翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』53-1

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

第五十三章 十月五日から六日にかけての夕べ

 シャルニー伯爵とジルベールは全速力で階段を駆け抜けた。

 一人は「国王の名に於いて!」と叫び、

 一人は「王妃の名に於いて!」と叫び、

 最後に二人揃って

「門を開けるんだ!」と声をあげた。

 だがこの命令が実行されないうちに、国民議会の議長は中庭に倒されて足蹴にされた。

 傍らには使節団の女二人が怪我をしていた。

 ジルベールとシャルニー伯爵は全速力だった。上流出と下流出の二人の男が、今は同じ階層で出会っていた。

 一人は王妃への愛のために王妃を救おうとし、一人は王権への愛のために国王を救おうとした。

 開いた鉄門から女たちが中庭に駆け込んで来た。女たちは護衛隊(des gardes)やフランドル聯隊の列に向かって突っ込んだ。脅し、懇願し、愛嬌を振りまいた(caressent)。母や妹の名の許に男たちに懇願する女たちに抵抗する方法があろうか?

「使節団を通してくれ!」ジルベールが叫んだ。

 国王に会いに来たムーニエ(Mounier)議長と女たちのために兵たちが道を開けた。

 シャルニー伯爵から事情を聞いていた国王は、先回りして礼拝堂の隣にある部屋で使節団を待ち受けていた。

 ムーニエは議会を代表して話をすることになっていた。

 太鼓叩きの花売り娘マドレーヌ・(ルイゾン・)シャンブリーは女たちを代表して話をすることになっていた。

 ムーニエが国王に言葉を掛け、マドレーヌ・シャンブリーを紹介した。

 シャンブリーは一歩前に出て話をしようとしたが、口に出来たのは一言だけだった。

「陛下、パンを!」

 そう言うと気を失ってしまった。

「大変だ!」国王が叫んだ。

 アンドレが進み出て国王に小壜を差し出した。

「王妃!」シャルニー伯爵が王妃に向かって責めるような目を向けた。

 王妃は真っ青になって部屋に戻った。

「お供の用意を。国王とわたしはランブイエ(Rambouillet)に向かいます」[*1]

 その間にシャンブリーは意識を取り戻していた。自分を抱えているのも気付け薬を嗅がせてくれたのも国王であることに気づいて、恥ずかしさから悲鳴をあげ、手に口づけしようとした。

 だが国王がそれを遮った。

「どうかこのまま抱きしめさせてくれぬか。

「どうか陛下、それだけお優しいのですから、ご命令をお出し下さい!」

「命令とは?」

「小麦を届けるよう命令を出して、飢えを止めて欲しいのです」

「命令に署名するのに異存はないが、残念ながらあまり役に立てそうにない」

 国王が机に向かって署名を書き始めた瞬間だった。銃声が一つだけ聞こえると、続いて激しい銃撃が始まった。

「何だ?」国王が声をあげた。「今度は何なんだ? 確認してくれ、ジルベール殿」

 攻撃の第二波はまた別の女たちに向けられていた。この攻撃が一発の銃声と激しい銃撃をもたらしたのである。

 最初に発砲したのは市民の男であり、銃弾は護衛隊中尉サヴォニエール氏(Savonnières)の腕を貫いた。その腕で廠舎のそばに逃げた若い兵士を殴ろうとしているところだった。兵士は武器を捨てた二本の腕を伸ばして、後ろに坐り込む一人の女を守っていた。

 その発砲に対する護衛隊からの返答が、カービン銃による五、六発の銃撃だった。

 二発の銃弾が届いた。女が一人、即死した。

 別の一人が重傷を負って運ばれた。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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