翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『ジョゼフ・バルサモ』23-4

「作者が一人しかいないのであれば、バスチーユに放り込む必要もございません。これだけの仕事を一人でこなしていては、力つきるのも時間の問題でしょうから」

「随分とお口がお上手じゃないこと?」

「敵ならこんなことは言いますまい」

「かもね。その話はいいわ。仲良くしましょ、ね、これでいいわ。だけどまだ問題が残ってるの」

「何でしょうか?」

「あなたがショワズール家のお友だちってこと」

「マダム、ショワズール閣下は宰相です。閣下の命令には従わなければ」

「ふうん。だったら、ショワズール閣下があたしをいじめなさいだとか、嫌がらせしなさいだとか、悲しみのあまり死なせてしまいなさいだとかお命じになったとしたら、あたしがいじめられり嫌がらせされたり死なせたりされるのを黙って放っておくってことね? どうもご親切に」

「説明いたしましょう」と言ってサルティーヌは勝手に腰を下ろしたが、咎められることはなかった。なにせ自他共に認めるフランス一の事情通。「私は三日前に何をしたでしょうか?」

「教えてくれたわね。伝令がシャントルー(Chanteloup)を発ち、王太子妃のお着きを急がせたって」

「それが敵からの情報だと仰いますか?」

「でもそんなことより、あたしが謁見式(présentation)に威信を賭けてるのはご存じでしょ。そのことで何かしてくれた?」

「出来る限りのことはいたしました」

「サルティーヌさん、正直に仰いな」

「何を言われますか!……宿屋の奥で、それもほんの二時間前にお会いしていたのはどなたでしたでしょうか? 奥さまはジャン子爵に、どこか私の知らない場所に向かうよう命じていませんでしたか? いやむしろ、私の知っている場所と言いかえましょうか」

「あら! 義兄《あに》のことは放っておく方がよくなくて?」デュ・バリー夫人がころころと笑った。「何てったってフランス王家の親戚なんですから」

「そうは仰いますが、それも仕事でございます」

「三日前ならそれでもいいわ。一昨日もね。でも昨日は何をしてくれたの?」

「昨日、でございますか?」

「あら、随分と考えてらっしゃるわね……昨日は別の方のために働いてらっしゃったでしょ」

「あなたの仰ることはさっぱりわかりませんよ」

「自分の言っていることくらいわかっているわ。さあ総監、昨日は何をしていて?」

「朝でしょうか、夜でしょうか?」

「まずは朝から」

「朝はいつものように仕事をしておりました」

「働いていたのは何時まで?」

「十時までです」

「その後は……?」

「その後、リヨンの友人を夕食に誘いました。こっそりパリに来ると言っていたので、従僕を外に待たせておいたんです」

「夕食後は?」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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