翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』01-4

「先生!」ピトゥはどんなことがあっても教師に見限られたくないようだった。「先生、作文が駄目だからって、見捨てないで下さい」

「ああ!」この懇願を聞いて、神父の喉から叫びが洩れた。神父が階段の初めの四段を降りる間に、アンジュ・ピトゥも最後の四段を降り切り、中庭に足を踏み出していた。「作文が出来ないのに考えは組み立てられるし、被制辞の名格がわからないのに堪忍袋の緒は見積もれるのですか!」

「先生はとっても親切にして下さいました。試験の時に司教猊下(司教閣下?)にひとこと言ってくれるだけでいいんです」

「良心を欺けと?」

「それが善行のためなら主もお許し下さいます」

「論外だ!」

「でもわからないじゃありませんか? 試験官はきっと乳母子のセバスチャン・ジルベールの時ほど厳しくしたりはしないと思いますよ。去年パリの奨学金を受けたじゃないですか。だけど文法を間違えていたじゃないですか! 向こうは十三歳だったし、ボクは十七歳だったという違いはありますけれど」

「ああ、これはまた愚かなことだ」神父が残りの階段を降りて姿を見せた。手には鞭を持っている。ピトゥが慎重に距離を測った。神父は腕を組んで怒りの目を向けた。「だから愚かだと言ったんです。これが弁論の授業の報いですか! 鳥頭! 『Noti minora, loqui majora volens(話したいことがある時には口を閉ざせ)』という格言を忘れたのですか。ジルベールが若かったからこそ、寛大だったのですよ。十八歳の愚者よりも十四歳の子供に寛大なのは当然でしょう」

「そうですね。それに、オノレ・ジルベールさんの息子だからですよね。ピスルー平野にある土地からだけで一万八千リーヴルの収入を得ている人の息子だからです」ピトゥは口惜しそうに答えた。

 フォルチエ神父はピトゥを見つめた。口唇を咬み、眉をひそめている。

「それほど馬鹿ではなかったか……」神父はしばし考え込んでから呻いた。「だがもっともらしいだけで何の説得力もない。『Species, non autem corpus.(本質ではなくうわべに過ぎぬ)』」

「ボクだって一万リーヴルの収入がある家の息子だったら!」この返答を耳にした神父が何か反応を示したような気がした。

「そうだね。だが現実には違う。ユウェナリス(Juvénal、Juvenalis。古代ローマの諷刺家)の本に出て来る愚か者のように、何も知らない人間だ。引用しよう」神父は十字を切った。「『Arcadius juvenis(アルカディアの若者)』。断言しよう、君は『Arcadius』という言葉の意味さえ知るまい?」

「そんなの。アルカディアの、って意味です」アンジュ・ピトゥは自信満々に答えた。

「それから?」

「それからって何がですか?」

「アルカディアは重馬(roussin)の故郷であり、我々が暮らしているように古代人が暮らしていた。『asinus』とは『stultus』の意味です」

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コメント

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【2012/12/08 09:26】 | #[ 編集]
なるほどですね(*^_^*)
【2012/12/11 01:15】 URL | タロット占い クロ戌 #1wIl0x2Y[ 編集]
素晴らしいですね
【2012/12/12 05:29】 URL | IT探偵 god #JalddpaA[ 編集]
マトリョーシカさま

 おはようございます。

 ただいま「アンジュ・ピトゥ」に取り組んでいるのですが、どうにも「ジョゼフ・バルサモ」のころのようなペースになかなか乗れずに四苦八苦している最中です。
 追い打ちをかけられるように、マトリョーシカさまのお話を読んで、自分が「シャルニー」の内容をけっこう忘れていることがわかって焦っております。記憶のなかではエピローグであの二人は清い友情のまま結ばれた気がしていたのですが、確かにタイトルはそのものずばりですね。。。

 ポルトスの場面はあそこは泣きますよね、。二巻の3分の1ということは、仮面夫婦だったアンドレとオリヴィエが心を通わせはじめていることはもう何となく描かれていましたっけ? アンドレはとことん不幸な人でしたけど、そこだけが救いでした。

 わたしが読んだ原動力は何といってもカリオストロでした。八百比丘尼や薬師寺天膳のような不老不死キャラが好きなので(笑)。「シャルニー」だとところどころでカリオストロがいい人っぽく描かれているのがちょっと不満でしたが。
【2012/12/15 08:44】 URL | 東 照 #-[ 編集]
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