翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 13-4

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 二月二十六日、三部会開催日の五日前の朝、ある名前が人々の間を行き交うことになる。

 それが裕福な職人の名前だったものだから、そこに呪詛の響きも加わった。

 その名もレヴェイヨン。フォーブール・サン=タントワーヌの壁紙工場長レヴェイヨンが、労働者の日給を十五スーに下げるべし、と言ったのだ。

 これは事実だ。

 さらには黒綬つまりサン=ミシェル勲章がレヴェイヨンに授与される予定だった。

 これは事実無根だ。

 暴動には事実無根な噂がつきものだ。さらにはこの噂によって人が集まり、暴動が大きくなり、ついには革命騒ぎを引き起こした。

 人々は人形を作ってそれをレヴェイヨンと名づけ、黒綬で飾ってレヴェイヨン家の門前で火をつけると、仕上げに市庁舎広場に行き、役人の見ている前で人形を燃やした。

 咎められなかったことで調子に乗った民衆は、今日はレヴェイヨンの人形を処刑したから明日には本人を処刑すると予告した。

 これは政府に対する型通りの挑戦状だった。

 政府は近衛兵三十人を派遣した。いやこの段階でも派遣したのは政府ではなく聯隊長のド・ビロン氏(M. de Biron)である。

 この三十人の近衛兵はただ騒乱を見つめるだけで、何の手出しも出来なかった。工場が掠奪され、窓から家具が投げ出され、壊され、燃やされるのを、見ているしかなかった。この混乱のさなか、金貨五百ルイが盗まれた。

 酒蔵の葡萄酒が飲み干され、葡萄酒がなくなると代わりに壁の塗料にまで手を出された。

 二十七日は終日このような乱行がおこなわれた。

 近衛中隊が派遣されて三十人の兵の応援に当たり、初めに空砲を、次いで実弾を発砲した。夕方頃になると、それにド・ブザンヴァル氏(M. de Besenval)のスイス衛兵隊が加わった。

 スイス衛兵は革命を冗談ごととは捉えない。

 薬包から弾丸を抜きはしなかった。無論腕前は確かだから、路上には盗っ人の一団が折り重なることになった。

 レヴェイヨンの机から盗っ人のポケットに移されていた五百ルイは、盗っ人のポケットからスイス衛兵のポケットに移された。

 ブザンヴァルがすべてをおこなった。言うなれば、すべてを独断でおこなったのである。

 国王は感謝もしなかったが非難もしなかった。

 否。感謝しないのが非難の印だ。

 高等法院が証人喚問をおこなった。

 国王がそれをやめさせた。

 国王は極めて優しいのだ!

 市民たちを焚きつけたのは何者だろうか? 誰にもわからない。

 夏の盛りに原因不明の火災が発生するのをご覧になったことはないだろうか?

 ドルレアン公が非難された。

 事実無根であったので非難は消えた。

スポンサーサイト

コメント

Page Top▲

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

Page Top▲

トラックバック

Page Top▲

PROFILE

東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 名前:東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
  • 本好きが高じて翻訳小説サイトを作る。
  • 翻訳が高じて仏和辞典Webサイトを作る。

  • ロングマール翻訳書房
  • RSS
  • 07 | 2017/08 | 09
    S M T W T F S
    - - 1 2 3 4 5
    6 7 8 9 10 11 12
    13 14 15 16 17 18 19
    20 21 22 23 24 25 26
    27 28 29 30 31 - -

