翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 44-5

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「ボクはどうすれば?」ピトゥがたずねた。

「君かい?」ジルベールは無邪気で逞しく智性をほとんどひけらかさないその青年を見つめた。「君はピスルーに帰って、ビヨの家族をねぎらい、ビヨが実行した崇高な任務のことを説明するんだ」

「今すぐそうします」ピトゥはカトリーヌのそばに戻れるとわかって喜びに震えた。

「ビヨ、指示を出してくれ」ジルベールが言った。

「わかりました」

「お願いします」

「カトリーヌを一家のあるじに任命する。いいな?」

「ビヨ夫人は?」ピトゥはビヨの娘贔屓に吃驚してたずねた。

「ピトゥ」ジルベールが、ビヨの顔に浮かんだ赤らみを見て何を感じているのか察した。「アラブの諺を思い出すんだ。『聞くことは従うこと』」

 ピトゥが顔を赤らめる番だった。自分がやったことを理解し、失礼を悟ったのだ。

「カトリーヌは一家の頭脳だ」ビヨがあっさりと考えをまとめた。

 ジルベールがうなずいて同意を示した。

「もうありませんか?」ピトゥがたずねた。

「俺はな」

「では僕から」ジルベールが言った。

「お聞きします」ピトゥがさっそくアラブの諺を実行に移した。

「僕の手紙をルイ=ル=グラン学校(collège Louis-le-Grand)に届けて欲しい。ベラルディエ院長(l'abbé Bérardier)に渡してくれれば、セバスチャンに手渡してくれるだろうから、ここに連れて来てもらえれば、僕もセバスチャンを抱きしめられる。その後でヴィレル=コトレに連れて行って、時間を無駄にせずフォルチエ神父(l'abbé Fortier)に預けてくれないか。日曜と木曜には一緒に出かけて、何の不安も感じさせずに野原や森を散策させて欲しい。ここよりもヴィレル=コトレにいる方が、僕も安心できるし、セバスチャンの身体にもいいと思うんだ」

「わかりました」ピトゥは幼なじみとまた仲良く出来るという嬉しさと、カトリーヌという甘美な名前から呼び覚まされた少し大人びた感情をほんのり吸い込んで、大喜びで返事をした。

 ピトゥは立ち上がると、微笑んでいるジルベールと考え込んでいるビヨにいとまを告げた。

 それから駆け出して、ベラルディエ院長のところまで乳母子のセバスチャン・ジルベールを迎えに行った。

「では僕らも行動しようじゃないか!」とジルベールがビヨに言った。

 
 第44章おわり。第45章につづく。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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