翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』 50-4

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 女のいなくなった市庁舎広場には男たちが溢れていた。

 それは有給無給の国民衛兵であった。分けても庶民の側に鞍替えした古参の近衛兵である。国王の衛兵としての特権を失い、国王護衛隊とスイス人衛兵に特権を譲り渡していたという事情があった。

 女たちの立てた騒ぎに続いて、警鐘の音と非常呼集が鳴り響いていた。

 ラファイエットはその人込みを縫い、階段の下で馬から降りると、それによって引き起こされた脅し混じりの喝采を気にも留めずに、朝に起こった暴動について国王宛ての手紙を書き取らせ始めた。

 十六行目まで進んだところで、事務室の扉が大きな音を立てて開いた。

 ラファイエットが目を上げた。擲弾兵の代表団がラファイエットに面会の許可を求めていた。

 ラファイエットは入っても良いと合図した。

 代表団が入室した。

 話す役目を負った擲弾兵が机まで歩いて来た。

「将軍閣下」澱みない声であった。「我々は十個中隊の擲弾兵を代表して参りました。閣下を裏切者だとは思っておりませんが、政府には裏切られると考えております。何もかも終わりにすべき頃合いです。パンを乞う女たちに銃剣を向けることなど出来ません。食糧委員会は汚職しているか役立たずかのどちらかです。いずれにしても変えねばなりません。庶民が苦しんでいる、その諸悪の根源はヴェルサイユにあります。国王をお迎えに行き、パリにお連れしなくてはなりません。フランドル聯隊と国王護衛隊を壊滅させねばなりません。あろうことか国民の徽章(la cocarde nationale)を踏みにじった者たちです。もし国王に王冠を戴くだけの力がないのなら、下ろしてしまえば良い。王冠はその子に継がせ、摂政評議会(un conseil de régence)を設置すれば、それですべてが上手く行きます」

 ラファイエットは驚いて見つめた。確かに暴動を目にして来たし、私刑を嘆きはして来たが、実際に革命の息吹に顔を撫でられたのは初めてだった。

 国民が国王を必要としない可能性を知って驚いたが、驚く以上に混乱していた。

「どういうことだ? 国王とやり合うつもりなのか? 国王を見捨てろと言うのか?」

「我々とて国王を深く敬愛しております。それだけに国王にそっぽを向かれたのが口惜しいのです。ですから国王がいなくとも王太子がいるという結論になったのです」

「自分たちが何をやろうとしているのかわかっているのか? 王冠に手を触れようとしているのだぞ。認めるわけにはいかぬ」

「我々のことであれば、閣下のために血の最後の一滴まで絞り出す覚悟であります。ですが国民は貧しており、諸悪の根源がヴェルサイユにある以上、国王をお迎えに行きパリまでお連れすることが国民には必要なのです」

 ラファイエットは殉難の覚悟をしなければならないと悟った。それが必要とあらば躊躇ったことなどない。

 市庁舎広場に降り立ち、群衆に向かって訴えかけようとしたが、「ヴェルサイユへ!」の声に掻き消されてしまった。

 ヴァンリー街(la rue de la Vannerie)の方からどよめきが聞こえて来た。バイイが市庁舎に姿を見せたのだ。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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