翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 21-7

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「そういうことでしたらお気をつけなさい。あなたは政治的陰謀の玩具だったんです。カリオストロ伯爵の話をしたことはありませんでしたか?」

「あります」

「お知り合いですか?」

「友人でした。友人というよりも師、師というより救世主です」

「そうですか。投獄を命じたのはオーストリアか教皇庁でしょう。パンフレットをお書きになったのでしょう?」

「ええ、その通りです」

「それですよ。あなたの身の上に起こったささやかな仕返しのどれもが元をたどれば王妃を指し示しているのです。羅針盤コンパスの針が北を指し、鉄が磁石に向かうように。密議の結果あなたは尾けられ、最終的に王妃がシャルニー夫人に封印状への署名を命じて、疑惑の芽が摘まれたのでしょう。これで謎などなくなりました」

 ジルベールは反芻してみた。

 思い出した。ピスルー(Pisseleux。ヴィレル=コトレにある村)のビヨの家から盗まれた小箱には、王妃やオーストリアや教皇庁の欲しがるようなものは何も入っていなかったのだ。危うく間違えるところだった。

「違うんです、そんなわけはない。でも構いません。別の話をしましょう」

「何の話を?」

「あなたの話です」

「私ですか? お話しするようなことがあるとは思えませんが?」

「誰よりもよくご存じじゃありませんか。三日も経たずにあなたは再任されるでしょうから、そうなればお好きなようにフランスを支配できるはずです」

「本気でそんなことを?」ネッケルは吹き出した。

「あなただって同じことを考えていたのでは。ブリュッセルに行かなかったのがその証拠です」

「いいでしょう。その結果は? 必要なのは結果だ」

「結果ですか。あなたは今フランス人に愛されていますが、すぐに崇拝されるようになるでしょう。王妃はあなたが愛されているのを見るのにうんざりしていますが、国王はあなたが崇拝されるのを見て苦々しく思うことになるはずです。あなたの努力が実って二人は支持されることになりますが、あなたはそれに耐えられなくなります。その頃あなたの方は支持が下がるでしょうね。民衆は飢えた狼なんです。餌をくれさえすればどんな手であろうと舐め回すものなんですよ」

「それからどうなる?」

「それからあなたは再び忘れられます」

「忘れられる?」

「ええ」

「なぜだ?」

「大きな出来事が起こるからです」

「何を言う。あなたは予言者なのか?」

「悲しいことに或る程度は」

「いったい何が起こると?」

「予言するのは難しくありません。現に議会には兆しが芽吹いているんですから。今は眠っていますが、いずれ或る党が立ち上がることでしょう。間違った。眠っちゃいません。起きているけど身を潜めているだけです。信念を旗印に、思想を武器に掲げて」

「わかりました。オルレアン党のことですね」

「はずれです。オルレアン党のことなら、人間を旗印に、人気を武器にしていると言いますとも。今まではその党の名前が口にされたことさえありません。共和党です」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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