par la force)を用いて手に入れようと決めた。

 まず一つの方法が思い浮かんだ。

 計略の方だ。

 神父の収蔵品庫に忍び込み、保管庫(arsenal)の武器をこっそり頂戴するか運び出すか(dérober ou enlever)出来るだろう。

 仲間がいればピトゥのやることは徴集(déménagement)だが、一人でやれば泥棒(vol)だ。

 泥棒! 正直者のピトゥにとって耳に不快な響きの言葉だった。

 徴集と雖もまだフランスに大勢いる旧習に染まった者たちからは武装した強盗だの泥棒だの言われることは間違いない。

 こういったことを考え合わせた結果、ピトゥは前述した二つの手段を前に尻込みしてしまった。

 とは言え自尊心が先走っていたし、その自尊心を傷つけずに事態を切り抜けるためには誰にも助けを求めるわけにはいかない。

 ピトゥは改めて手だてを考えた。新しい方策を見つけるため、感心するほど頭を振り絞った。

 遂にピトゥはアルキメデスのように「エウレカ!」と叫んだ。要はフランス語で言えば「見つけた」という意味になる。

 果たしてピトゥが智性という武器庫の中で見つけた手だてがこちらである。

 ラファイエットはフランス国民衛兵の総司令官である。

 アラモンはフランスである。

 アラモンには国民衛兵がある。

 従ってラファイエットはアラモン国民衛兵の総司令官である。

 ならばラファイエットはアラモンの義勇兵に武器がないことをよしとしないであろう。ほかの地域では既に武装済みか武装の準備に入っているのだから。

 ラファイエットと接触するには――ジルベールと接触せねばならず、ジルベールと接触するには――ビヨと接触しなくては。

 ピトゥはビヨに手紙を書いた。

 ビヨは字が読めないので、ジルベールが読むことになる。つまり二人目の仲介者までは接触できるだろう。

 ここまで考えるとピトゥは夜を待ってから人目を避けてアラモンに戻り、ペンを取った。

 だがこれだけ人目に触れぬよう用心して戻ったというのに、クロード・テリエとデジーレ・マニケには見られていた。

 二人が戸を叩いた時、ピトゥは手紙を書き終えて大きな白い封筒にたっぷりと封蝋をつけて封をしたところだった。

 ピトゥは口唇に指を当て、反対の手で封をした手紙を指さした。

 こうした箝口令に感銘を受けたクロード・テリエとデジーレ・マニケは、何も言わず口唇に指を当て手紙に目を注ぐと人目に触れぬよう立ち去った。【※二段落前の「二人が戸を叩いた時…」からこの段落の前半「…デジーレ・マニケは」までは底本・初出にはなく、後の版で追加されている】

 ピトゥは政治の海の真っ直中で藻掻いていた。

 ところで以下にお見せするのが、ピトゥが白い封筒に入れて閉じ、クロードとデジーレに感銘を与えた手紙である。

 

『ビヨさんへ

 革命の大義は僕たちの故郷でも日に日に広がっています。貴族は立場を弱め、愛国者は前に進んでいます。

 アラモンの村民は国民衛兵に入りました。

 だけど武器がありません。

 武器を入手する方法が一つあります。大量の武器を所有している人たちがいますから、その武器を公務に借用できれば、国庫の負担を減らすことが出来るのです。

 ラファイエット将軍さえ構わなければ、違法に所有してあるそうした武器を兵士の数に応じて自由に使えるように命令を出していただきたいのです。少なくとも三十挺の銃をアラモンの武器庫に用意する役目は及ばずながら僕が引き受けます。

 それが貴族や国民の敵が企てている反革命的な堤防に対抗する唯一の手段なのです。

 あなたの同志にして忠実なる僕、アンジュ・ピトゥ』

 

 訴えを書き終えたところで、農場の使用人や家族の話を忘れていることに気づいた。

 ブルトゥスのように無智を装うにしても、やり過ぎた。一方でビヨにカトリーヌのことをあれこれ伝えたならば、嘘をつくことになるか父親の心を引き裂くことになりかねないし、ピトゥの魂にある傷口を開いて血を流してしまうことになる。

 ピトゥは溜息を飲み込んで追伸を書き足した。

 

『追伸。ビヨおばさんもカトリーヌさんも使用人のみんなも元気でやっていて、ビヨさんのことを懐かしんでいます』

 

 これで自分にもほかの誰にも迷惑を掛けなくともよい。

 ピトゥは秘密を共有する二人にパリ宛ての封筒を見せると、前述したように一言だけ言うに留めた。

「これです」

 それからピトゥはポストに手紙を投函しに行った。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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