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 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『ジョゼフ・バルサモ』 104 その二(最後まで)

アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』 翻訳中 → 初めから読む

第百四章 報告会(後半)

「十年前から憎しみと欲望をこの計画と結びつけ、計画を実行し、数か月で完了させた。どんな手段を使ったのかは話しても詮無いことだ。俺が持っている秘密の力の一つであり、永遠に人の目から隠しておき、結果以外は明らかにしない方が、力は効果的に使えるからな。俺はショワズールを失脚させ、追放し、その後ろに後悔と落胆と嘆きと怒りの尻尾を長々とくっつけてやった。

「そして今、努力は実を結んだ。フランス中がショワズールを必要として、復帰を求めて立ち上がった。神が父親を召された時に、遺児が天を仰ぐように。

「高等法院は唯一の手札を切った。仕事の放棄だ。こうして機能は停止した。健康的な身体の中で、最善に保っておくべき重要な器官が麻痺しては、それは死を意味する。高等法院は社会という身体の一部だ。胃が人間の身体の一部であるようにな。高等法院が機能していない以上は、国の内臓たる国民も働きようがない。必然的に給料が支払われない。するとかね、つまり血が足りなくなる。

「そうなれば立ち上がろうという者も出てくるだろう。だが誰が国民に応戦するというのだ? 軍隊ではない。軍隊は国民の娘子、農夫のパンを食い、葡萄園の酒を飲んでいるのだから。残っているのは親衛隊、特権部隊、近衛兵、スイス人衛兵、マスケット銃兵、わずか五、六千人に過ぎない! 国民が巨人のように立ち上がろうという時に、こんな小人の寄せ集めに何が出来るというのだ?」

「そうだ、立ち上がろうではないか!」幾つもの声が唱和する。

「そうです、行動を起こすべきだ!」マラーも叫ぶ。

「若者よ、まだ話が残っている」バルサモは素っ気なかった。

「これは大衆の叛乱であり弱者の叛乱であると言えども、孤立した強者に数で勝る。結束力も統率力も経験もない者たちはあっさりと影響されて、怖いくらい簡単に勝利をものにすることも出来るだろう。だが俺は考えた。観察した――庶民的な服に身を包み、しつこさとがさつさを借用して、民衆のただ中に潜り込んだ。間近で観察できたおかげで、庶民のように振る舞うことも出来た。今では庶民のことならすっかりわかっている。もう見誤ることなど考えられん。民衆は強いが無知だ。短気だが根に持たない。一言で言えば、俺が望むような叛乱を起こすにはまだ向いていない。前例と現実を重ねて物事を見るだけの教養に欠けている。経験で培われた記憶に欠けているのだ。

「ドイツの祭りで見た勇敢な若者たちに似ている。マストの天辺によじ登り、代官がくくりつけておいたハムや銀杯を取ろうと先を争うのだ。血気に任せて走り出し、驚くほど素早く登り始めていた。だが天辺にたどり着いていざ賞品をつかもうと腕を伸ばす時になると、力が抜けて、野次が飛び交う中を下まで落ちてしまった。

「一回目に起こったことは、俺が話した通りだ。二回目になると、若者たちは体力と息継ぎを按配し始めた。だが時間を掛け過ぎると、慌ててやった時と同じように、もたもたしすぎて失敗してしまった。ついに三回目、早くもなく遅くもない加減を見つけて、今度こそやり遂げることに成功した。それが俺の考えている計画だ。目標を目指して絶えることなく挑戦を重ねれば、いつの日か必ずや成功を手にすることが出来る」

 バルサモが話すのをやめて反応を確かめてみると、聞いていた者たちの間には若者や青二才に特有の熱気が渦巻いていた。

「話してみるんだ」バルサモは、誰よりも昂奮しているマラーに言った。

「簡単に済ませましょう。民衆に何かさせておけば、絶望しない限りはおとなしくしているでしょう。何かさせるというのは、ジュネーヴ市民、ルソー氏の考えですね。大詩人ではありますが、おつむの弱い臆病者、プラトンが共和国から追い出すにも及ばない市民です。いつだって『待て!』ですか。都市からの解放あり、マイヨタンの暴動あり、七世紀が経っても待ち続けているではありませんか! 待っている間に何世代の人間が死んだか数えていただきたい。いっそ今後の合い言葉も『待て!』というお題目に変えたらどうですか。ルソー氏が話しているのは、大世紀におこなわれたような抵抗のことに過ぎません、侯爵夫人のそばや国王のお膝元で、モリエールが喜劇で、ボワローが諷刺詩で、ラ・フォンテーヌが寓話を用いておこなったような抵抗のことなんです。

