翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 36-1

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

第三十六章 出発

 国王が王妃の部屋を出た途端、パリ行きのお供を命じておいた士官や家の者たちに取り囲まれていた。

 ボーヴォー氏、ヴィルロワ氏、ネール氏、デスタン氏である。

 ジルベールは人込みに混じって、ルイ十六世が現れるのを待っていた。通りがけに視線を投げるだけでも構わない。

 ここにいる人々に迷いが生じ、国王の決心が続くのかどうか信じられなくなっているのは明らかだ。

「諸君、朝食が終わったら出発しよう」国王が言った。

 それからジルベールに気づき、

「そこにいたのか、先生。よかった。もちろんそなたも連れてゆくぞ」

「仰せのままに」

 国王は仕事部屋に立ち寄り、そこで二時間、政務をこなした。

 それから家族と共に弥撒を聞き、九時頃には食卓に着いた。

 食事はいつも通りにおこなわれた。ただし王妃だけは、弥撒からこっち真っ赤にした目を見開いて、ほとんど食事も摂らずに、国王の食事に同席して少しでも長く一緒にいようとしたがった。

 王妃は二人の子供を連れていた。二人とも母親から話を聞いて胸を痛め、父親の顔や士官や衛兵の人だかりを、心配そうに見比べていた。

 それから、母に言われて、睫毛を濡らす涙を時折り拭っていた。その光景はある者には憐れみを、ある者には怒りを、その場にいる者たちすべてにつらい気持を引き起こさせていた。

 国王は毅然とした態度で食事を摂った。目を見ずに何度もジルベールに話しかけ、深い愛情を込めて王妃にほぼずっと話しかけ続けた。

 最後に、隊長たちに指示を与えた。

 食事を終える頃、パリから歩いてやって来た人々の行列が、アルム広場に通じている大並木道のはずれに姿を見せた、と知らされた。

 それを聞いた士官と衛兵たちが部屋の外へと飛び出した。国王は顔を上げ、ジルベールを見つめたが、ジルベールが微笑んでいるのを見て、落ち着いて食事に戻った。

 王妃は青ざめて、ボーヴォー氏の方に首を傾げ、事情を確認して来るよう頼んだ。

 ボーヴォー氏が急いで外に向かった。

 王妃は窓に駆け寄った。

 五分後、ボーヴォー氏が戻って来た。

「パリの国民衛兵です。陛下がパリの者たちに会いにいらっしゃるという噂が昨日のうちに広まったため、一万人ほどの人数が集まって陛下に目通りを求めに来たのですが、陛下のお許しがなかなか出ないためため、ヴェルサイユにまで押し寄せて来たのです」

「用件は何だと思う?」国王がたずねた。

「このうえない用件かと」ボーヴォー氏が答えた。

「構いません。門を閉じてしまいなさい」王妃が言った。

「扉を閉じておくだけで充分だ」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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