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翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』62-3

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 剣を落として拾い上げる時、うっかり鞘から抜いてしまった。

 それがきっかけとなり、パリの叛徒に倣ってアラモンの住人にも武装を呼びかけんとする台詞になった。

 熱狂したアラモン村民が力強く応えた。

 村で革命が宣告され、喝采で迎えられた。

 その場に居合わせたヴィレル=コトレの住民たちは、愛国の種で心を満たして村に戻った。憎い貴族に怒りをぶつけて歌いながら。

 『アンリ四世万歳! 雄々しき国王万歳!』【※シャンソン「Vive Henri Quatre」より。】

 ルージェ・ド・リール(Rouget de l'Isle)はまだ「ラ・マルセイエーズ」を作ってはいなかったし、一七九〇年の連盟祭代表はまだ「サ・イラ(Ça ira)」に新たな息吹を吹き込んでいなかった。時はまだ麗しき一七八九年だったのだ。

 自分がおこなったのは演説だけであって革命ではない、とピトゥは思っていた。

 ピトゥは部屋に戻ると、イルカ亭から持って来た黒パン一切れと兜に大事に入れて来たチーズの残りを平らげた。それから真鍮の針金を買いに出かけ、それを環状にして、夜が来ると森に仕掛けに出かけた。

 その夜、ピトゥは大人の白兎と仔兎を捕まえた。

 罠に掛けたかったのは野兎だったのだが、足跡が一つも見つからない。古い狩りの諺にあるように、犬と猿、野兎と白兎は相容れないのだ。【※「Chiens et chats, lièvres et lapins, ne vivent pas ensemble.」に関して、「vivre comme chien et chat」で「犬猿の仲」の意味だが、「lièvres et lapins」については不明】

 野兎の多く棲息している辺りまで三、四里は歩かねばならなかったので、ピトゥもさすがに疲れていた。ピトゥの両足は、一日で歩くべき距離を前夜のうちに歩いていた。おまけに歩き通した十五里のうち最後の四、五里は苦しみに打ちひしがれた人間を運ばなくてはならなかったとあっては、如何に長い足でも重荷に過ぎた。

 午前一時頃、最初に獲れた二頭を持ち帰った。朝が過ぎたらまた別の獲物が獲れればいい。

 眠りに就いたものの、前日にあれほど足を痛めつけたあの苦い苦しみの痕跡が残っていたため、持ち主当人が煎餅みたいだと言っていたとんでもないマットレスの上では続けて六時間しか眠れなかった。

 一時から七時まで眠った。つまり陽射しに寝込みを襲われ、鎧戸が開いていても、眠っていた。

 その開いている鎧戸から、三、四十人のアラモン村民が眠っているピトゥを見つめていた。

 ピトゥは砲架の上のチュレンヌ子爵のように目を覚ますと、村人たちに向かって微笑み、どうしてこんなにたくさんの人たちがこんなに朝早くやって来たのかと、愛想よくたずねた。【※チュレンヌ子爵には、子どものころに砲架の上で眠っていたところを発見されたというエピソードがある。】

 村人の一人が応えた。内容を忠実にお伝えしよう。この男はクロード・テリエという名の木樵だった。

「アンジュ・ピトゥ。一晩中考えたんだが、昨日おまえが言った通り、市民はやっぱり自由のために武装せんといかん」

「確かに言いました」強い口調からは、ピトゥが自分の言葉に責任を持とうとする意思が窺えた。

「だがなあ、武装するにしても肝心なものが無え」

「何でしょうか?」ピトゥは気になってたずねた。

「武器だよ」

「それは確かにそうですね」

「したがせっかくの考えを無駄にしたくねえから、もう一度考えて、何が何でも武器を手に入れるさ」

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