翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』55-2

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 その時、隣の部屋から怒鳴り声が聞こえた。

 侵入者たちだった。「オーストリア女を殺せ! メッサリーナ(Messaline)を殺せ! 拒否権夫人を殺せ! 縊り殺せ、吊るしてしまえ!」

 そして二発の銃声が聞こえ、扉のそちこちに二つの穴が開いた。

 一発は王太子の頭をかすめて化粧壁(lambris)にめり込んだ。

 王妃がひざまずいて声をあげた。「もう駄目です。みんな殺されてしまう」

 すぐにシャルニーの合図をもとに、五、六人の衛兵が王妃と王女と王太子を守るため壁になった。

 その時になって国王が姿を見せた。目には涙を溢れさせ、顔は青ざめていた。王妃が国王を捜していたように、国王も王妃のことを捜していたのだった。

 国王は王妃の姿を目にして駆け寄って抱きしめた。

「生きていらしたのですね!」王妃が声をあげた。

「この者のおかげだ」国王はシャルニーを「そなたも無事だったのだな」

「この者の弟君のおかげで」王妃も答えた。

「伯爵殿」ルイ十六世がシャルニーに声をかけた。「そなたたち兄弟には返しても返し切れぬ恩を受けたようだ」

 王妃はアンドレと目が合い、赤くなって顔を背けた。

 侵入者が扉を打ち鳴らす轟音が聞こえ始めた。

「皆さん、一時間ここを死守しましょう」シャルニー伯爵が言った。「今は七時です。こっちだって全力で身を守るんですから、それを全滅させようとすれば一時間はかかるはずだ。一時間のうちには必ずや助けが来て、国王一家を救ってくれます」

 シャルニーはそう言って部屋の隅にあった巨大な戸棚に手を掛けた。

 すぐに家具が次々と積まれ、衛兵たちがその防壁に銃眼を作って狙いを定めた。

 王妃は子供二人を抱きしめ、両手で頭を撫でて祈りを捧げた。

 子供たちは呻きと涙を飲み込んだ。

 国王が牛眼の間に連なる小部屋(cabinet)に向かった。重要な書類を燃やして侵入者の手に渡らないようにするためだ。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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