翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 40-2

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「フーロンの奴が自分を死んだと思わせて埋められた(enterrer)ふりさえしたことをご存じですか?」

「死んだと思わせた? 埋められたふりをした? 馬鹿らしい、ちゃんと死んでるぞ。葬式(enterrement)をやってるのを見たんだからな」

「それがビヨさん、生きているんです」

「生きてるだと?」

「あなたやボクと同じく」

「どうかしちまったのか?」

「頭がおかしくなったわけじゃありません。卑怯者フーロン、庶民の敵、フランスを吸い尽くす蛭、あの強欲者は、死んでないんです」

「いいか、あいつは卒中を起こして埋められたんだ、葬式をやっているのをこの目で見たんだ、棺桶から引きずり出されて吊るされそうになったのをこの手で止めさえしたんだぞ」

「ボクだって生きているのをこの目で見たんです!」

「何だと?」

「間違いなくこの目で見ました。死んだのは使用人らしんです。で、その使用人に対して立派な葬儀をあげたんだそうです。全部嘘でした。復讐されるんじゃないかとびくびくして、そんなことをしたらしいんですが」

「詳しく聞きたい」

「玄関(vestibule)に行きませんか。その方が話しやすいですから」

 二人は会議室(la salle)を出て玄関まで歩いた。

「その前に、バイイさんはここにいますか」ピトゥがたずねた。

「いいから話せ。ここにいるよ」

「よかった。ボクは有徳者クラブに行って、愛国者の人が話しているのを聞いていたんです。その人のフランス語は間違いだらけなんですよ。間違いなくフォルチエ神父のところで教わらなかったんでしょうね」

「いいから早く続きを。立派な愛国者だからといって読み書きが出来るとは限らん」

「そうですね。そこに突然、息を切らせて駆け込んで来た人がいて、大声で叫んだんです。『やったぞ! 危なかった! フーロンは死んじゃいない、フーロンはまだ生きてた。見つけたんだ、ばったり出くわしたんだ!』。ビヨさんと一緒で、誰も信じようとしませんでした。『フーロンが?』、『そう思いたいんだろ?』、『お前が本当にその場にいたんなら、当然ベルチエにも会ったんだろうな』」

「ベルチエか!」

「そうです、ベルチエ・ド・ソーヴィニーです。コンピエーニュ知事で、イジドール・ド・シャルニーの友だちでしたよね?」

「そうだ。みんなには厳しかったが、カトリーヌには礼儀正しい人だった」

「その人です。恐怖の徴税人、フランス人の血を吸う第二の蛭、人類の怨敵、文明世界の恥、ルースタロの言葉を借りればそういうことです」【※ Elisée Loustalot。1789年7月12日発行の『パリの革命』紙の編集者、ジャーナリスト。】

「それで?」ビヨが促した。

「そうですね。Ad eventum festinat。これは『早く結論に進め』という意味です。だから先に進みますね。有徳者クラブに入って来た人が、息を切らせて『フーロンを見つけた、フーロンがいたぞ!』と言ってから、大きな叫び声をあげたんです」

「見間違いだ」ビヨは石頭だった。

「見間違いじゃありません。ボクも見たんですから」

「おまえさんが、ピトゥ?」

「この両の目で。もう少し辛抱して下さい」

「辛抱するとも。でもあんまり焦らすなよ」

「では聞いて下さい。話す用意は出来ています……フーロンは死んだふりをして、使用人を代わりに埋葬させたのですが、ありがたいことに神様(la Providence)はちゃんとご覧になっていたんです」

「神様だって?」懐疑主義者のビヨは鼻で笑った。

「国民と言いたかったんです」ピトゥが恥ずかしそうに答えた。「その善良な市民、その息を切らした愛国者、大事件を知らせてくれたその人が、ヴィリー(Viry)に隠れていたフーロンを目撃したんです」

「なるほどな」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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