翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 18-2

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

は?」

「こっちさ。でも鍵が無え」

「何処にある?」

「奪われた」

「斧を貸してくれ」ビヨは労働者に声をかけた。

「やるよ。もう必要ない。バスチーユは陥落したんだ」

 ビヨは斧をつかんで階段に駆け込み、牢番の後を追った。

 牢番が扉の前で立ち止まった。

「ベルトディエール塔の三号室か?」

「ああ。ここだ」

「ここに入れられてるはジルベール医師という人か?」

「知らん」

「連れて来られたのはつい五、六日前だな?」

「知らん」

「わかった。俺が確かめる」

 ビヨは斧を扉にぶち込んだ。

 堅い楢の扉であったが、逞しい農夫の一撃を食らって破片が舞い飛んだ。

 すぐに独房内を覗けるだけの穴が出来た。

 ビヨは穴に目を押しつけ、中を覗いた。

 鉄格子のついた塔の窓越しに入り込む陽射しの中に、一人の男が立っていた。心持ち身体を反らし、寝台からもぎ取った横木を手に、防御の姿勢を取っている。

 入って来た人間をぶちのめそうとしているのは明らかだ。

 髭は伸び、顔は青ざめ、髪は刈り取られているが、ビヨにはわかった。ジルベール医師だ。

「先生! 先生! あなたですか?」

「誰だ?」

「ビヨです。味方です」

「ビヨなのか?」

「そうだよ! 本人だ! 俺たちもいるぞ!」斧の音を聞いて踊り場で立ち止まっていた男たちが声をあげる。

「俺たちとは?」

「バスチーユの勝者だよ! バスチーユは陥落した。あんたは自由なんだ!」

「バスチーユが陥落? 私が自由?」

 穴から手が伸び、扉が揺すられると、肘金と錠が外れそうになり、ビヨがゆるめていた扉の一部が音を立てて壊れ、ジルベールの手の中に残された。

「待って下さい」ビヨが声をかける。もう一度扉を揺すったり昂奮したりしては、ジルベールの力が尽きてしまうのではないか。

 ビヨはいっそう力を込めた。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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