「そんな惨めで弱々しい抵抗では、人類の大義は一歩も前に進まなかったことはご承知の通りです。子供たちはわけもわからぬまま蒙昧な理屈を繰り返し唱え、唱えるそばから眠りこけている始末です。あなたがたによれば、ラブレーも政治をおこなっていましたが、その政治には笑いはあっても矯正力はありませんでした。この三百年の間、一つでも悪習が改められたでしょうか? 詩人や詭弁家が溢れ返っただけです! 結果を、行動を! 我々は三百年前からフランスを医者の手に委ねて来ました。今こそ外科医がメスと鋸を手に手術に取りかかる時期なのです。社会は壊疽を起こしています。道具を手に壊疽を止めようではありませんか。或いは食卓を離れて、奴隷に薔薇の葉を吹き払わせた柔らかい絨毯に寝転ぶのを期待していてもおかしくはないでしょう。胃が満たされれば脳に心地よい蒸気が伝わり、気も楽になり幸せな気分になれるからです。ですが飢えや不幸や絶望に打ちひしがれていては、詩句や警句や寓話で満足することも気晴らしすることも出来はしません。苦しみの叫びをあげているのが聞こえませんか。この悲鳴が聞こえない人間は聾であり、悲鳴に答えない人間はろくでなしです。叛乱は鎮火されるとしても、千年にわたる教えや三世紀にわたるお手本で、智性を照らすことでしょう。王制を転覆することは出来なくとも、啓蒙の光で国王を照らすことは出来るでしょう。それで充分ではありませんか!」

 おもねるような呟きがあがった。

「敵がいるのは何処でしょうか?」マラーは続けた。「我々の頭上です。宮殿の門を守り、玉座に上る階段を固めています。玉座の上に戴いたパラス像を大切に守っていますが、トロヤ人でもそこまで気を遣ったり畏怖を覚えたりはしなかったでしょう。このパラス像こそ、敵に全能の力と富と驕りを、即ち王権を授けたものだからです。この王権を守っている者たちを一掃しない限り、王権に近づくことは出来ません。将軍を守っている軍隊を倒さない限り、将軍に近づくことは出来ないのです。山ほどの軍隊が破れて来たことは、歴史が証明しています。ダレイオスからジョン王まで、レグルスからデュ・ゲクランに至るまで、数多くの将軍が地にまみれて来たのです。

「護衛を倒し、偶像までたどり着こうではありませんか。まずは歩哨に斬りつけ、それから大将に斬りつけようではありませんか。廷臣、重臣、貴族たちに第一の刃を。国王にとどめの一撃を。特権階級の頭数を勘定していただきたい。たった二十万人です。鋭い槍を手に、フランスと名づけられた美しい庭を闊歩し、タルクィニウスがラティウムの芥子を払ったように二十万人の頭を薙ぎ払えば、それですべては終わるでしょう。そうなれば残された二つの勢力、つまり民衆と王権の一騎打ちです。後は王権という象徴が民衆という巨人と戦おうとするのを観戦していればいい。小人が巨像と倒そうとすれば、足許から取りかかるしかありません。木樵は樫の巨木を倒す時、根元から取りかかるのです。木樵たちよ! 斧を持ち、樫の木を根元から切り倒そうではありませんか、偉そうな顔をした老いた樫の木をすぐにでも砂地にまみれさせようではありませんか」

「そして倒れた木に小人のように押しつぶされるのか、愚か者どもめ!」バルサモが雷鳴の如き声を出した。「詩人に厳しい割りには、詩人よりも詩人らしく生き生きとした譬えを使うじゃないか! いいか、同志よ!」マラーに向かってなおも言葉を続けた。「そんな言葉は屋根裏ででっちあげた作り話から拾い上げた寝言に過ぎん」

 マラーは真っ赤になった。

「革命とはそういうものだと思っているのか? 俺は二百もの革命を見て来たから、教えてやろう。古代エジプトの革命もこの目で見たし、アッシリアの革命も見た、ギリシアの革命も、ローマの革命も、後期ローマ帝国の革命も見て来た。中世の革命も幾つも見て来た。東側の国民は西を、西側は東を、互いの言うことには耳も貸さずに殺し合っていた。羊飼いの王たちの時代から我々の時代に至るまでに、無数の革命があったに違いない。さっき奴隷状態に不満をぶつけていたな。だったら革命は何の役にも立たんぞ。何故だかわかるか? 革命を起こした者たちが揃って同じ眩暈を起こしていたからだ。早まったのだ。

「革命を司る神が焦っていると思うのか?

