翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』52-3

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 遂に女たちが二本の通りから現れた。途中で二手に別れていたのだ。それぞれサン=クルー(Saint-Cloud)の道と、セーヴル(Sèvres)の道を取っていた。

 別れる前に八つのパンを分かち合っていた、というのもセーヴルで見つけられたのはそれだけだったからだ。

 三十二リーヴルのパンを七千人で!

 ヴェルサイユに着いたとはいえ、這うのがやっとの状態だった。四分の三以上が武器を道に放り出して来た。先述した通り(?)マイヤールはヴェルサイユ(la ville)に入ってすぐに、残りの四分の一には近くの家に武器を置いて進むよう指示していた。

 そして街なかを歩きながら呼びかけた。「聞いてくれ。王制の味方だとわかってもらうために『アンリ四世万歳!』を歌おう」

 すると女たちはパンを求めるのがやっとの絶え入りそうな声で、王国の歌を歌い始めた。

 宮殿の驚きが如何ばかりであったかは想像に難くない。何しろ嘆き声や怒鳴り声ではなく歌声が聞こえて来たうえに、歌っている者たちが飢えのあまり酔っぱらいのようによろめいて憔悴した顔を突き出しに(coller)来るのが見えたのだ。血の気も生気も失せた泥だらけの顔には水と汗がしたたり、幾つもの手が金メッキの柵を握って揺り動かしているのを見ては、重なりあった幾千の恐ろしい顔も取り乱した目には実際より何倍も多く見えていた。

 それから時折り女たちの胸から悲痛な叫びが洩れ、死にかけた面持ちから光がほとばしっていた。

 それからまた時折り、しがみついていた手が柵から離れ、虚空を泳ぎ、宮殿の方に伸ばされた。

 開いて震えている手は懇願していた。

 握り締めて引き攣っている手は激昂していた。

 何と陰鬱な光景だったことか!

 空と地は雨と泥で塗られていた。

 取り囲む女たちは飢えと怒りで。

 取り囲まれた貴族たちは憐れみと猜疑で塗られていた。

 ルイ十六世を待っている間も、昂奮している王妃の心は決まっていた。守りを命じた王妃の許に、だんだんと廷臣や将校や役人たちが集まっていた。

 その中にパリ大臣サン=プリースト氏がいた。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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