翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 13-7

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 ルイ十四世の治世が終わってからというもの、政治犯を収容している監獄、それもバスチーユは、イエズス会と共にあった。

 重要人物として知られる囚人がいた。鉄仮面、ローザン、ラチュード。

 イエズス会士たちは懺悔聴聞僧であった。万全を期して囚人たちからの懺悔を聞いた。

 さらに万全を期して囚人たちは死後に別の名前を与えられて埋葬された。

 鉄仮面として知られる人物は、マルシャリー(Marchialy)の名で葬られた。

 鉄仮面は四十五年間獄中にいた。

 ローザンは十四年。

 ラチュードは三十五年。

 だが少なくとも鉄仮面とローザンは重罪を犯していた。

 鉄仮面は、実際にルイ十四世の弟だったかどうかは別にして、本人と見紛うほどにそっくりだった。

 国王にそっくりだとは無分別にもほどがある。

 ローザンはグランド・マドモワゼルと結婚しようとした。或いは結婚した。

 ルイ十三世の姪にしてアンリ四世の孫娘と結婚しようとは無分別にもほどがある。

 だがラチュードは何をしたというのか?

 国王の寵姫ポワソン嬢ポンパドゥール夫人に心を奪われた。

 手紙を書いたのである。

 貞淑なご婦人であれば書いた当人に送り返したであろうその手紙を、ド・ポンパドゥール夫人はド・サルチーヌ氏に送り返した。

 ラチュードは逮捕され、逃げ出して再び捕えられ、バスチーユとヴァンセンヌとビセートルで三十年を過ごした。

 斯様に、バスチーユが憎まれていたのは故なきことではないのである。

 人々にとってバスチーユは怪物同然だった。人を貪る巨龍タラスクやジェヴォーダンの獣のように憎んでいた。

 だから父がバスチーユに入れられたというセバスチャン・ジルベールの苦しみはよくわかる。

 だから強硬手段に訴えでもしなければジルベール医師を牢獄から出せないであろうこともよくわかる。

 だからビヨが「バスチーユへ!」と叫んだ時に群衆が熱狂したのもよくわかる。

 とは言え、兵士たちが言った通り、バスチーユを奪還しようなど狂気の沙汰だ。

 バスチーユには食糧もあり、駐屯兵も砲兵隊もいる。

 バスチーユには頭頂に十五ピエ、ふもとに四十ピエの壁があった。

 バスチーユにはド・ローネーという名の司令官(gouverneur)がいて、倉庫には三万リーヴルの火薬があった。それを使えば襲撃の際にバスチーユはもちろんフォーブール・サン=タントワーヌの大半を吹き飛ばすことが出来るだろう。

 
第14章に続く。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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