アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む。
「待って下さいよ」ビヨが素朴な疑問を口にした。「さっきは革命にうんざりしていたのを突っ込んでいたのに、今度は革命を憎めばいいと仰るんですか」
「諦めている、とも言ったはずだ」
「
「それでも僕は続けるつもりだ」ジルベールが続けた。「見えているのは障害の山かもしれないが、その向こうに終着点も僅かに見えているんだよ、それはそれは素晴らしい終着点がね、ビヨ。僕が夢見ているのはフランスの自由だけではなく、全世界の自由なんだ。物質的な平等だけではなく、法の下の平等なんだ。市民同士の友愛だけではなく、人類同士の友愛なんだ。僕はきっとそのせいで魂も肉体も失ってしまうだろう」ジルベールは侘びしそうに言った。「でもそんなことはいい。要塞を襲撃しようとする兵士は大砲を目にし、装填される砲弾を目にし、短くなってゆく導火線を目にすることになる。それだけじゃない。砲口が向けられるのも目にするだろう。黒い鉄の塊が胸を抉りに向かって来るのを感じるはずだ。それでも兵士は前に進み、要塞を奪い取らなければならない。僕らはみんな兵士なんだよ、ビヨ。地面に散った僕らの屍の上を、いつの日か、ここにいるこの子を先駆けにして次の世代が歩いてゆくんだ」
「あたしにはジルベールさんが絶望している理由がわかりませんね。不幸な男がグレーヴ広場で殺されたからですか?」
「だったら君が怖がってるのは何故だい?――さあビヨ、君も人を殺せばいい」
「何を仰っているんです?」
「筋は通さないとね――ここに来た時、強くて勇敢な君が、青ざめて震えていたじゃないか。しかも、うんざりしている、と言っていただろう。僕はそんな君の顔に笑いかけた。今ここで、君が青ざめていたわけもうんざりしていたわけも説明してあげよう――今度は僕のことを笑えばいい」
「お願いしますよ。でもその前に希望を与えて下さいよ、あたしは気分も身体も立ち直ってから田舎に帰りたいんです」
「田舎か。僕らの希望はまさしくそこにある。田舎という眠れる革命は、千年の間じゅう揺れ動き、揺れ動くたびに王権をぐらつかせて来たんだ。今こそ田舎が揺れ動く番だ。その時こそ、さっき君が話していた不正に獲得された財産を、買い取るなり奪い取るなりして、貴族や聖職者の息の根を止めることになる。だが田舎で思想を収穫してもらうには、農民に土地を獲得してもらうようにしなければいけない。土地があれば人間は自由になれる。自由になれればもっと良くなれる。だから僕らみたいな恵まれた労働者には、神様から未来のヴェールを上げてもらえる僕らみたいな人間には、庶民に自由を与えるだけではなく、所有権を与えるという大きな仕事が待っているんだ――いいおこないをしてもひどいお返しがあるだけかもしれない。だが影響力のある効果的なおこないというものは、喜びと苦しみ、栄光と中傷に満ちているものさ。田舎というのは今はだらしなく眠っているけれど、僕らの声で目を覚まされるのや、僕らのところから黎明の光が上るのを待っているんだよ。
「ひとたび田舎が目覚めてくれれば、血の滲むような僕らの苦労も遂に終わり、それからは平和な田舎の苦労が始まるんだ」