翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』57-1

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

第五十七章 ピトゥとセバスチャン・ジルベールの出立と道中と到着

 しばらく前のことになるが、如何なる状況の下でピトゥとセバスチャン(Gilbert)の帰郷が決まったのかをお伝えしたことを覚えているだろうか。

 ここらで主人公たちからしばし離れて、若い二人の旅におつきあいいただき、出立の様子から、道中、そしてヴィレル=コトレ到着までを詳しくお話しさせていただこう。ピトゥとしては二人がいなくなったことでヴィレル=コトレに大きな穴が開いているはずだと考えていた。

 ピトゥはジルベールから頼まれて、セバスチャンに会いに行き連れて戻ることになった。斯くしてピトゥは辻馬車に乗せられた。セバスチャンがピトゥに託されたように、ピトゥは馭者に託されたのである。

 遂に一時間後、辻馬車に連れられて来たピトゥが、セバスチャンを連れて来た。

 ジルベールとビヨはサン=トノレ街(rue Saint-Honoré)に借りていた部屋で待っていた。ノートル=ダム=ド=ラソンプション教会(l'Assomption)から少し上に行ったところに位置する。

 ジルベールから息子に説明があり、ピトゥと同じ晩に出かけることになっていると伝えられ、恋しい森に再会することが出来たら嬉しいかとたずねられた。

「ええ。お父さんがヴィレル=コトレに会いに来てくれるか、僕の方からパリに会いに行くことさえ出来るのなら」

「心配いらない」ジルベールは息子の額に口づけをした。「今ではおまえに会わずに過ごすことなど出来やしないよ」

 一方ピトゥはその晩故郷に向けて出発するのだと考えるにつけても、楽しみで楽しみで顔を紅潮させずにはいられなかった。

 ジルベールがピトゥの片手にセバスチャンの両手を握らせ、もう片方の手に四十八リーヴル=ルイ金貨ばかりを十枚ほど入れた時には、感激のあまり血の気が引いた。

 主として健康に関するジルベールからの長々とした忠告に、ピトゥは神妙に耳を傾けていた。

 セバスチャンの伏せた目には涙が滲んでいた。

 傅育官を任じられていたピトゥが大きなポケットの中でルイ金貨の重さを量って鳴らしていると、ジルベールから手紙を渡された。

 それはフォルチエ神父に宛てた手紙だった。

 ジルベールの忠告が終わると、今度はビヨの番だった。

「ジルベール先生がおまえさんに託したのはセバスチャンの心だが、俺が託すのは身体の方だ。その拳の使い方はわかっているな?」

「もちろんです。それに剣もあります」

「むやみに使うもんじゃない」

「慈悲を忘れません」ピトゥが答えた。「そうなりたいものですclemens ero

「なりたけりゃ英雄にだってなれるさ」ビヨの言葉にからかうような響きはなかった。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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