翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 25-3

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 王妃は物思わしげに顎を撫で、ポリニャック伯爵夫人のところに向かった。伯爵夫人の方でも青ざめて憂いに沈み、考えに耽っていた。

 伯爵夫人は事情を耳にして明らかに怯えていた。王妃が目の前に立ってからようやく笑顔を見せたくらいだし、その笑顔にしても萎れかけた花のように弱々しくくすんでいた。

「伯爵夫人、今のお話をどうお思い?」王妃がたずねた。

「何にもございません」

「何も?」

「なんにも」

 ポリニャック夫人はがっくりしたように首を横に振った。

「まったくもう」王妃はポリニャック夫人の耳元に口を寄せ、「愛しいディアナは臆病者なんですから」と小声で囁いてから、声に出して

「だったら勇敢なシャルニー夫人は何処? あの方がいればきっと安心できるのに」

「伯爵夫人はお出かけになりました。国王陛下からお呼びがあったようです」ミズリー夫人が答えた。

「ああ、陛下のところ」マリ=アントワネットは気の抜けたように答えた。

 だがその時、王妃は周りの人間がどういうわけか静まりかえっていることに気づいた。

 かつてない信じがたい出来事だった。怒濤のように次々とヴェルサイユに届いていた報せに、滅多なことでは心を動かされぬ者たちも打ちのめされていた。怯えていたというよりは驚いていたのだろう。

 沈んだ者たちの気持を鼓舞しなければならないことを王妃は悟った。

「誰も考えを持ってないの? だったら自分で考えるしかないわね」

 王妃の周りに人だかりが出来た。

「パリの人々には悪意があるのではなく、錯乱しているだけなんです。わたしたちのことを知らないから憎んでるんですもの、歩み寄ろうじゃありませんか」

「罰するためでございますな。当然、あるじを信頼しないのは罪に当たりますから」

 王妃が声のした方を見ると、ブザンヴァル氏がいた。

「あなたでしたの。良い考えはありまして?」

「もう申し上げました」ブザンヴァルは深々とお辞儀をした。

「そうね。国王は罰を与えるでしょうけれど、優しい父親が与えるような罰よ」

「愛の深い者ほど与える罰も重いものです」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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