翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 40-3

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「通報を受けた市長のラップさん(M. Rappe)が直ちに逮捕させたそうです」

「何ていう名前なんだ? その勇気ある行動を起こした立派な愛国者は」

「フーロンを通報した人のことですか?」

「ああ」

「サン=ジャンさんです」

「サン=ジャン? 従僕みたいな名前だな」

「フーロンの従僕でもあるんですよ。貴族の奴め、ざまあ見ろ、あなたはどうして従僕なんて置いておいたんでしょうね?」

「面白い奴だな、ピトゥ」ビヨがピトゥに近づいた。

「あなたはいい人ですよ、ビヨさん。こうしてフーロンは通報され、逮捕されて、パリに連行されました。通報者がそれに先駆けて大急ぎで報せを届け、称讃を受けた後のことです、フーロンが市門に到着したのは」

「おまえさんが見たのはその時だな?」

「ええ、変な恰好をしていましたよ。首飾りのあるべきところに刺草イラクサの首輪をつけられていたんです」

「刺草? どういうことだ?」

「聞いた話では、当の極悪人がそう言ったからだそうです。『人間にはパンがある、馬には干し草がある、だが庶民には刺草があれば充分だ』と」

「そんなことを言ったのか?」

「本当にそんなことを言ったんですよ」

「よし、誓ったな」

「そうですよ」ピトゥは何のてらいもなく答えた。「軍人の間を歩かされて、その間中ずっと、腰や頭を何度も殴られていました」

「そうか」ビヨの昂奮が醒め始めていた。

「ちょっとした見物でしたけれど、全員が殴れたわけじゃありませんでした。何しろ一万人以上が怒鳴っていたんですから」

「それから?」ビヨは物思いに耽り始めた。

「それから、サン=マルセル地区の議長のところに引き出されました。ご存じですよね」

「ああ、アクローク氏だ」

「クローク、その人です。その人が、フーロンを市庁舎に連れて行くよう指示したんです。どうすればいいのかわからなかったんですね。ですからビヨさんも実際にその目でご覧になれますよ」

「だがね、どうしておまえさんが知らせに来たんだ、そのサン=ジャンではなく?」

「六プス以上足が長かったからです。出発したのは遅かったのですが、そのうち追いついて、追い越して来ました。まずはあなたに知らせて、あなたからバイイさんに知らせてもらおうと思ったんです」

「何て強運な奴なんだ、ピトゥ」

「明日にはもっといいことがありますよ」

「どうしてわかる?」

「フーロンのことを通報したサン=ジャンが、逃亡中のベルチエ氏のことも捕まえさせると断言していました」

「居場所を知っているのか?」

「このサン=ジャンさんは二人から信頼されていたようなんです。それで義父と娘婿から買収目的でお金をたんまりもらっていたんだとか」

「で、お金は受け取ったのか?」

「もちろんです。貴族のお金はいつだって受け取るべきものですから。だけど言ってましたよ、『愛国者はお金のために国民を裏切らない』って」

「そうだな」ビヨが呟いた。「主人を裏切るだけだ。そのサン=ジャン氏ってのは充分な悪党に思えるがね」

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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