翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 27-4

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「そうなのですか?」王妃が泣き崩れた。

「泣いてはなりません、理解しなくては」

「理解しろ? 理解しろと? 王妃であるわたしに、生まれながらに二千五百万人の女王であったわたしに、理解しろと。わたしに従うべきその二千五百万の家臣が、叛乱を起こし、友人たちを殺しているこの時に、理解しろと! 未来永劫、理解できるわけがありません」

「それでも理解していただかなくてはなりません。生まれながらにあなたに従うべきその家臣や国民たちにとって支配されることが重荷になり、あなたが敵となった暁には、あなたを倒せるだけの力がつくのを待って、今はそのために飢えた牙を磨き、やがてあなたよりも嫌われているあなたのご友人たちを倒すに違いないのですから」

「その者たちが正しいと明らかにすることが出来るとでも?」抑えつけるように言った王妃の目は見開き、鼻は震えていた。

「その通り正しいのです」伯爵の声は優しく穏やかだった。「大通りを歩き回った時のことです。英国産の馬に跨り、金入りの服を身に纏い、銀の紐飾りの服を着た従者を連れていました。その紐飾りだけで、国民(votre peuple)、つまりあなたの言う二千五百万の飢えた人間なら、三家族は楽に養えるものだったでしょう。大通りを歩いている間中、彼らのために何が出来るか考えていたのです。同じ人間でしかない私に何が出来るのかを」

「こうすれば良いのです」王妃が伯爵の剣の柄をつかんだ。「この剣を用いて雄々しくなされば良い。お父君がフォントノワでなさったように、祖父御がステンケルク(Steinkerque)でなさったように、曾祖父御がランスやロクロワ(à Lens et à Rocroy(Rocroi))でなさったように、ご先祖がイヴリーやマリニャンやアザンクール(à Ivry, à Marignan, à Azincourt)でなさったように、なされば良いのです。貴族がフランス国民(peuple)のために出来ることは戦うことです。貴族は戦によって、その血と引き替えに、服を飾る金や従者に纏わせる銀を手に入れて来たのです。オリヴィエ、国民のために何が出来るのかと問うのなら、ご父祖たちから伝えられたこの剣をもって、今度はあなたが雄々しく戦えば良いのです!」

「どうか陛下」伯爵は首を横に振った。「貴族の血の話などなさらないで下さい。庶民(peuple)にも血は流れているのです。バスチーユ広場に流れた血の流れをご覧になって下さい。舗石を赤く染めた死者の数を数えてみて下さい、もはや波打つことのない心臓もあなたの大砲に撃たれたその日には騎士の心臓と変わらず気高く脈打っていたことを覚えておいて下さい。不慣れな手でぎこちなく武器を持ち、砲撃の下で歌っていたその日のことを、勇敢な擲弾兵にもなかなか出来ない行動を取ったその日のことを、覚えておいて下さい。どうか陛下、お願いですからそのような(怒りに満ちた)目で見ないで下さい。擲弾兵とは何者でしょうか? 只今お話しした心臓の上に纏われた青い服のことです。心臓が青い布や切れ端で覆われたからといって、そこに穴を開け命を奪う砲弾にとってそれに何の意味があるでしょうか? 心臓を守る鎧が布で出来ていようが切れで出来ていようが、はじけ飛ぶ心臓にとって何の意味があるのでしょうか? そうしたことを考えなくてはならない時が来たのです。もはやフランスには二千五百万の奴隷も、二千五百万の家臣も、二千五百人の民草(hommes)もおりません。二千五百万の兵士がいるだけなのです」

「その者たちがわたしに対して戦いを始めようというのか?」

「そうです。あなたに対して。彼らは自由のために戦っているのであり、あなたが彼らと自由の間に立ち塞がっているのですから」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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