翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 21-8

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「共和党? まさか!」

「お疑いですか……?」

「妄想だ!」

「ええ、妄想キメラです。ただし鉄の口を持ち、あなたをすっかり食い尽くすことでしょう」

「私だって共和主義者になれる。いや、今だってそうだ」

「ジュネーヴでなら申し分ない共和主義者だったでしょうけれどね」

「はて、共和主義者は共和主義者ではないのか」

「違うんです。この国の共和主義者はほかの国とは別物なんです。初めに特権階級を喰らい、次に貴族を喰らい、それから王権を喰らい尽くすことでしょう。スタートこそあなたと一緒でしたが、あなたなしでもゴール出来る。あなただって後を追うつもりはないでしょう? そういうことです、ネッケルさん、あなたは共和主義者ではありません」

「そういうことなら私は違う。国王に好意を抱いている」

「僕もですよ。今はみんながそう思っています。こうしてお話ししているのがあなたほど立派な人じゃなければ、罵られたり馬鹿にされたりするようなことかもしれませんが、どうか僕の言うことを信じて下さい、ネッケルさん」

「本当の話なのであれば、そう願いたいが……」

「秘密結社のことをご存じですか?」

「そんな話を聞いたことは何度もある」

「信じていらっしゃいますか?」

「存在は信じている。正しいものとは信じていない」

「何処かに入会なさっていますか?」

「いや」

「フリーメーソン支部に所属しているだけでも?」

「ない」

「そうですか。僕は入ってますよ」

「会員だと?」

「ええ。気をつけて下さい。巨大な網が玉座という玉座を覆っているんですから。目に見えぬナイフが君主制を狙っているんです。三百万近い同胞が全国に広がり、ありとあらゆる階級や社会に散らばっているんです。庶民にもブルジョワにも貴族にも王族にも君主の中にも味方がいます。気をつけて下さい、腹の立つ王族が会員かもしれないんです。お辞儀をしている家来が会員かもしれないんです。あなたの命も運命もあなたのものではありません。名誉さえそうです。どれもこれも目に見えぬ権力のもの。あなたには抗うことも見ることも叶いませんが、向こうにはあなたを滅ぼすことが出来るんです。だって向こうからは丸見えなんですから。この三百万の同胞が、既にアメリカに共和制を樹立して、今はフランスに共和国を作ろうとし、いずれ欧州を共和制にしようとしています」

「だが合衆国の共和制にはさほど脅威を感じない。私なら喜んでその計画を受け入れるが」

「そうですね。でもアメリカと僕らの間には深い溝が横たわっています。アメリカという九つの州には、偏見も特権も王権もなく、豊饒な土地も肥沃な大地も手つかずの森もある。海に囲まれているアメリカには、貿易のために開いている口があるし、住民が財産を貯め込むしかないような孤独がある。ところがフランスと来たら!……フランスをアメリカと同じ水準にするために前もって破壊しなくてはならないことがどれだけあるか!」

「では結局のところどうなさりたいのですか?」

「やらねばならないことをやるまでです。そうは言っても邪魔されることなく目的を達したいですからね、先頭には国王に立ってもらいます」

「旗として?」

「いいえ、楯として、です」

「楯?」ネッケルは吹き出した。「あなたは国王をご存じない。そんな役を演じさせようとは」

「知ってますよ。ようく知っています。アメリカの小さな町でああいった指導者を何人も見て来ました。人が良く、威厳に欠け、立ち向かう力もなければ、積極性もありませんが、どうしろと言うんです? 肩書きのおかげでしかないのだとしても、さっき申し上げた人たちに対する壁の役目は果たしてくれます。弱っちい壁でも、ないよりはマシですから。

「覚えていますよ、アメリカ北部の蛮族と戦っている最中、葦の茂みの陰で幾晩も過ごし、川の向こう岸にいる敵から銃撃を受けたものです。

「葦なんて頼りないと思いますよね? それが違うんです。身を隠している緑の茎が銃弾によって糸くずのように細切れにされているというのに、丸見えの原っぱにいるのと比べれば、どれだけ心が安らいだことか。つまり国王とはその壁なんです。国王のおかげでこっちからは敵を見ながらも、向こうからは見られずに済むんです。僕がニューヨークやフィラデルフィアでは共和派でありながら、フランスでは王党派でいるのは、こうした事情です。アメリカでは独裁官の名はワシントンと言いました。ここフランスでどう呼ばれることになるのかは神のみぞ知ることです。ナイフかもしれませんし死刑台かもしれない」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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