翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 30-2

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「バスチーユを陥落させ、司令官を殺害し、パリ市長を嬲り殺し、兵たちを皆殺しにしたのが正しいと?」

「ああ……残念ながら、そうだ」

「それが陛下のお考えですか! わたしに伝えようとしたのは、そういう話なのですか!」

「思い浮かんだ通りに言ったまでだ」

「お食事中にですか?」

「丁度いい、食事の話に戻ろうか。どうして食べさせてくれぬのだ。詩人か仙人にでもするつもりか? どうしろというのだ? 余の家系は大食いなのだ。アンリ四世は大食いなうえに大酒飲みだった。大王にして風流なルイ十四世は恥ずかしいほどの大食いだった。ルイ十五世は安心してよく食べよく飲めるように、自分でベニエを作り、デュ・バリー夫人に珈琲を淹れさせていた。仕方があるまい。余は腹が減ったら我慢が出来ぬのだ。ルイ十五世、ルイ十四世、アンリ四世のひそみに倣うほかあるまい。やむにやまれぬ時には大目に見てくれ。間違っていた時には許してくれ」

「つまり陛下が仰りたいのは……」

「腹が空いても食べてはならぬのか? そんなことはないと言いたかったのだ」国王は力なくかぶりを振った。

「もうその話は結構です。国民のことをお話ししましょう」

「わかった」

「国民は間違っていると仰りたかったのでは?」

「叛乱のことか? それはもうよい。大臣のことを考えて見給え。我々の治世になってから、心から国民の幸福のために働いていた人間がいったい何人いる? 二人。チュルゴーとネッケル氏だ。そなたと取り巻きが追放させた二人だよ。一人のために暴動が起きた。きっと二人目のために革命が起きるだろう。話を変えぬか。面白い人間たちがいるではないか? モールパ氏(M. de Maurepas)、叔母たちの子分、小唄の作者。褒め称えるべきは大臣ではなく国民ではないか。カロンヌ(M. de Calonne)氏? 都合のいい言葉を伝えたそうではないか、知っておるぞ、それが今もまだ尾を引いておる。何を尋きに行ったのかは知らぬが、何かをたずねた折り、『出来そうなことであれば実現します。出来そうになければそのうち実現します』と言われたそうだな。その言葉は国民にとっては一億フランの痛手だった。国民がその言葉にそなたほど感銘を受けなかったとしても驚くには当たるまい。いい加減に理解し給え。いくら国民から搾取している者たちを守り、国民を愛しむ者たちを追放したりしても、今の政府には国民をなだめる手だても惹きつける手だてもないのだよ」

「だから叛乱も当然であると? それを堂々と宣言なさればいいでしょう! そんなことを仰ったのが二人きりの時で本当によかった。誰かに聞かれていたらどうなっていたことか!」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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