    SEARCH

    RECENT ENTRIES

    CATEGORY

    RECENT TRACKBACKS

    RECENT COMMENTS

    ARCHIVES

  • 2017年08月 (3)
  • 2017年07月 (5)
  • 2017年06月 (3)
  • 2017年05月 (5)
  • 2017年04月 (4)
  • 2017年03月 (4)
  • 2017年02月 (4)
  • 2017年01月 (4)
  • 2016年12月 (5)
  • 2016年11月 (4)
  • 2016年10月 (5)
  • 2016年09月 (4)
  • 2016年08月 (4)
  • 2016年07月 (5)
  • 2016年06月 (4)
  • 2016年05月 (4)
  • 2016年04月 (5)
  • 2016年03月 (4)
  • 2016年02月 (4)
  • 2016年01月 (5)
  • 2015年12月 (4)
  • 2015年11月 (4)
  • 2015年10月 (5)
  • 2015年09月 (4)
  • 2015年08月 (5)
  • 2015年07月 (4)
  • 2015年06月 (4)
  • 2015年05月 (5)
  • 2015年04月 (4)
  • 2015年03月 (4)
  • 2015年02月 (4)
  • 2015年01月 (4)
  • 2014年12月 (4)
  • 2014年11月 (5)
  • 2014年10月 (4)
  • 2014年09月 (4)
  • 2014年08月 (5)
  • 2014年07月 (4)
  • 2014年06月 (4)
  • 2014年05月 (4)
  • 2014年04月 (4)
  • 2014年03月 (5)
  • 2014年02月 (4)
  • 2014年01月 (3)
  • 2013年12月 (4)
  • 2013年11月 (5)
  • 2013年10月 (5)
  • 2013年09月 (5)
  • 2013年08月 (4)
  • 2013年07月 (4)
  • 2013年06月 (5)
  • 2013年05月 (5)
  • 2013年04月 (4)
  • 2013年03月 (5)
  • 2013年02月 (4)
  • 2013年01月 (4)
  • 2012年12月 (5)
  • 2012年11月 (3)
  • 2012年10月 (4)
  • 2012年09月 (5)
  • 2012年08月 (4)
  • 2012年07月 (4)
  • 2012年06月 (5)
  • 2012年05月 (4)
  • 2012年04月 (4)
  • 2012年03月 (6)
  • 2012年02月 (4)
  • 2012年01月 (2)
  • 2011年12月 (4)
  • 2011年11月 (5)
  • 2011年10月 (6)
  • 2011年09月 (5)
  • 2011年08月 (5)
  • 2011年07月 (5)
  • 2011年06月 (4)
  • 2011年05月 (4)
  • 2011年04月 (5)
  • 2011年03月 (5)
  • 2011年02月 (7)
  • 2011年01月 (5)
  • 2010年12月 (5)
  • 2010年11月 (4)
  • 2010年10月 (5)
  • 2010年09月 (5)
  • 2010年08月 (4)
  • 2010年07月 (5)
  • 2010年06月 (4)
  • 2010年05月 (5)
  • 2010年04月 (5)
  • 2010年03月 (9)
  • 2010年02月 (5)
  • 2010年01月 (5)
  • 2009年12月 (5)
  • 2009年11月 (5)
  • 2009年10月 (5)
  • 2009年09月 (4)
  • 2009年08月 (5)
  • 2009年07月 (4)
  • 2009年06月 (4)
  • 2009年05月 (5)
  • 2009年04月 (4)
  • 2009年03月 (5)
  • 2009年02月 (3)
  • 2009年01月 (5)
  • 2008年12月 (4)
  • 2008年11月 (5)
  • 2008年10月 (4)
  • 2008年09月 (4)
  • 2008年08月 (3)
  • 2007年06月 (5)
  • 2007年05月 (3)
  • 2007年04月 (3)
  • 2007年02月 (4)
  • 2007年01月 (3)
  • 2006年12月 (1)
  • 2006年11月 (2)
  • 2006年10月 (1)
  • 2006年09月 (6)
  • 2006年08月 (13)
  • 2006年07月 (6)
  • 2006年06月 (10)
  • 2006年05月 (2)
  • 2006年04月 (4)
  • 2006年03月 (3)
  • 2006年02月 (11)
  • 2006年01月 (10)
  • 2005年12月 (14)
  • 2005年11月 (17)
  • 2005年10月 (3)
  • 2005年09月 (27)
  • 2005年08月 (3)
  • 2005年02月 (3)
  • 2005年01月 (8)
  • LINKS

    SEARCH

    SEARCH