翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 33-1

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

第三十三章 助言

 国王はいつものようにせかせかどしどしと部屋に入って来た。

 せわしなく酔狂な様子が、王妃の堅く冷え切った立ち居振る舞いとは対照的だった。

 瑞々しい顔色は何もうわべだけのことではない。早起きして、健康的に朝の空気を吸い込んだので気分がよく、大きな音を立てて呼吸し、力強く床を踏んでいた。

「先生はどうしたかな?」

「おはようございます。ご機嫌いかがですか? お疲れではありませんか?」王妃がねぎらった。

「六時間眠ったよ、時間通りだな。調子はいい。頭も冴えている。顔色が悪いようだぞ、そなたが先生を部屋に呼んだと聞いたのだが」

「ジルベール先生はこちらです」王妃は窓の前からどけて、それまで隠れていた医師の姿を見せた。

 国王の顔がぱっと明るくなった。

「おおそうだった。先生を呼んだということは、具合が悪いのではないかね?」

 王妃が顔を赤らめた。

「おや顔が赤くなったね」ルイ十六世が言った。

 王妃は真っ赤なままだった。

「また何か秘密にしているのかね?」

「何のことでしょうか?」王妃が態度を硬化させた。

「わからぬかね? 自分の医者がいるというのにジルベール先生を呼んだということは、意図があったのだろう。余にはちゃんとわかっている……」

「どのような意図だと?」

「苦しんでいるのを隠しておきたかったのだ」

「そういうことですか」王妃の顔色がわずかばかり元に戻った。

「うむ。だが気をつけるがよいぞ。ジルベール先生は余の腹心だからな。先生に話したことは余の耳に入ってくると思え」

 ジルベールが苦笑した。

「そのようなことはいたしません」

「まいった、王妃に買収されてしまったか」

 マリ=アントワネットが引き攣ったような笑いを洩らした。会話を遮ろうとしたり、会話にうんざりしている人があげるような笑い声だった。

 ジルベールはそれに気づいたが、国王にはそれがわからなかった。

「では先生、王妃と何を楽しくお喋りしていたのかを聞かせてくれるかね」

「先生におたずねしていたんです」マリ=アントワネットが口を挟んだ。「とても朝早くから陛下に呼ばれたのはどうしてなのか。だって朝から陛下がヴェルサイユにいらっしゃるなんて、不思議でしたし、心配だったものですから」

「先生を待っていたのだよ」国王が顔を曇らせた。「先生と政治の話をしたかったものでね」

「そうですか」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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