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『ジョゼフ・バルサモ』第27章-1 「マダム・ルイーズ・ド・フランス」 アレクサンドル・デュマ

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

 国王の長女【?】はルブランの大広間【=鏡の間?】で父を待っていた。そこはルイ十四世が一六八三年に、共和国の認可【?】を得るため訪れていたジェノヴァ総督と四議員を迎えた場所であった。

 この部屋の端、王が入室するのとは反対側に、二、三人の侍女が悲嘆に暮れたような顔をして控えていた。

 ルイ十五世が到着した頃には、人々が玄関に集まり始めていた。それというのもその朝に王女が決意を固めたという報せが、宮廷中に広まり始めていたのだ。

 マダム・ルイーズ・ド・フランスは、堂々たる体躯に王家の美しさを備えた王女であったが、人知れぬ悲しみからか、時折、真っさらな額に皺を寄せることもあった。マダム・ルイーズ・ド・フランスは、その何処までも謹厳な振舞から、宮廷中の尊敬を集めていた。国家権力に敬意を払うことなど、この五十年のフランスでは、下心があるか恐れを抱いてでもいない限り見られなかったことだ。

 それだけではない。主人たちが――専制君主たち、とはまだ声高に叫ばれてはいなかったが――国民の多くから愛想を尽かされていた当時にあって、王女は国民から愛されていた。謹厳ではあるけれど、刺々しくはなかった。はっきり話題に上ったこともないのに、誰からも優しい人だと思われていた。日々の善行からもそれがわかった。優しさなど見せず醜聞に励んでいるほかの宮廷人たちとは大違いだった。

 ルイ十五世はこの娘を恐れていた。一目置いているという一点において。時には誇りに思うことさえあった。要するに、憎まれ口や軽口を叩けるほどいつくしんでいるのはこの娘だけだった。ほかの三人の娘、つまりアデライード、ヴィクトワール、ソフィーのことは、「ぼろ」「ぞうきん」「からす」と呼んでいたのに、ルイーズ・ド・フランスのことは「マダム」と呼んでいた。

 サックス元帥がチュレンヌやコンデ公の魂を墓に携え、マリ・レクザンスカがマリア=テレジアの統率力を墓まで道連れにして以来、玉座を取り巻く何もかもがこぢんまりとみすぼらしくなってしまったという時に、マダム・ルイーズ一人はまこと王族的な、言いかえるなら英雄的とも言える精神を保ち、フランス王国の王冠に対する誇りを失っていなかった。もはや本物の真珠は王女一人、後はメッキや石ころだらけであった。

 だからといってルイ十五世がこの王女を愛している、と言っている訳ではない。ご存じの通りルイ十五世が愛しているのは自分だけであった。我々に言えることは、ほかの人間よりはお気に入りだった、ということだけである。

 国王が部屋に入ってみると、王女は一人部屋の真ん中で、血玉石と青金石で象眼された卓子にもたれていた。

 黒衣を纏い、美しい髪には髪粉もつけず二枚重ねのレースをかぶっていた。顔にはいつもほどの厳しさは見られず、むしろ悲しみが浮かんでいるようだった。何も見てはいない。時折、ヨーロッパの王たちの肖像画に侘びしげに目を走らせるだけだった。無論その筆頭にはフランス歴代の王たちが輝いている。

 黒衣は王女の普段着であった。王妃たちが家庭的だった時代と同じく、この時代の衣服にもまだ深いポケットは現れていない。マダム・ルイーズもその例に洩れず、整理箱や衣装棚の鍵を金の輪に束ねて腰【ベルト?】に提げていた。

 王はひどく考え込んでいた。この接見の結果を知ろうと、誰もが息を殺し、なかんづく誰もが目を注いで見守っているのを痛いほどに理解していたのだ。だがこの部屋(回廊?)は大変に長かったため、両端に陣取った観客たちも俳優たちに遠慮することが出来た。見ることは観客の権利であったが、聞かぬことは義務であった。

 王女が一歩か二歩前に進んで王の手を取り、恭しく口づけした。

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コメント

なんか4万もらって、おま☆こハメハメしてきたww

にゅるにゅる絡みついてきて、すんげー気持ちよかったよw
http://anusu.net/f12/1ufs81u/
【2009/07/04 05:01】 URL | サンボ #8b5rtD7M[ 編集]
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