翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 27-5

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 長い沈黙が降りた。初めに言葉を継いだのは王妃だった。

「要するに、これが真実なのですね。言わないでとお願いしたのに、とうとう言ってしまった」

「あなたへの忠誠が如何なる形を取ろうとその下に真実は隠されていますし、あなたへの敬意から如何なるヴェールがかかろうともその下に真実は押し殺されているのです。私の意図やあなたの意思に関わらず。ですからどうか目を凝らし、耳を傾け、気配を感じ、手を触れ、そのことを考え、思い描いて下さい。真実はそこに、永遠にそこにあります。どれだけもがこうと、あなたには真実と袂を分かつことはもはや出来ません。眠ることです。眠ってしまえば忘れてしまいます。そうすれば真実は枕元に腰掛け、夢の中に姿を見せ、目覚めた時には現実となっていることでしょう」

「伯爵」王妃は毅然として答えた。「真実にも妨げられない眠りがあります」

「私とてそうした眠りを恐れてはいません。いえ、陛下と同じく、望んでいると言ってよいでしょう」

「では、それがわたしたち二人の避難場所であると?」王妃が絶望の声をあげた。

「その通りです。ですが急いではなりません。敵たちと同じ速さで歩きましょう。どうせこれから続く嵐の日々にぐったりとすることになるのです。疲れて眠くなったら真っ直ぐにその眠りに向かって進めばよいのです」

 今回降りた沈黙は、初めのものよりも暗く、二人の肩に重くのしかかった。

 二人は互いに寄り添って坐っていた。互いに触れ合ってはいたが、二人の間には大きな隔たりがあった。二人の思いは不確かな未来の上で散り散りに別れていた。

 初めに話を再開させたのは王妃だったが、それも迂遠なたずね方だった。王妃はシャルニー伯爵をじっと見つめて言った。

「最後に一言だけ。それでも……それですべての答えの代わりになるわ、おわかり?」

「お聞きします」

「ここに来たのはわたしのためだけだと誓えますか?」

「お疑いになるのですか?」

「シャルニー伯爵夫人が手紙を書かなかったと誓えますか?」

「妻が?」

「ええ。伯爵夫人が立ち去ろうとしていたことも、心の中に思うところを秘めていたことも、知っています……どうか誓って下さい。あなたが戻って来たのは伯爵夫人のためではないのだと」

 この時、扉が敲かれた。否、扉が遠慮がちに叩かれた。

「入りなさい」

 小間使いが戻って来た。

「国王陛下のお食事が終わりました」

 シャルニー伯爵が驚いた顔でマリ=アントワネットを見つめた。

「そうですよ」王妃は肩をすくめた。「何を驚いているのです? 国王が食事をしてはいけないと?」

 オリヴィエ・ド・シャルニーは眉をひそめた。

「国王に伝えて下さい」王妃は狼狽えもせず指示を出した。「パリからの報せを受け取りました。今後とも受け取った際にはお知らせいたします」

 それからシャルニーに向かって言った。

「話を続けましょうか。食事が終わったからには、今頃は腹をこなしているところです」


 第27章終わり、第28章につづく

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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