「『樫を切り倒せ!』だと? その後のことなど考えてはいまい? 切り倒すのは一秒で済むが、地面に倒れた樫の木を端から端まで馬で駆けても三十秒かかるんだぞ。それに切り倒した人間には、倒れる木を避ける間もない。巨大な枝の下敷きになって怪我でもするか死んでしまうことだろう。それが望みなのか? そんなことは許さん。俺は神のように、二十歳にも三十歳にも四十歳にもなれる。俺は神のように永遠の存在だ。俺は神のように我慢強い。自分の運命も、お前たちの運命も、世界の運命をも、この手につかんでいる。俺が開こうとしない限りは、どれほどの真理が轟こうともこの手を開かせることは出来ん。そうだ、この手に握っているのは雷だ。神が全能の右手に擁しているように、これからも俺は手放さぬ。

「諸君、気高すぎるのはもうやめだ、地面に降ろそうではないか。

「諸君、一言断言しておく。時はまだ至らぬ。今上陛下は人々から崇められていた大王ルイ十四世の最後のきらめきだ。光が褪せかけているとはいえ、諸君の恨みの炎を蹴散らすだけの輝きをまだ充分に持っている。

「この男は王であり、王として死ぬだろう。王家は傲慢だが一系だ。顔や仕種や声から、その生まれを容易く読み取れる。この男はこれからも王でいることだろう。我々が立ち上がれば、チャールズ一世に起こったことがこの男にも起こるだろう。死刑執行人たちは王の前に額ずき、不幸な廷臣たちはカペル卿のように、主君の首を落とした斧に口づけすることだろう。

「知っての通りイギリスは早まった。チャールズ一世が死刑台の上で死んだのは間違いない。だが息子のチャールズ二世は玉座で死んだ。

「しばし待て、待つのだ、諸君。いつか絶好の機会が訪れる。

「百合を握りつぶしたいのはわかる。『百合を踏みつぶせLilia pedibus destrue』が我々の合い言葉だからな。だが一本の根を残して、聖ルイが咲かせた花に、再び返り咲くという希望を与えるわけにはいかない。王権を打ち壊したいのだろう? 王権を永久に打ち壊すためには、名実共に弱らせなくてはなるまい。王権を打ち壊したいのだろう? 聖域ではなくなるのを待てばいい。神殿ではなく売店になるのを待てばいい。そうすれば不可侵な王権、言いかえるなら数世紀にわたり神と国民によって許されて来た正当な譲位権は消え去り、永久に消滅するのだ! いいか! 我々つまらない人間と、あの神々に近い奴らとの間には、壊すことも越えることも出来ない壁があった。民衆が敢えて越えようとはして来なかった境界が、灯台のように照らす『正当性』という名の境界線があった。今日までは沈みかけの王権を守って来たが、その言葉も謎めいた運命の一吹きで消し飛んでしまうだろう。

「帝国の血を混ぜて王家を長らえさせようと、王太子妃がフランスに呼ばれ、一年前にフランス王座の後継者と婚姻を結んだが……もっと近くに来るんだ、諸君。俺の言葉をほかの奴らには聞かせたくない」

「いったい?」六人の代表たちが怪訝な顔をした。

「いいか、王太子妃は今も生娘のままなのだ!」

 世界中の王が逃げ出しそうな不吉な呟きには、憎々しげな喜びとしてやったりの優越感も滲んでいた。触れ合わんばかりに六つの頭を寄せ合わせていた小さな輪から、瘴気のように呟きが洩れ出す間も、六人は壇上から見下ろすバルサモの頭を見上げていた。

