翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 30-7

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「それは解釈次第だな。ドルレアン公か! ドルレアン公を非難するというのか。叛徒と戦うために。パリを離れヴェルサイユに駆けつけたのだぞ。ドルレアン公が余の敵だと? どうやらそなたはドルレアン家を尋常でないほど憎んでいるようだな」

「駆けつけた理由をご存じですか? 忠義者たちの中にいないことに気づかれるのを恐れていたからです。駆けつけたのは卑怯者だからです」

「仕方ない、仕切り直そう。そんなことを思いついた方こそ卑怯者ではないか。ドルレアン公がウェサン(Ouessant)で恐れていた新聞に、そんなことを書かせたのはそなただ。名誉を傷つけたかったのだろう。誹謗中傷も甚だしい。フィリップは恐れてなどいなかった。フィリップは逃げてなどいない。逃げるようなことがあれば一族の顔に泥を塗っていただろう。ドルレアン家は勇敢なのだ。誰だって知っている。アンリ四世というよりはアンリ三世の血を引いているようなところのあった一族の始祖は、デフィア侯爵やロレーヌ士爵(son d'Effiat et son chevalier de Lorraine)のことはあっても、勇敢だった。カッセル(Cassel)の戦いでそれを証明して見せた。摂政公には生活態度の面で反省すべき点があったが、ステーンケルク(Steinkerque)やネールウィンデン(Nerwinde)やアルマンサ(Almanza)では、最後の一人となるまで軍人として戦ったのだ。お望みとあらば話すのは良い面の半分だけにしておくが、悪い面などはないのだから話しようがない」

「陛下は革命家たち(révolutionnaires)の無実を証明しようとなさってるんですね。ドルレアン公がどれだけ力があるかご存じだというのに。あの人のことを考えると、バスチーユがまだあればと思ってしまいます。だってそうじゃありませんか。犯罪者が収容されていたのにあの人が投獄されていないのが残念でなりません」

「そうかね? ドルレアン公がバスチーユに入っていれば、さぞかしありがたい状況になっていただろうな」

「どうなっていたというのですか?」

「民衆たちがネッケル氏の胸像だけでなくドルレアン公の胸像を花で飾って練り歩いていたのを、知らぬ訳ではあるまい?」

「もちろん知っています」

「つまりバスチーユから出た途端、ドルレアン公はフランス王になっていただろう」

「陛下はきっとそれを正しいとお感じになっていたことでしょうね!」マリ=アントワネットは棘のある皮肉を込めて答えた。

「そうだとも。それで気が済むというのなら肩でもすくめればよい。他人のことをしっかりと判断するためには、他者の視点が必要なのだ。玉座の上からでは庶民をしっかりと見ることは出来ぬ。同じ高さに降りてみるのだ。そうして、自分が中産市民(bourgeois)や地方民(manant)だったとして、領主から鶏や牛のような生産品扱いされることに耐えられたかどうかと考えてみる。自分が百姓だったとして、領主の飼っている一万羽の鳩に毎日小麦や烏麦や蕎麦を十グレイン、つまり約二ボワソー食べられることに耐えられたかどうか。収穫の大部分が食べられてしまうのだぞ。その間にも領地の兎や領主の飼い兎(ses lièvres et ses lapins)には馬の飼料ウマゴヤシを食べられ、猪には馬鈴薯を掘り返され、収税人には財産(bien)を掠め取られ、妻や娘に手まで出され、国王には息子を戦争に取られ、坊さんには怒りに触れるたびに魂を地獄に落とされているというのに」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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