翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』54-4

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 三人は前述した二つ目の集団を引き連れて来た。

 勝利を目指す者たちの戦いが終わった後からのこのことやって来る者たちである。

 目的は掠奪と虐殺であった。

 虐殺こそバスチーユで少なからずおこなわれていたが、掠奪に関しては一切手つかずだった。

 ヴェルサイユは雪辱のための恰好の場となった。

 朝の五時半頃、宮殿は眠りのさなかに揺り動かされた。

 大理石の中庭から一発の銃弾が放たれたのだ。

 五、六百人の男が湧き出たように鉄柵(la grille)のところに姿を見せていた。昂奮して脇目もふらず押し合いながら、ただひたすらに、ある者たちは柵によじ登り、またある者たちは門(cette grille)をこじ開けていたところだった。

 歩哨の撃った銃によって恐怖が広まったのはそんな時である。

 侵入者の一人が即死した。死体は血を流して舗道に倒れた。

 この銃撃によって掠奪者の集団は真っ二つに割れた。中には宮殿の銀食器を狙っていた者たちも、あろうことか王冠を狙っていた者たちもいた。

 巨大な斧にぶった切られたように人の波は二つに分かれた。

 集団の一つは王妃の間を荒らしに行った。もう一つの集団は礼拝堂の方に、言い換えれば国王の間の方に足を向けた。

 まずは国王の間に向かった者たちの行方を追うことにしよう。

 大潮の際に波が満ちてゆくのをご覧になったことがないだろうか? 人間の波も同じである。違う点といえば引くことなく進み続けるところである。

 この時の国王の護衛は、夜通し門を守っていた歩哨一人と、スイス兵から奪い取った鉾槍を手に控えの間から飛び出して来た将校一人ですべてであった。

「何者だ!」歩哨が声をあげた。「何者だ!」

 応じることなく潮が上がり続けたため、歩哨は三度目の誰何をした。

「何者だ!」

 銃を構えた。

 将校は室内で銃を撃てばどうなるのか判断して、銃口を跳ね上げると、侵入者の前に飛び出し、鉾槍を横にして階段を塞いだ。

「諸君(Messieurs)! 目的は何だ? 望みは何だ?」

「別にねえよ」嘲りの声が返って来た。「そこを通してくんな。俺たちは陛下のお友だちなんだ」

「陛下のご友人が戦を仕掛けに行くと言うのか?」

 今回も返事はなく……毒々しい笑いが起こっただけだった。

 一人の男が鉾槍の柄をつかみ、鉾槍を放そうとしない将校の手に咬みついた。

 将校は男の手から鉾槍を振り払うと、木楢の柄から二ピエ離れたところを両手でつかみ、その柄を力一杯男の頭に振り下ろして、頭蓋骨を粉砕した。

 その衝撃で鉾槍が真っ二つに折れた。

 これで将校には二つの武器が出来た。棍棒と短刀である。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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