翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 30-10

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「そうだとも」国王は妻の怯えを和らげようとは一切しなかった。「ジルベールに眠らされた婦人が話をしたのだが、驚くべき内容だったのだぞ」

 王妃の顔から血の気が引いた。

「シャルニー夫人なら驚くようなことを言ったはずだわ」と呟いた。

「結局のところ、よかったのかもしれん……」

「おやめ下さい!」マリ=アントワネットが遮った。

「やめろとはどういうことだ! 余はただ、眠っている間に話を聞かれたのは本人にとってよかったと言いたかっただけだ」

「お願いですからもう一言も仰らないで下さい」

「喜んでそうするよ。もうへとへとだ。腹が減ったら食事をする。眠たくなったら寝るだけだ。おやすみ。これまでの話から、そなたも実のある結論を導き出したであろう」

「どういうことでしょうか?」

「我々と友人がやって来たことを国民(peuple)が破壊したのは正しかったということだ。ジルベール医師を見ればわかる。では失礼するよ。痛みを指摘したからには、どうにかその痛みを止めるつもりだと思ってくれ給え。良い夢を、アントワネット!」

 国王は戸口に向かったが、足を戻して言った。

「忘れていた。シャルニー夫人に伝えてくれ。ジルベール先生と仲直りした方がいい。時間があったらで構わない。では」

 国王はゆっくりと立ち去った。錠がきちんと動くのを整備士が指先で実感した時のように、満足げに扉を閉めた。

 国王が廊下に出て幾らもしないうちに、シャルニー伯爵夫人が寝室から出て来て、扉に駆け寄り閂を掛け、窓にカーテンを引いた。

 狂気と怒りに駆られたように、慌ただしく激しく乱暴な動きだった。

 誰にも見聞き出来ないことを確かめてから、ようやく王妃のところに戻ってむせび泣き、膝を折って訴えた。

「助けて下さい、どうか助けて下さい!」

 そして呼吸を整えてから、

「すべてお話しいたします!」と口にした。

 
 第30章ようやく終了。第31章に続く

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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