第十一章 主人と小間使い
部屋に戻ったニコルが落ち着いていたのは、何も見せかけではない。持てる手管をすべて披露し、確かな手の内をすべて曝したところで、際どいところまで悪ぶって見せるはったりの数などたかが知れている。あるのは歪んで生まれた想像力と、悪書で身についた不道徳心であった。この心根と想像力が二つながらに燃える思いに火をつけたが、決して心の晴れていたわけではない。強い自惚れも時には涙を止められようが、力ずくで押しやった涙も心に舞い戻り、溶けた鉛のように蝕んだ。
顔に現れたのはただ一つ、ニコルにとってはひどく切実なものであった。即ち、満面の冷笑をもって、ジルベールの罵倒に答えたのだ。その笑みを見れば心の傷の深さが窺い知れよう! 確かにニコルは無徳、無主義の娘である。だが敗北から学んだことも幾つかあった。身を委ねることとはつまり、すべて委ねた贈り物を捧げることなのだと信じていた。冷淡、傲岸なジルベールを見て目が覚めた。たった今、過ちの報いを荒々しく受け、罰として激しい苦痛を感じたばかりなのだ。だがその身に鞭打ち立ち上がり、心に誓った。倍返しとは言わぬ、せめて受けた苦痛のわずかなりとも、この借りは返してくれよう。
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