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翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』63-3

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

 だがねぐらに向かっていると十時の鐘が鳴ったのだが、いつもなら蝋燭は消えて村人も眠っている時刻だというのに、家の前には驚くべき光景が待ち受けていた。坐っている者たち、立っている者たち、歩いている者たちがいた。

 誰もが普段とは違う様子をしていた。

 ピトゥはわけのわからないまま、自分が話題になっているのだろうと考えた。

 ピトゥが街路まで来ると、人々ははじかれたように顔を上げてピトゥが来たと囁き合った。

 ――どうしたんだろう?とピトゥは考えた。――そう言えば兜をかぶってないや。

 ピトゥは人々と挨拶を交わしておずおずと部屋に戻った。

 建て付けの悪い扉を閉めてもいないうちに、扉を敲く音が聞こえた気がした。

 ピトゥは布団に入る前も蝋燭を点けない。蝋燭は贅沢品だ。粗末な寝台一つしかないのだから寝床を間違えようもないし、本もないのだから読みようもない。

 だが確かなことはあった。誰かが扉を敲いている。

 ピトゥは掛け金を外した。

 アラモンの若者二人が遠慮なく入って来た。

「何だ蝋燭もないのか、ピトゥ」

「ありません。あったってどうするんです」

「そりゃものを見るんだよ」

「夜目が利くんです。昼盲症ですから」

 それを証明するようにピトゥが挨拶をした。

「今晩は、クロード。今晩は、デジレ」

「おお、確かに俺たちだ」

「ようこそ。何のご用でしょう?」

「灯りのあるところ行こうや」クロードが言った。

「灯り? 月もないのに」

「空の灯りがあるさ」

「話があるんですね?」

「ああ、是非とも話さなくちゃなんねえ、アンジュ」

 クロードは意味深にその言葉に力を込めた。

「では行きましょうか」ピトゥが答えて言った。

 三人は外に出た。

 森の中の開けた場所まで来ると三人は立ち止まった。ピトゥは未だ用件を聞かされていない。

「どうしたんです?」二人が立ち止まったままでいるのを見たピトゥがたずねた。

「なあピトゥ、俺たち二人、俺とデジーレ・マニケでこの村(le pays)を動かすつもりなんだよ。おめえは来るか?」

「目的は?」

「そこだ。目的は……」

「目的は?」ピトゥが背筋を伸ばしてたずねた。

「叛乱さ」クロードがピトゥの耳に囁いた。

「パリの真似ですね」ピトゥは冷やかに応じた。

 森の奥だというのに、その言葉とその言葉のこだまを恐れていたのは事実だ。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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