アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む。
「俺は言ったんです。ジルベール先生がバスチーユに囚われているのなら、バスチーユを攻め落とそうじゃないかと。見ての通りバスチーユは陥落しました。でもまだ終わりじゃない」
「何があると?」
「小箱が盗まれたんです」
「預けておいた小箱かい?」
「そうです」
「誰に盗まれたんだ?」
「黒服の男たちです。パンフレットを差し押さえると言って家に押し入り、俺を捕まえて倉庫に閉じ込め、家中を探し回って小箱を見つけて持ち去ったんです」
「いつ?」
「昨日」
「奇遇だな、逮捕されたのと同じ日だ。ということは、僕を逮捕させたのも小箱を盗みに入らせたのも同じ人物の仕業だろう。逮捕させたのが誰だかわかれば、窃盗犯(泥棒の正体)もわかるはずだ。記録庫は何処だい?」ジルベール医師は牢番にたずねた。
「司令官の中庭です」[*1]
「では記録庫に行くぞ! みんな、記録庫だ!」
「失礼」牢番が声をかけた。「ご一緒してもいいですか。それが駄目なら、俺をみんなに紹介しておいて下さい。死にたくないんで」
「いいとも」
ジルベールが皆に顔を向けると、好奇に満ちた敬意に見つめられた。
「みんな、紹介しよう。この人は門の開け閉めをしていたけれど、囚人には優しかった。この人には手を出さないでくれないか」
「もちろんだ」至るところから声があがる。「恐れることも怖がることもない。来るといい」
「ありがとう。だが記録庫に行きたいのなら急いだ方がいい。紙が燃えているみたいだ」
「そりゃまずい! すぐに記録庫に行こう!」
ジルベールが司令官の中庭に駆け出すと、みんなも後に続き、その先頭には常にビヨとピトゥがいた。
第19章に続く。。。
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