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翻訳連載ブログ
 「ロングマール翻訳書房」より、翻訳連載blog

『アンジュ・ピトゥ』66-2

アレクサンドル・デュマ『アンジュ・ピトゥ』 翻訳中 → 初めから読む

「神父さんがアラモンの国民衛兵をどう思っているかお聞きになりましたね」村長がピトゥと将校二人に確認した。

「フォルチエ神父は子供だった頃のボクらを見て来ましたから、いつまでも子供のままだと思ってるんです」ピトゥは優しく悲しげな声で答えた。

「だがそのガキも大人になったんだ」マニケがぼそっと呟き、怪我をした手を神父に向かって伸ばした。

「此奴らは蛇だ!」神父はいよいよ激昂した。

「蛇が人を咬むのは攻撃された時さ」今度はクロード・テリエ軍曹が言った。

 村長はこうした反撃に、将来の革命そのものを感じ取った。

 神父は同じものを聞いて殉教を予感した。

「わかった、何が欲しいのですか?」

「欲しいのはお持ちになっている武器の一部です」村長は両者を取りなそうと努めて言った。

「あれは私のものではありません」

「では誰のものだと?」

「ドルレアン公閣下のものです」

「わかりました。でも何の問題もありません」とピトゥが言った。

「問題ないだと?」

「ええ。武器を要求するのに変わりはありません」

「閣下に手紙を書かざるを得まい」神父が厳かに宣言した。

「お言葉ですが神父」村長が小さな声で反論した。「引き延ばしは無益です。ご相談を受けたならば閣下は、敵である英国人の銃に加えて、曾祖父ルイ十四世の大砲も愛国者たちに与えてやれとお答えになるはずです」【※オルレアン公ルイ・フィリップの始祖はルイ十四世の弟オルレアン公フィリップ一世。妻の曾祖父がルイ十四世であるため、ルイ十四世は義理の曾祖父ということになる。】

 神父はその指摘に痛いところを突かれて呟いた。

汝、我ガ敵ヲシテ我ヲ包囲セシメリCircumdedisti me hostibus meis

「その通りですね、先生」ピトゥが言った。「ボクらの敵は、先生にとって都合の悪い愛国者だけですから」

「痴れ者めが!」フォルチエ神父は昂奮のあまり饒舌になった。「非常識な気違いめ! 我々二人のどちらが良き愛国者だというのだ。祖国の平和のために武器を守ろうとしている私か、それとも不和と内戦のために武器を欲している君か? どちらが良き息子だというのだ。母なる故郷を祝ぐためにオリーヴを大事にしている私か、母の乳房を切り裂くための刃を求めている君か?」

 村長は昂奮を隠そうとして顔を背けた。背けながらも神父にこっそりと仕種を送って、「素晴らしい!」という気持を伝えた。

 助役が傲慢王タルクィニウスのように杖で花を薙ぎ払った。【※原文は「nouveau Tartquin」。二人いる王制ローマのタルクィニウス王のうち第五代のルキウス・タルクィニウス・プリスクスに対し第七代の「傲慢王」ルキウス・タルクィニウス・スペルブスを指す。王位につくと政敵を殺害した。また、息子セクストゥスをガビイの町に送り込み、指示を仰がれたときに、罌粟を杖で薙ぎ払ってその意思を伝えたことが『ローマ建国史』に見える。デュマは『ジョゼフ・バルサモ』第104章でもこの逸話を引用している】

 ピトゥは何も言い返せなかった。

 それを見てテリエとマニケが眉をひそめた。

 スパルタ人のように剛毅なセバスチャンだけが動じなかった。

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東 照《あずま・てる》(wilderたむ改め)
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