翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 49-4

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 議論の結果は以下の通りである。

「無駄な書類ばかり作って毎日のおまんまを食わせないような市庁舎なんて燃やしてしまえ」

 折りしも市庁舎では、重さを誤魔化してパンを売っていたパン屋の判決が宣告されていたところであった。

 パンが高くなればこうした誤魔化しも増える。ただし儲けが上がればそれだけ危険も大きくなる。

 その当然の帰結として街灯作業に慣れた者たちが新しい綱を持ってパン屋を待ち構えていた。

 市庁舎の衛兵はパン屋を守ろうとして、全力を尽くしていた。だが結果はご覧の通り、しばらく前から博愛主義との折り合いは悪化していた。

 女たちが衛兵に飛びかかり、こてんぱんにのしてから市庁舎に乗り込むと、掠奪が始まった。

 目についたものは手当たり次第にセーヌ川に放り投げ、運べないものは広場で燃やそうとした。

 というわけで水の中には男の山が、広場には火の壁が出来あがっていた。

 大仕事であった。

 市庁舎にはほとんどの人間が揃っていた。

 選挙人が三百人。

 助役たち。

 区長たち。

「あいつら全員を川に放り込むには大分かかるだろうね」その女には時間を気にするだけの分別があった。

「そうするだけの価値はあるだろう」

「でも時間がないね」

「まとめて焼き殺しちまえばいいんだよ。そうすれば簡単だ」

 火種が欲しくて松明を探し回っている間、時間を無駄にせず、修道院長が一人吊るされた。ルフェーブル・ドルメソン修道院長(l'abbé Lefèvre d'Ormesson)である。

 幸いなことに灰色服の男(l'homme à l'habit gris)がいたため、綱が切られ、修道院長は十七ピエの高さから落下した。修道院長は足を挫いて、女たちの哄笑の中、びっこを引き引き逃げ出した。

 何故に修道院長が安穏と逃げ出せたのかといえば、松明に火がつけられていたからであり、女たちはとっくに松明を手にしていたからであり、松明を書類に向かって近づけていたからであり、あと十分もすればすべてが炎に焼かれるはずだったからである。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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