翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

「ジョゼフ・バルサモ」011-3 アレクサンドル・デュマ

「あたし、結婚するつもりでした」

「え?……そんなこと考えてたの? まだ十七でしょう?」

「お嬢様はまだ十六でございます」

「それが?」

「それが!? お嬢様はまだ十六ですけど、ご結婚を夢見たりなさらないんですか?」

「いったい何が言いたいの?」

 ニコルは口を開いて罵声を浴びせようとしたが、アンドレが議論を切り上げるだろうことはよくわかっていたし、まだ殆ど話は進んでいないのだ。そこで作戦を変更した。

「ええとですね、あたしにはお嬢様が何を考えているのかはわかりません。ただの田舎娘ですから、いつも自然なんです」

「おかしな言葉ね」

「どこがです? 好きになったり好かれたりするのが不自然ですか?」

「それならわかるわ。それで?」

「好きな人がいるんです」

「その人もお前のこと好きなの?」

「そのはずです」

 疑いが大きくない以上、こうした場合には肯定しておくに限ると思い、ニコルは言い直した。

「というか、そうなんです」

「わかったわ。タヴェルネでそんなことしてたのね」

「将来のことを考えなくてはなりません。お嬢様は貴族でらっしゃいますし、お父様の財産もおありになるかと存じます。あたしは二親ともいませんし、今のところ無一文なんです」

 話を聞いてみればしごく単純なことに思えたので、ニコルの口調に棘が感じられたことも徐々に忘れてしまい、持って生まれた優しさが甦って来た。

「それで、相手は誰なの?」

「お嬢様もご存じの人ですよ」と、ニコルは美しい双眸でアンドレの瞳を睨みつけた。

「わたくしが?」

「間違いなく」

「誰かしら? 焦らさないで」

「お嬢様のご機嫌を損ねないかと思いまして」

「わたくしの?」

「ええ」

「ということは素性の良くない人なのかしら?」

「そういうわけでは」

「だったら思い切って仰い。よく働く使用人のことを知りたいと思うのは主人の務めです。そしてお前はよく働いてくれてるわ」

「ありがたいお言葉です」

「だったら早く仰い。それから服の紐を留めて頂戴」

 ニコルはここぞとばかりに心を凝らした。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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