「こうなると二つの可能性が生じる。どちらも我々の利害には同じくらい好都合だ。

「一つは、王太子妃がこのまま妊娠しないことだ。そうすれば王家は絶える。そうすれば将来的に我々は戦いも困難も障碍も避けることが出来る。この王家は死神に目をつけられているからな、そういうことが起こるに違いない。三人の王が跡を継ぐたびに、フランスには同じことが起こって来たんだ。美男王フィリップの息子たちがそうだった。喧嘩王ルイ、長身王フィリップ、シャルル四世は三人が三人とも王位に就いた後で、跡継ぎを残さずに死んだ。アンリ二世の三王子にも同じことが起こった。フランソワ二世、シャルル九世、アンリ三世は、三人とも王位に就いた後に跡継ぎを残さず死んだ。王太子、ド・プロヴァンス伯、ダルトワ伯の三人も、同じように三人とも子供を残さず死ぬだろう。それが運命というものだ。

「カペー王家最後の王シャルル四世の後には、先王たちの傍系ヴァロワ家のフィリップ六世が迎えられた。ヴァロワ王家最後の王アンリ三世の後には、先の王家の傍系ブルボン家のアンリ四世が迎えられた。同じように、直系の最後の王として運命の書に名前を刻まれたダルトワ伯の後には、王家や継承順に関わらず、クロムウェルやオレンジ公ウィリアムのような余所者が迎えられることだろう。

「これが一つ目の可能性だ。

「二つ目は、王太子妃が妊娠した場合だ。この場合、俺たちを落とし穴に嵌めるつもりで、敵さん方は自ら穴に飛び込む羽目になる。王太子妃が妊娠して母親になれば、これでフランスの王権は盤石だと宮廷中が大喜びするだろうが、どっこい喜ぶのは我々の方だ。こっちが重大な秘密を手にしている以上、どんな威信も権力も努力も何の役にも立たん。こんな罪深い秘密の前では、未来の王妃が妊娠したところで不幸が待ち受けているだけだ。生まれた子供を玉座に就けようとしても、幾らでも正当性を問うことが出来る。妊娠しようとも、幾らでも不義を訴えられる。だから天から幸福を授かったように見えてもメッキに過ぎず、不妊こそ神からの贈り物だったのかもしれん。俺が賛成票を投じないのはこういう理由があるからだ。俺が待つのはこういう理由だ。こういう理由があるからこそ、今国民感情を掻き立てても意味がないと考え、来たるべき時期に効果的に利用しようと考えているのだ。

「これで今年やるべきことがわかったな。基点は着々と広がっている。成功するには目と脳を持った人間の才能と勇気が必要なのだと心してくれ。さらには腕に該当する根気と努力が。さらには、心に代わる信頼と献身が必要なのだ。

「なかでも服従は絶対なのだということを肝に銘じてくれ。規則に従わなくてはならない時が来れば、代表自ら結社の規則に身を捧げるつもりだ。

「では最愛の同志たちよ、吉報であれ凶報であれ、ほかに何もなければ、これでお開きにしたいと思う。

「今晩は偉大な著述家が来てくれた。同志の一人が血気にはやって小心な著述家を怯えさせなければ、我々の一員となってくれていたことだろう。とにかく、この偉大な著述家は我々よりも正しかった。これだけの同志がいながら、部外者が正しかったというのは、実に嘆かわしい。誰一人として規則をよく知りもしなければ目的をまったくわかってもいないのだ。

「ルソーは自著に書かれた詭弁で、我ら結社の真理に勝利を収めた。あれこそが根っからの病巣にほかならない。説得によって矯正できそうにもなければ、やっとこと火でくり抜いているところだ。同志の一人が自尊心をふくらませてしまったのは残念なことだった。議論で我々をやり込めたわけだが、こんなことは二度と考えようとしないものと信じている。さもなければ懲罰という手段に頼らなくてはなるまい。

「諸君、今こそ仁愛と説伏によって信仰を広めるのだ。さり気なく耳打ちするだけでよい、無理強いはするな。言うことを聞かないからといって、尋問官が楔を使って拷問するように、木槌や斧を使って心に入り込んではならん。正しいと思われなくては信頼はされぬし、ほかの何よりも正しいと思われなくては自分たちが正しいとは思ってもらえないことを忘れるな。覚えておけよ、知識と技術と信仰がなければ、正しいも正しくないもない。要するに、人を率いて国を支配するために神から特別な印をつけられた者たちとは違うのだ。

「諸君、会議は以上だ」

 この言葉と共にバルサモは帽子をかぶって外套を纏った。

 会員たちも順番に、疑いが起きないように、一人ずつ無言で、その場を後にした。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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